ボールを追って走り出す瞬間、鍛えられた両腕にぐっと漲る気迫。 プレイヤー達は両手で車いすを操りながら自在にコートを駆け巡る。その一方の手にはラケットが握られたままだ。 さらに、上半身の体幹を使ってショットを繰り出すバランス感覚。 車いすテニ…

ボールを追って走り出す瞬間、鍛えられた両腕にぐっと漲る気迫。
プレイヤー達は両手で車いすを操りながら自在にコートを駆け巡る。その一方の手にはラケットが握られたままだ。
さらに、上半身の体幹を使ってショットを繰り出すバランス感覚。
車いすテニスには、普通のテニスとはまた違う躍動感がある。

9月26日から29日の4日間、大阪市西区にある靱公園で大阪国際車いすテニストーナメントが開催された。
国枝慎吾選手や上地結衣選手の活躍によりメディアに出る機会も増えてきた車いすテニスだが、実際はどのようなスポーツなのか。
車いすテニスプレイヤーの一人である細野直久さんに話を伺った。

快く取材に応じてくれた細野さん

細野さんは東京都在住の車いすテニスプレイヤーで、今年の最高ランキングは24位(2019年5月)。
車いすバスケの経験者でもあり、テニス歴は15年。全国を転戦しているという。
今回は自ら車を運転して8時間かけて大阪入りし、トーナメントに参加。
残念ながら試合は取材前日に敗退してしまったが、今日はテニス仲間の応援のため来場した。

乗るだけでも大変? ~競技用車いすのしくみ~

細野さんのご好意により、競技用の車いすに試乗させてもらうことに。
 
シートに深く腰掛けて身体を複数のベルトでしっかりと固定し、プレイしやすいように車いすと身体を一体化させる。
車いすに乗ること自体はこれで完了だが、乗ろうとしている間も車いすにブレーキはなく、小刻みに動いて不安定だ。
 
「テニス中はボールに合わせて機敏に動く必要があるため、
前後左右にターンができるよう、車いすの回転性を高めるために車輪がハの字についています」
 
車いすの性質上、真横に移動することはできない。
競技用の車いすは車輪がハの字に傾いていることから、片方の車輪を回すだけでスムーズに回転することができる。
また、ハの字型であることによって車いす自身の安定感も生まれ、テニス中の急激な方向転換やスピードにも耐えられるのだという。
 
「通常の車いすでテニスをしようとすると、一瞬で横転してしまうでしょうね」とのことだった。
 
小回りがきく反面、地面のわずかな傾斜や段差にも車輪が反応し、車いすの進む向きが変わってしまう。
公園内にある点字ブロックの上を通り過ぎようとすると、ガタガタと手に振動が伝わってきた。普段、歩いていても全く気づかない段差だ。

テニス競技に特化した車いすは回転しやすい反面、直進し続けるには不向きな仕様となっている。
普通の車いすとしてコート以外の場所でこれに乗るのは細野さんでも大変とのこと。コートに入ってから車いすを乗り換えるパターンが多いそうだ。
つまり、コートまでは片手で自分の車いすを操作しつつ、もう片方の手で競技用の車いすを押して移動することになる。
その点、競技用の車いすはキャリーバッグを載せるためのカート代わりにもなるという、便利な一面もあるらしい。
 
「なるほど」と思ってコートの方を見ると、大会本部のある建物からコートまでの間に短い急な坂があった。
車いすには、車や自転車と違ってブレーキがない。
全力でボールを取りに行けば、自ら全力で車いすを止める必要がある。
スピードを出すのも止めるのも全て自分の力次第だ。
坂があるということは、コートに向かう前に一つの障害物を越えるようなものとも言える。
「いかに車いすを自在に操るか」というのは試合中ではプレイヤーのテクニックが光る重要な要素だが、コートの外では日常に潜む困難があることに気づく。
 
「これでラケットを握るとさらに感覚が違いますよ」と快くラケットも貸してくれた。
小指から中指くらいでラケットを握り、親指の腹をハンドリム(=駆動輪の外側にある操作用の車輪)に乗せる。
障がいの程度によりラケットが握れない場合はテーピングでラケットと手をがっちりと巻いて固定し、そのままの手で車いすを操作する。

ラケットを落とさないよう、腕全体に力が入る

これだけでも十分操作が難しい。
この状態でボールを追いかけながら素早く動き回らなければならない。さらに、ショットの瞬間も足で踏ん張ることができない。
車いすテニスでは、これら全てを考慮してショットを打つことが要求される。

試合に勝つためには、体力だけでなくボールの弾道や返球のコースを見極める冷静な頭脳も必要。
「これが車いすテニスの醍醐味ですね」と細野さんは笑う。

国内車いすテニスプレイヤーの現状

『一般社団法人車いすテニス大会』の公式サイト(http://jwta.jp)によると、
北は北海道から南は福岡まで、また関東方面以外にも熊本や愛媛など、実は各地で車いすテニス大会が開催されている。
さらに、ITF(※)公認の国際大会は全国8か所で開催されており、大阪国際車いすテニストーナメントはITFフューチャーズシリーズ(=国際大会の一つ)に該当する。
これほど日本国内で車いすテニスの国際大会が開催されているとはあまり知られていないだろう。
※ITF…International Tennis Federation、国際テニス連盟

2019年、ノバク・ジョコビッチ選手が初参戦したことで注目を浴びた楽天ジャパンオープンは車いすテニスの大会も同時開催されており、今年は国枝慎吾選手が優勝を飾った。
 
ジュニア大会が創設されたことにより選手層が徐々に厚くなってきたものの、一方で車いすテニス競技者の総人口は決して多くはない。
選手の経済事情も多種多様だ。
大坪洋一さんはクァード(=三肢以上に障がいがあるクラス)の選手で、今大会ではシングルス準優勝、ダブルス優勝という好成績を収めた。9月20日時点のランキングは4位と上位をキープしている。
しかし、全国を転戦することは容易ではない。大坪さんは現在、海外遠征などにかかる経費は全て自費で賄っており、スポンサーを求めて“就職活動中”であるという。

車いすテニスを一緒に楽しむには?~“ニューミックス”の可能性~

健常者と車いすの選手がダブルスを組んで試合を行う「ニューミックス」という種目がある。
車いすならではの躍動感と戦略を同じコート上で体験できるところが興味深い。また、男女の区別もなく出場が可能とのこと。
こちらも全国で大会が開催されており、11月24日にはここ靭公園でもニューミックスの試合が開催される予定だ。
 
車いすテニスのルールは一般的なテニスとほとんど変わらない。
唯一異なる点は、「返球はツーバウンドまで」という点。
逆に言えば、それ以外は同じ土俵に立つことができる。

まずはぜひ一度、車いすテニスの試合を観に行かれてはいかがだろう。

 

▼一般社団法人 日本車いすテニス協会のサイトはこちら
http://jwta.jp/
 
▼こらからの若者をあんたの力で応援するプロジェクトはこちら
https://www.spportunity.com/gunma/team/174/detail/

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ライター:森田 裕子

関西在住。自分が感じた面白さをできるだけそのまま伝えられたらと思います。