競技2日目、シニア男女のFSを迎えた東日本選手権。きょうの演技で、全日本選手権出場の可否が決まる。与えられた枠は、シニア男女それぞれ6つずつ。夢の舞台に向けた争いは熾烈(しれつ)を極めた。手に汗握る混戦の中、早大から出場した永井優香(社3…

 競技2日目、シニア男女のFSを迎えた東日本選手権。きょうの演技で、全日本選手権出場の可否が決まる。与えられた枠は、シニア男女それぞれ6つずつ。夢の舞台に向けた争いは熾烈(しれつ)を極めた。手に汗握る混戦の中、早大から出場した永井優香(社3=東京・駒場学園)が優勝。石塚玲雄(スポ2=東京・駒場学園)は5位につけて、両者とも見事に全日本選手権進出を決めた。


大きく鋭い動きで滑り出した永井

 今季一番の、素晴らしい出来だった。シニア女子FSで永井が演じた、『アディオス・ノニーノ』。切れ味の良い振り付けで滑り出した。まず冒頭のトリプルルッツ、続くダブルアクセル-トリプルトーループをスピード感のある美しさで着氷。どちらも1点以上の加点がつく出来で、コンディションの良さを伺わせた。そのまま流れに乗った永井は、続くジャンプを次々と成功させる。演技中盤、ダブルアクセルからの3連続ジャンプが決まった瞬間は、客席中が熱く盛り上がった。疲れの影響で最後のジャンプが少し乱れたが、ステップやスピンはそれを感じさせない密度の濃いものだった。たっぷりと余韻を残して演技を終えたあとは、少し悔しそうな表情を見せながらも明るく観客に応える。点数は、110.81点。自己ベストまであと1点もない高得点だった。SP3位からの逆転優勝を果たした永井は、東京選手権の、そして東日本選手権の女王として全日本選手権に挑む。この日、快調ぶりが光ったジャンプについて、「練習がよくなかった中でもまあほぼ全部、ジャンプを締めることができた」と振り返った。なかなか調子が上がらずに苦しんだ時期もあったが、復活のときはもうすぐそこだ。全日本選手権を目前にして、永井の輝きがまばゆさを増している。


SPと一味違った表情を見せる石塚

 石塚は、男子FSの最終グループに登場。緊張感が会場を包む中、組内1番滑走でリンクに登場した。冒頭の伸びやかな振り付けで観客を引き込むと、滑らかなスケートであっという間に加速した。トリプルフリップ-トリプルトーループの連続ジャンプなど、難易度の高いジャンプも安定して着氷していく。脚をクロスさせた低姿勢の難しいポジションで滑る部分では、観客席を見渡して広くアピールした。今回、冒頭のルッツ、最後のフリップに乱れが生じた。この出来事が、石塚に火をつける。「ジャンプで失敗した分スピンでなんとか点数を稼いでやろう」という強い言葉の通り、石塚の魅力のひとつである質の良いスピンを存分に見せた。FSに組み込んだスピン3つの全てで最高評価を獲得し、点数にもその心がけが表れた。ミスが出た中でもしっかりと順位をキープし、全日本選手権の出場権を得る。大会全体を振り返り、石塚はSPでスピンのレベルを取りこぼしてしまったことに触れた。「ショートのミスがあってそこでスピンをもっと意識して回転を数えなきゃいけないって気づかされていたので、フリーでそれを重点的にというか、ジャンプの失敗がありながらもそこを意識して回転数をしっかり回ることができました」と話す姿から、ひとつひとつの試合で大きく成長を続けてきた石塚の強さが垣間見えた。

 永井、石塚両者とも、今シーズンの良い流れのままに、12月に行われる全日本選手権への切符を獲得した。今大会で決め切れなかった要素は、来たる舞台に向けての前向きな課題となった。次に控えるのは都民体育大会だ。国民体育大会の予選会である一方、全日本選手権前最後の実戦の場となる。勢いにのる早大フィギュアスケーターたちに、今後も注目だ。

(記事、写真 犬飼朋花)

※掲載が遅くなり、申し訳ありません

結果

▽シニア女子


永井優香 1位 162.43点(FS 110.81点)


▽シニア男子


石塚玲雄 5位 171.86点(FS 110.53点)


コメント

永井優香(社3=東京・駒場学園)※囲み取材より抜粋

――演技を振り返っていかがですか

きのうのきょうなのでどうなることかと思っていました。朝もあまり良くなかったので不安はたくさんあったんですけど、縮こまってもいい演技はできないことはわかっていたので、いい意味で吹っ切れたので良かったかなと思います。練習に比べたらすごく良かったなという印象が一番あって、でもここに至るまでの練習だったりがあまり良くなかったです。これから全日本まで、今年こそはもう痛い目にあいたくないので、もっと気を引き締めて自分に厳しく練習をしていかなくてはいけないなと思いました。

――どの辺りで吹っ切れたのでしょうか

アップから結構「きょうは動けそうかもしれないな」っていう体の感じがあったので、アップからです。

――きょうは6分間練習から意欲的にトリプルジャンプを跳んでいました。きのうより気合が入っていましたか

1本1本集中すれば飛べないジャンプはやっていないと思って、集中できたかなと思います。

――トーループは苦手意識があるのでしょうか

ちょっと苦手意識はあるんですけど、フリーの方ではそんなに苦手意識はなくて、でも今日のは確実に疲れが出てしまったなあという感じです。

――ノーミスが目の前に来て少し気負いましたか

ちょっと気負いはしたんですけど、ループの時点で考えていました。ループで思いながらも一応回っていたので、トーループは確実に疲れです。

――きょう一番良かったことは

練習がよくなかった中でもまあほぼ全部、って言ったらあれかもしれないですけどジャンプを締めることができたので、それは良かったなと思います。

――演技している中でのっていっているように見えました。途中の心境は

きょうはあんまり覚えていなくて、いい意味で。でもジャンプの前は「ここでパンクしたら先生に言われるな」と思いながら、「負けないぞ」じゃないですけど、ちょっと挑戦的な気持ちで飛びに行けたのでそれは良かったなと思います。

――終わったあと先生からどんなことを言われましたか

覚えてないです(笑)。1人で自分が喋っていたような気がします。

――東日本にはどう臨みましたか

(全日本に進出できる人数が)きょねんが3人だったのに比べてことしは6人まで行けるということで、ちょっと気は緩んでいました。まあ痛い目にあうかなとも思ったんですけど、まあまあの演技で負えられたので。演技前に「痛い目にあうかもしれない」と思いながら望んでしまったので、こういうことが今後はないように気を引き締めていきたいなと思います。

――「痛い目にあうかも」と「できる」のように、いつも2つのイメージを持たれている気がしますが

言われてみればそうかもしれないですね。思い込みすぎると良くないかなと思って、常にいろんな想定をしています。

――あえて違う想定をしているのですか

絶対にこれっていうことはないと思うので。同時にいろんなことが浮かんでいるって感じです。

――たくさん練習したからいい演技になるなどは考えず、ひとつひとつの演技を独立させている印象です。その考え方はなぜですか

きょねんの全日本のあとすごく落ち込んでしまって色々な方とお話しさせてもらう中で、結果に対して自分で「これが悪かった」とか「これが良かった」とか評価をつけすぎていることに気づきました。「こうだからこうだった」っていうのは必ずしも正解ではないと思ったので、あんまり結果に対して自分で評価するのはやめようと思いました。

――自分に厳しいタイプですか

多分厳しくないと思います(笑)。甘い。どうなんですかね。スケートに関しては、真剣に思うからこそまだまだ甘いなと思います。

――まだ突き詰めるところがありますか

そうですね。自分の中で、もっとできる想像みたいなものがあるんですけど、そこまではいけていないので、まだ足りないなという感じです。

――一時期ジャンプが決まらないこともありましたが、そういう不安はもうないですか

一番できなかったときに比べたら今はだいぶ跳べていて、あとは本番でどういう気持ちで望めるかっていうのがポイントかなと思っています。

――全日本までに何をどこまで上げたいなどはありますか

やっぱり全日本では、無意識にでもジャンプをスッと跳べるくらいに全種類仕上げていきたいなと思っています。不安になることはあると思うんですけど、今まで練習してきたなって思いながら滑れるようにしていきたいです。

――今季はどんなシーズンにしたいですか

とにかく全試合を楽しんで、笑顔で終われるようにしたいなと思います。

――全日本選手権は、楽しんでやろうという気持ちが強いですか。これぐらいの結果を出してやろうなどはありますか

きょねんは下手くそなりに結果を求めていたんですけど、それで縮こまってしまって。私は多分、今までの感じを見てきて、楽しんで滑った時が一番いい演技ができるので。ただヘラヘラ楽しむんじゃなくて、たくさん練習してきたからこそその特別な舞台で楽しむ権利があると思うので、そういう意味で楽しめればいいなと思います。

――不安なく臨みたいということですか

あ、そうですね。不安があると疲れてしまうので。やっぱり氷の上で滑るっていうのはすごく特別なことだと思うので、その特別なことをさせてもらうことに感謝して楽しめればいいなと思います。

――次は都民体育大会兼国体予選です。意気込みをお願いします。

とりあえずここのことしか考えていなかったので、国体予選ちょっと忘れていたんですけど、全日本前最後の試合になるので、国体予選であることはもちろんなんですけど、全日本に向けていいステップになるように臨めたらいいなと思います。

石塚玲雄(スポ2=東京・駒場学園)

――演技を振り返っていかがですか

練習で何回も何回も、本当にスケート人生の中で一番滑り込んできたプログラムなので、やっぱり夏季フィギュアと同じルッツとフリップをパンク(回転が開いてしまうこと)してしまって「あれちょっと、何やってるんだろうな」って思ってしまいました。でも、きのう(SP)スピンでレベルを取りこぼしてしまっているからこそ、ジャンプで失敗した分スピンでなんとか点数を稼いでやろうと思って。そこらへんはしっかりと、なんとかカバーできたからこの点数が出たのかなと思います。

――このフリーで全日本出場気比が決まる演技でした。気持ちの面ではいかがですか

先週全日本ノービスを見に行って、そこで中田璃士くん、早川潤くん、木村智貴くんの演技を見たんですけど、みんな「見て見て」っていうオーラがすごかったです。だから自分も、」それを今回この東日本でみんなに「見て見て」ってアピールするっていうのをもう決めていたので、いくら緊張があっても、ジャンプ溶かすインとかステップとか全ての動きをそうやって「見て見て」っていう風に意識したら緊張に打ち勝てるというか。自分の中で緊張に勝つことができるんじゃないかなと考えていたので、それを今回見てもらうっていうのがテーマでした。

――試合のときにお客さんまで意識するのは大変ではないのですか

でも、逆に僕がアイスショーとか全日本ノービスとかを見たときに、見てる側ってすごい楽しいなって思ったので、今回自分が演技する側になって見てるお客さんをできるだけ楽しませたいっていう風にすごい思っていました。緊張した中でも、そういうのがどんどんできる選手になりたいなと思いました。

――パンクの原因はありますか

僕の場合、少し試合本番になると、特に冒頭のルッツはそうなんですけど、早くなってしまうことが多くてそれが多分パンクにつながっていると思います。もう少し自分の中で、特に1本目のジャンプは落ち着いて、お客さんに見てもらいながらゆっくり跳ぶぐらいでいいのかなって思いました。

――きのうおっしゃっていた「気持ちが整っていたらジャンプはいつでも跳べる状態」というのも以前の目標でした

ずっと目標にあげてたことなんですけど、この夏というか今年、今シーズンすごい成長できて、それがだいぶ目標じゃなくて当たり前のことになってきています。いまは、さらに上の目標を目指せる状態になってきているなと思います。

――効果のあった練習はありますか

朝練でも、まあちゃんとウォーミングアップはするんですけど、6時からリンク入ったすぐもうどんどんジャンプを跳んでいくっていう練習をしています。朝6時10分からバンバン曲かけをしていたので、そこからいきなりトリプルジャンプを跳んでいましたし、そこでも何回もノーミスの演技ができていたので、まあ今回はちょっと置いておいて(笑)。今後ももっともっといつでもどこでも、本当に朝でも、たとえ朝に試合があったとしても、そういう風にノーミスできるっていう状態を作れる練習をしていきたいと思います。

――これから目標になってくるのはそういう部分でしょうか

そうですね。トリプルがいつでもどんな状態でも跳べるという風になっておけば、そこにトリプルアクセルとか4回転とか、そういうのにも挑戦していけると思うので。そういう状態を作っていって、今度はその4回転とかトリプルアクセルとかが当たり前のジャンプにってできるようになるのが今後の目標になります。

――4回転も練習しているのですか

サルコーを今やっていて、トーループも、東日本の直前はやらなかったですけど何回か練習しています。

――東日本選手権はどんな大会でしたか

今回ショートでスピンのレベルの取りこぼしがあって、そこで少し「あ、スピンをもっと回転数意識してやらなといけない」って気づかされました。今度はフリーになったときにジャンプの失敗があったんですけど、このショートのミスがあってそこでスピンをもっと意識して回転を数えなきゃいけないって気づかされていたので、フリーでそれを重点的にというか、ジャンプの失敗がありながらもそこを意識して回転数をしっかり回ることができました。フリーはショートに助けられ、ショートはフリーを助けるための課題となった試合だったので、フリーと全体で合わせて考えたらすごい色々と自分のためになる試合だったと思います。

――回りながら回数を数えているのですか

そうですね。やっぱり試合本番だと焦ってしまって、早く数えてしまうことが多かったです。だからショートとかはうまく回れなかったりとか、回転数を早く数えてしまったからこそ足りないままチェックしてしまったりしました。でもフリーではそのショートの失敗があったので、ちょっとゆっくり数えようと思ってちゃんとカウントしました。

――何回転なのですか

1つのスピンは8回転を使えるんですけど、そのほかのスピンはいろんな難しいポジションを入れながら4回転ずつ回るようにしています。

――次の都民体育大会に向けての意気込みをお願いします

都民大会も僕の他にもう2人競う相手がいて、その2人っていうのが今回ショートでも僕の上にいた選手で、鎌田英嗣くん(明治大学)と國方勇樹くん(日本大学)なんですけど、その2人に勝たないと国体に出られません。もちろん勝てる練習は正直してきてるので、ここはこのまま突き進むというか、今すごく勢いがある状態なので、どんどんこのまま勢いを増していきたいと思います。

――今シーズンは上向きなシーズンだと思います。ご自身でも実感していますか

そうですね。何が一番実感があるかって、どんどん自分の体を動かすのが楽しくなってきたっていうことです。それはジャンプもスピンもステップもなんですけど、そういうスケートの楽しさというか、フィギュアスケートの魅力っていうものをまた1つ発見できたので、それがそういった勢いにもつながっているのかなと思います。

――全日本選手権に向けての目標を教えてください。

順位的な目標で言うと全日本10位以内です。それは今のジャンプのレベルだと少し難しいと思うんですけど、練習ではトリプルアクセルもすごい良い感じですし、もうあと1ヶ月ぐらいあれば正直いけるんじゃないかなって思っています。本当にもう諦めずそこらへんまでにプログラムに入れる覚悟でいますし、だからこそ10位以内です。そういう数字じゃない目標で言えば、それこそ東京ということで、もう本当に友達とか親戚とかリンクの後輩とかいろんな人たちが見にきてくれるので、みんなに、大観客、大観衆みんなに、全員に見てもらうっていう。とにかく見てもらいたいっていう欲望を、どんどん出していきたいと思います。