ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。し…

ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。しかし、その状況はようやく変わりつつある。着実に成長している若手選手を、その生い立ちや人となりも合わせて紹介していこう。

今回取り上げるのは、プロに転向した2017年から期待され、先日ついに初優勝を飾ったデニス・シャポバロフ(カナダ)。

左利きでバックハンドは片手打ちという特徴的なスタイルと、強力なサーブに積極性あふれるプレーが光るシャポバロフ。雨の中で自分のために傘を差すボールボーイを隣に座らせて語り合ったり、試合後に勝利の“公約”としてコートで趣味のラップを披露したりといったプレー以外の話題にも事欠かない人気選手だ。

プロに転向したのは、2016年の「ウィンブルドン」ジュニアの部でステファノス・チチパス(ギリシャ)やアレックス・デミノー(オーストラリア)を破って優勝した翌年の2017年。すると同年8月に大きな注目を集める。18歳の彼は「ATP1000 モントリオール」にワイルドカードで出場すると、ラファエル・ナダル(スペイン)やファン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)を破って準決勝進出を果たしたのだ。これは、1990年に始まったマスターズにおいて史上最年少でのベスト8&ベスト4だった。

続いて参加した「全米オープン」では予選を勝ち上がって本戦に進み、当時世界12位のジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)らを破ってベスト16。若手としては、1989年大会で17歳だったマイケル・チャン(アメリカ)がベスト16入りしたのに次ぐ記録だった。そして10月にはトップ50の壁を破り(49位)、ナダルが同じく18歳だった2004年11月に記録して以来の最も若いトップ50の選手に。シーズンが終わるまでに「レーバー・カップ」と「Next Gen ATPファイナルズ」にも出場し、2017年のATPアワードでは「最優秀新人賞」と「最も上達した選手賞」の2冠を達成した。

しかし、プロ1年目に鮮烈な印象を残したことで、周囲の期待の高さとその反動に戸惑うこともあった。2018年シーズンは、12勝14敗だった前年より勝率も上がり(35勝28敗)、順位も1年前の51位から27位へとアップしたにもかかわらず、右膝の怪我や疲労で一部の大会を欠場したためか、目立った金星がなかったためか、記者から「うまくいかなかったシーズン」と見なされることが多かったという。だが、本人はそんな声に惑わされることなく、「僕はまだ19歳で、着実に上達している。焦らずに、自分のペースで歩んでいくよ」と冷静だった。

2019年3月の「ATP1000 マイアミ」でステファノス・チチパス(ギリシャ)やフランシス・ティアフォー(アメリカ)を破ってベスト4まで進み、20歳の誕生日を迎える2週間前にキャリアハイの20位をマーク。その直後の大会から「ウィンブルドン」までの9大会のうち7大会で1回戦敗退と、悪い流れに陥ってしまうが、ここで少し休みを取り、テニスの楽しさを再発見することに成功。「それ以降は、違った形でプレーできているし受け取り方も変わった」と説明する。

さらに8月には、元世界8位のミカエル・ユーズニー(ロシア)をコーチに招聘。シャポバロフは5歳の時から母親のテッサに教わっているが、2018年まで現役だったユーズニーからは試合への臨み方やプレー中の注意事項で教わることが多いそうだ。

シャポバロフがなかなか優勝できなかったのは、準決勝で過去7度敗れていたからだが、10月20日に「ATP250 ストックホルム」で初めて進出した決勝に勝利。シーズン当初に「最優先するもの」として挙げていたツアータイトルを手にした。

ビッグ3の残る2人、フェデラーとジョコビッチにはまだ勝ったことがないものの、彼らとの対戦を「楽しかった」と言う一方、「僕にはまだまだ伸びしろがあって、能力的には四大大会の優勝を争ったり、トップ10に到達することも可能だと思う。とにかく世界最高の選手になりたい」と自信も覗かせる。

そんなシャポバロフの強気の姿勢は、ジョコビッチにも評価されている。世界1位はプレーの完成度の高さを称えるだけでなく、「メンタル面もいいね。いつも自信を持ってプレーしている」とコメント。またナダルも、自分たちビッグ3にいずれは取って代わる若手の有力候補として、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)とともにシャポバロフの名前を挙げている。

ちなみに、シャポバロフの試合を見たことがある人は、彼の陣営に飾られている狼のぬいぐるみを知っているだろうか?これは、シャポバロフが歯をむき出して戦う自分を狩りをする狼に喩えているからであり、ストームという名前のぬいぐるみはその象徴だという。

「2017年は大きな大会で結果を出してランキングが急浮上したけど、実のところ僕自身のテニスはそれにふさわしいレベルじゃなかった。派手で大味なプレーだから、浮き沈みが激しかったんだ。だから数年かけて他の部分を強化し、よりバランスの取れたプレーができるようになった」と語るシャポバロフは、11月5日に開幕する「Next Gen ATPファイナルズ」への出場が決まっている。カナダからやってきた若き“狼”の本格的な狩りがいよいよ始まりそうだ。

(テニスデイリー編集部)

※写真は「ATP1000上海」でのシャポバロフ

(Photo by TPN/Getty Images)