慶大バスケ部は他のチームに比べしばしば、「高さのない」チームと言われる。確かに秋のリーグ戦でも、留学生を多数擁するチームとの対戦時にゴール下で失点する場面が多く見受けられる。バスケットボールという競技の特性上、身長の高い選手が有利なのは紛れもない事実だ。高さは、慶大にとって見過ごすことのできないウィークポイントであり、しばしば勝負を分けるポイントとなる。そんな慶大を支える大黒柱が、工藤翔平(政4・慶應)だ。

184㎝、84㎏の堂々とした体格で相手とマッチアップする工藤。だが、工藤のプレーを一目見れば気付くことがある。プレースタイルがいわゆる「センター」でないのだ。工藤の得意とするプレーは3ポイントとスティール。普通ならポイントガードが得意とするようなそのプレースタイルで、チームの流れを変え、勝利に導く。それが、“工藤翔平“というプレイヤーだ。


自らインサイドへ切り込む場面も

工藤は一貫校の慶應義塾高校の出身。大学バスケ部のHCも務める阪口部長の下で3年間厳しい練習を積んだ。しかし高校を卒業し大学へ入学した当初は、体育会でバスケを続けるつもりなど「さらさら無かった」という。だが多くの学生と同じようにサークルを探しても、「0か10で言ったら0か1か2しかなかった。7、8くらいを探してたんですけど」と違和感を覚えた。学生コーチに誘われ、体育会バスケ部の練習に見学へ行ったのはそんな時だった。チーム全体が同じベクトルで動く姿、真面目さ、そして一人一人のチームに対する意識に工藤は突き動かされた。もちろん、体育会へ入れば簡単に試合に出られないことは分かっていた。だが、自分自身が成長したいという思い、そしてたとえスタッフになっても、色々なものを犠牲にしてでも、このチームでバスケをしたい、チームに貢献したいという思いが“10”であるバスケ部への入部を後押しした。


留学生センターにも屈しない

入部して間もない1年生の役割はチームのサポート。工藤も準備や応援といった役回りだったが、「高校の時は正直、自分が試合で活躍して勝つことが一番嬉しかったけど、大学ではチームが勝つことが一番嬉しくなった」と自身の中での意識の変化を感じたという。2年時に新人戦でスタメン出場を果たすと、秋には短いプレータイムではあったがリーグ戦デビューを遂げた。そして3年生での秋のリーグ戦、2年時に比べて増したプレータイムの中で工藤は着実に成長を遂げていった。2周目の江戸川大戦など、自身のプレーがチームの勝利に貢献できていることを感じ、手応えを掴んだ。大学入学当初は理想とする選手像に悩み、先輩たちのプレースタイルを真似たこともあったというが、自分は自分。「組み合わせて自分の長所を生かしていこう」と考え、工藤自身のプレースタイルを貫いてきた。

最高学年となりスタメンに定着した今、「澤近(智也、H30環卒)さんを始め、4年生にすごく自分が甘えていた」と昨年を振り返る。そして、インサイドの得点源を失った中でどう自分が引っ張るかを模索した結果、「澤近さんの真似をするんじゃなくて、自分の長所を生かす」ことに行き着いた。持ち味である3ポイントでの得点力を発揮しつつ、時にはセンターらしいフィジカルを生かしたプレーで得点を積み重ねる。今年新チームが発足してから言われ続けてきた「山﨑(純、総4・土浦日大)、髙田(淳貴、環4・城東)以外の得点力」としての自覚を持ち、厳しいチーム状況の中奮闘を続けている。


外からのシュートも精度を上げた

そんな工藤、プレーする上での信条は「一生懸命にやる」こと。一見簡単そうに思えるが、「塾高から上がってきた自分は決して上手くもないし活躍してきたわけでもない。だからこそリバウンドやルーズボールなど泥臭い部分では絶対に負けない」と熱い思いを込めた言葉だ。チームメートの蛇谷幸紀(環1・近大付属)が工藤を、「飛び抜けて自分を追い込める人」と語ったように、毎日の地道な努力の積み重ねで這い上がり、「想像すらしていなかった」というスターティングメンバ―を勝ち取った。そしてひとたび試合に出場すれば人一倍の運動量でコートを駆け回る。その姿はセンターというポジションを忘れさせるほどだ。


早慶戦勝利を高校時代から共に闘う鈴木学生コーチと喜んだ

秋のリーグ戦も後半戦に入り、残すところあと10試合。今思うこと、それはひとえにチームへの貢献、そしてチームへの還元だ。「今自分がいるのは先輩、同期、後輩など、周りの環境のおかげ。先輩たちに活かしてもらったことを今度は自分がチームに残したい」と、チームへの“恩返し”を誓う背番号6。岩片悠馬(環3・広尾学園)、蛇谷などチームにはセンターの有望な後輩も多い。だからこそ、自分が経験してきたことをプレーで表し、チームに還元する。豪快な3ポイント、試合の流れを大きく変えるスティール、そして泥臭くも猛々しいプレー。全てはチームのために、工藤が悩み抜いた末導きだした答えなのだ。誰よりもチームのことを考えプレーし続けてきた男の最終章に是非、注目してほしい。

(記事:染谷優真)