文=神高尚 写真=Getty Images

ラウリー、ガソル、イバカが若手を支える新体制に

2018-19シーズンにNBA初優勝を果たしたラプターズですが、オフの最優先事項だったカワイ・レナードの残留に失敗し、史上初めてファイナルMVPを失うチャンピオンチームになってしまいました。同じくスターターだったダニー・グリーンも移籍を選び、チーム再編を迫られる新シーズンとなります。これまでのベースがなくなるため苦戦が予想されますが、もともとレナードがフリーエージェントになればロサンゼルスに行くと予想されていただけに、そのチーム作りはプランBへとスムーズに移行しました。

カイル・ラウリーとマルク・ガソルのベテランスターが組み立てるチームオフェンスが中心となりますが、30代の選手はサージ・イバカを加えた3人だけ。その他の選手は26歳以下で、要所をベテランが締めながら、若手たちにプレー機会を与えるロスター構成に変えてきました。ラプターズのプランBとはMIPを獲得したパスカル・シアカムやOG・アヌノビーといった若手を主軸に、チーム力を落とすことなく再整備していくことです。

ファイナルでは平均19.8得点のシアカムは、確率が向上してきたコーナーからの3ポイントシュートを使ってディフェンスをアウトサイドに引き付け、空いたインサイドをスピードと得意のスピンムーブで攻略していくシンプルなアタックが持ち味です。ディフェンスがレナードへのカバーを優先し、ラウリーとガソルによるプレーメークがあってこそ大きな効果を発揮するプレースタイルでしたが、新シーズンはエースとしての役割を求められ、マークが厳しくなる中でワンランク上のプレーをできるかが問われます。

ルーキーシーズンはコーナーからの3ポイントシュートとディフェンスを役割としていたアヌノビーは、2年目の昨シーズンはベンチメンバーのエースという役割を担いました。そのプレーは成長を感じさせる部分もあったものの不安定さも見せ、病気でプレーオフに出場できなかったこともあり、レナードの影に隠れる存在でした。ロールプレイヤーとして良いプレーができても、中心選手として同じ水準のプレーができるとは限りません。新シーズンは攻守に絶対的な活躍をしていたレナードまでの成長とは言わないまでも、特にディフェンス面についてはアヌノビーがエースキラーとしてプレーすることが求められます。

シアカムとアヌノビーに共通する「エースとしての独り立ち」が若手たちのテーマとなりますが、いきなり全てを背負う必要はなく、苦しい場面ではラウリーやガソルがベテランスターとして支える構図です。若いスター候補にすべてを託す再建チームもありますが、ラプターズはすでにラウリーのポイントガードとしての役割をフレッド・ヴァンブリートへと受け継がせる形ができており、勝者のメンタリティを失うことなく若手の成長を待つことができます。

ラプターズは提携するGリーグで経験を積ませて素材型の若手を育てるのが上手く、下位指名でもスタータークラスの選手を次々に輩出する育成上手です。それぞれの成長をうながすための役割を与え、またプレーのデータ分析もいち早く取り入れて、確実に戦力化してきました。新たなオールスタークラスの選手を育て上げるのが新シーズンの目標になるでしょう。

その一方でオフの補強では、シアカムとアヌノビーのライバル的な存在であると同時にエースを支える役割も担うロンディ・ホリス・ジェファーソンとスタンリー・ジョンソンという若手実力者を補強しました。これでウイングの層が厚くなり、スモールラインナップでの戦い方に幅が出ます。セカンドユニットの強さに定評があった2シーズン前のようにベンチメンバーの充実化もチームを支えてくれそうです。

とはいえ、新加入の選手も多く、まずは日本でのプレシーズンゲームで様々なユニット構成を試すことになるでしょう。ヘッドコーチのニック・ナースもスターターを固定しない方針を打ち出しており、シーズンを通して競争の中で成長をうながすことになりそうです。

本来はレナードの抜けた穴に大物フリーエージェント選手を獲得したかったでしょうが、勝負のシーズンとして戦力を揃えた昨シーズンの反動もあってサラリーキャップに余裕がなく、大きな一手を打てませんでした。しかし、それもレナード獲得当初から準備していたシナリオのはず。チームの基盤は維持したまま、次の世代に移行するためのシーズンと考えているはずです。

ガソルやイバカについてはシーズン中のトレードも考えられますが、シアカムかアヌノビーがオールスタークラスに成長できれば、チーム内の役割を再調整し、プレーオフでの番狂わせも狙えます。シーズン序盤は我慢しながら若手の成長を信じ、優勝経験が生かした戦い方ができるところまでレベルアップした時には、また楽しみなチームになっているはずです。