次代のジャパンを担う若きリーダーが、地元で錦を飾った。 19-12で迎えた後半13分、FWとBKが一体となってNo.8(ナンバーエイト)姫野和樹(トヨタ自動車)が左腕で抱えたボールをグラウンディングし、ワールカップ初トライを決める。その直…

 次代のジャパンを担う若きリーダーが、地元で錦を飾った。

 19-12で迎えた後半13分、FWとBKが一体となってNo.8(ナンバーエイト)姫野和樹(トヨタ自動車)が左腕で抱えたボールをグラウンディングし、ワールカップ初トライを決める。その直後、約4万人の観衆が集ったスタジアムに、「ヒメノ、ヒメノ」という姫野コールが鳴り響いた。



チームメイトのトライに抱き寄せて喜ぶ姫野和樹

「最高でしたね! 地元から愛されているのを実感しました!」

 姫野はトレードマークの大きな笑顔を見せた。

 10月5日、ラグビー日本代表(世界ランキング8位)はワールドカップ予選プール3戦目でサモア代表(同15位)と対戦した。前半から相手のフィジカルに苦戦したが、最終的に38-19で勝利して3連勝。その試合でMVP級の活躍を見せたのが、愛知県出身の姫野だった。

 試合前、姫野は冷静にサモア戦を分析していた。

「サモア代表にはフィジカルで負けない自信がある。そこが僕の仕事。アイルランドに勝って気持ち的におごる傾向にあるので、目の前のプレーひとつにフォーカスして準備してきた」

 サモア代表はこの試合、ボーナスポイントを取れずに負けたら決勝トーナメント進出が潰える。前半、日本代表はその勢いに押され、接点で後手を踏んで16-9とやや苦戦してしまう。

「前半は自分たちの形に持っていけないことがあった。サモア代表に接点でプレッシャーを受けていたこともそうですし、自分たちの反則が多くて流れを掴めないところがあった」(姫野)

 ハーフタイムには、規律を持ってプレーすること、ブレイクダウンの質を上げることを話し合った。しかし、その悪い流れも後半最初は断ち切れず、後半5分に相手のCTB(センター)ヘンリー・タエフにPG(ペナルティゴール)を決められてしまい、16-12と4点差に迫られる。

 このままでは、4トライ以上のボーナスポイントどころか、勝利も危うくなるかもしれない……。そんな嫌な空気が漂った。

 そんななか、後半10分に姫野が低い姿勢ながらしっかりと立ち、相手ボールを奪う「ジャッカル」を成功。そのプレーが相手の反則を誘い、SO(スタンドオフ)田村優(キヤノン)がPGを決めて再び7点差(19-12)とした。

 そして前述した、後半13分の姫野のトライ。最後はBKの3人も加わって押し込んだ。「みんなにトライを取らせてもらいました。ワールドカップで初めてトライ取ったけど気持ちいいですね!」(姫野)

 さらに姫野は、後半20分にも自陣ゴール前でジャッカルを決めて相手の勢いを止めた。試合後、姫野は「チームがピンチの時にチャンスに変えるようなプレーを心がけているので、ジャッカルが2発、決まってよかった!」と胸を張った。

 この後半10分からの10分間、姫野の大車輪の活躍で一気に日本ペースとなった。

 日本代表は後半35分、途中出場のWTB(ウイング)福岡堅樹(パナソニック)がトライ。そして、ラストプレーとなったゴール前で姫野がスクラムからゲインし、その直後のラックからWTB(ウイング)松島幸太朗(サントリー)が4トライ目を挙げて38-19で勝利した。日本代表はボーナスポイントを含む勝ち点5を挙げてプールA首位に立ち、ベスト8進出に大きく前進した。

「ボーナスポイントを取りたくて、みんなあきらめずにスクラムを押してくれた。サモアが(7点差以内の敗戦の)ボーナスポイントを狙う意地を見せてくれたし、本当にいい試合だったなと思います」(姫野)

 25歳ながら日本代表の中軸を担う姫野は、小さい頃から野球やバスケットボールなどさまざまなスポーツを経験し、名古屋市立御田(みた)中でラグビーに出会った。「ラグビーをやってみて、一番しっくりきた。人に思いっきり当たって、ひっくり返して、純粋に楽しいと思った。自分の身体を最大限に活かせる」(姫野)。

 高校は地元の強豪・春日丘(中部大春日丘)に進学し、1年時から花園で活躍。高校3年時は飛び級で、U20日本代表や日本代表に準じるジュニア・ジャパンにも選出された。

 そして、ついに帝京大1年の2013年7月、日本代表を率いていたエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ/現イングランド代表HC)の菅平合宿メンバーに選ばれる。だが、初日の練習で左足甲の中足骨を骨折して離脱。そのケガが長引き、その後の代表合宿に声はかからず、大学でも試合に出られない日々が続いてしまった。

 転機となったのは、トヨタ自動車に入社して1年目からいきなりキャプテンに任命されたことだ。2007年のワールドカップで南アフリカ代表を率いて大会を制した名将ジェイク・ホワイトHCが「帝京大出身の選手は勝ち方を知っている」という理由で、姫野をリーダーに抜擢した。

 そこからの姫野は、見事な成長曲線を描いていく。

 トップリーグでは新人賞に選ばれる活躍を見せて、2017年秋にジェイミー・ジャパンに初招集。11月4日のオーストラリア代表戦で初キャップを獲得し、さらには初トライも挙げた。さらに、2018年のサンウルブズでは11試合に出場し、一気にインターナショナルレベルを体感する。

「サンウルブズの経験はすごく大きかった。毎週、最高のレベルで試合ができ、自分の強みのボールキャリーに磨きがかかった。ブレイクダウンの部分でも絡む場面も多く出てきたし、強いタックルができるようになった。社会人になった当初とは、別の選手になっているんじゃないですかね? 今は自信満々です」(姫野)

 社会人になってからの2年間が、姫野を大きく成長させた。そしてワールドカップで、その成果を最大限に発揮したというわけだ。

 10月13日、日本代表はスコットランド代表戦を迎える。姫野は「必ず勝ちたい。勝ちます!」とキッパリと言い切った。

 大舞台でさらなる進化を遂げている姫野は、スコットランド代表戦でも勝負どころでジャッカルを決めてくれるはずだ。