取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎2017年にB1昇格を果たすも、2017-18シーズンには11勝49敗と18チーム最下位の成績でB2へと逆戻りした島根スサノオマジック。1年で再昇格を果たしたが、ここからが本当の挑戦となる。キャプテン…

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

2017年にB1昇格を果たすも、2017-18シーズンには11勝49敗と18チーム最下位の成績でB2へと逆戻りした島根スサノオマジック。1年で再昇格を果たしたが、ここからが本当の挑戦となる。キャプテンの役割は佐藤公威から新加入の山下泰弘へ引き継がれたが、この2人が若い島根に進むべき方向を示し、引っ張って行かなければ、B1残留を勝ち取ることは難しい。佐藤は熱血漢、山下は温和とタイプは異なれど、どちらも頼りになるリーダーだ。島根の浮沈を左右するキーマン、2人の『兄貴』にシーズン開幕へ向けた意気込みを聞いた。

島根を引っ張る兄貴、山下泰弘&佐藤公威(前編)「ベテラン選手のあるべき姿を」

山下「最初は見た目的にちょっと怖いのかと(笑)」

──チームを引っ張るリーダーというイメージが強い2人ですが、そのタイプは対照的といった感じがします。同じチームになるのは初めてですが、これまでお互いをどう見ていましたか?

佐藤 高校、大学、東芝の天皇杯と、リーグが2つあった時代も僕はもう一つのリーグも気になっていたから、彼のプレーはずっと見ていました。すごくコントロールするガードという印象で、だけど映像でしか見たことがなくて会う機会もなかったです。でも会ってみたら、映像で見ていたとおり堅実な好青年で、一緒にプレーできることになって安心感がありますね。

山下 シュートが上手い、3ポイントがすごく入る選手で、あとはリーダーシップがすごくあると思っていました。昨シーズンだと若い選手が多いチームを公威さんがすごくリードしていた印象です。昨年のアーリーカップが島根だったんですけど、キャプテンとして参加したチャリティイベントで初めてしゃべったんですよね。最初は見た目的にちょっと怖いのかと(笑)。

佐藤 怖そう、って結構言われるんですよ。そんなことないんですけどね。

山下 当時は髪を後ろで縛っててサムライみたいな感じだったから(笑)。でも優しく話し掛けてくれて、「ああ良い人だ」と思ったのが第一印象です。僕が島根に行くことが決まった時に一番最初に連絡をくれたのも公威さんで、食事に誘ってくれたんですよね。僕は正直、島根の選手とそれほど交流があるわけじゃなかったので、その気遣いはありがたかったです。

──2人とも熱いリーダーですが、タイプは異なりますよね。

山下 今は公威さんはチーム最年長に近いベテランという立ち位置なんですけど、それでも一番最初に来て一番最後に帰る選手です。練習前の準備、練習で常にチームを盛り上げたりまとめたり、練習後の自主練も若手を引っ張ってドリルをやったりトレーニングしたり、これがベテランのあるべき姿ですよ。ベテランの選手があぐらをかくんじゃなく、率先して後輩たちのお手本になる行動を見せています。

佐藤 それは僕自身の戒めなんだけど、この年齢であぐらをかいてたら、チームにとってはただの目の上のたんこぶですから。そうなりたくないといつも思っています。僕がヤスを見て思うのは「いつも適切だ」ということです。僕はすぐ熱くなっちゃうタイプなので見えづらいこともあるんですが、ヤスと話すと一歩下がって見るどころか三歩ぐらい下がって客観的にチームを見ているので、そこはいつも感心します。

佐藤「シーズンに入ればもっと分かるはず」

──プレーについても教えてください。佐藤選手から見て、山下選手が加入したことで島根のプレーの幅がこう広がるんじゃないか、ここがやりやすくなる、という期待はどこですか?

佐藤 ポイントガードはボールを奪われないことが第一条件です。しっかり持って行く、コントロールするという点で素晴らしいスキルを持っているから、そこは何の心配もありません。ヤスは球離れが良いから、シェア率がだいぶ上がっています。本人も分かっていると思うけど、結局ボールは最後に自分のところに回って来るじゃないですか。それまでに散らすからみんながボールに触れて、シューターなんか特にボールに触ってないと不安なんですよ。ヤスはそこで安心感を与えてくれます。

山下 それはガードとしてすごく意識しているところです。全員でのボールシェアが僕のプレースタイルなので。ただ、ここまでケガ人が多くて5対5の練習があまりできていなくて、微妙なタイミング、パスの位置といったプレー面のすり合わせを今まさにやっているところです。今もフォーメーションが追加されていく中で、このフォーメーションの時はキミさんに打たせたい、インサイドにやらせたいという判断を自分の中で整理しているし、それがみんなで理解できるようになればバンッとハマるプレーが出てきます。

佐藤 やっぱり意思疎通が普段からできているから、今いろいろ分かるようになってきて、シーズンに入ればもっと分かるはずだから楽しみなんです。オフコートで全く接することがないと、バスケをやってても上手く噛み合わないじゃないですか。だからこういうのが大事かなと。B2に落ちた時も、僕の年齢が上で間が空いてて、トライしたけど悩んだ時期もありました。ヤスが来てくれたことで、若手とのかかわり方も新しく覚えられました。プレー以外に分かっていることが多いから、プレーでも分かり合える。そういうことが構築されていると感じます。

山下「自分が良ければいい、じゃなく全員で助け合う」

──チームが始動して合宿をしてアーリーカップがあって、ここから開幕に向けた最終調整となります。ここまでの過程でチームとして「ここは向上した」と感じる部分はどこですか?

山下 鈴木裕紀ヘッドコーチが自分勝手なプレーとか怠惰なプレーを嫌って、チーム全員が同じ方向を向くために努力されるコーチなので、いろいろ指摘されて一つの方向が向けるようになりました。自分の調子が良ければいい、じゃなく全員で助け合って、調子の悪い選手を助ける、という考え方も合宿で深まったと思います。戦術面での約束事もできたので、チームとしてはレベルアップできていると思います。

──2人とも新潟と福岡という地元から島根に移ってきたわけですが、居心地はどうですか?

佐藤 都会すぎず、田舎すぎず。地方ではあるんですが集まる場所もあるし、でもそれ以上にやりすぎることのない地域ですね。

山下 バスケットに集中できる環境が整っていて、バスケのことを考える時間が長くなっています。驚くのは地域密着で、スーパーに行ってもコンビニに行っても「島根に来てくれてありがとう」とか「頑張ってください」と声をかけてもらっています。まだ加入したばかりで試合もしていないのに、この注目度はすごいと思います。

佐藤 本当に島根の人たちは選手によく気が付きます。ありがたいことですよ。

島根を引っ張る兄貴、山下泰弘&佐藤公威(後編)「ディフェンスで勝つチームに」