対抗走幅跳には2人の4年生がエンジのユニホームをまとい、競技に臨んだ。中村健士(スポ=東京・調布北)と髙内真壮(スポ=栃木・作新学院)である。2人にとって今年の早慶戦は特別な一戦となった。実に5年ぶりの直接対決だったのである。早慶戦の対抗…

 対抗走幅跳には2人の4年生がエンジのユニホームをまとい、競技に臨んだ。中村健士(スポ=東京・調布北)と髙内真壮(スポ=栃木・作新学院)である。2人にとって今年の早慶戦は特別な一戦となった。実に5年ぶりの直接対決だったのである。


早慶戦の対抗走幅跳で、実に5年ぶりに直接対決となった髙内(左)と中村

★最初は高1の国体

 お互いを「けんじ」、「まお」と呼び合うほど仲の良さがうかがえる2人。その出会いは高1の国民体育大会にまでさかのぼる。少年男子B走幅跳で、中村が7メートル20の2位。4センチ差で髙内が3位に続き、共に表彰台に登った。その後も何度か試合を共にして、高2の日本ユース選手権では髙内が5位で、7位の中村を上回った。

 インターハイ路線では地区こそ違えど、高3時には北関東大会に髙内が優勝、中村は南関東大会3位で、そろって全国大会へと出場。頂上決戦の舞台となった和歌山インターハイで中村は決勝に進出し、10位に入った。

 高校卒業後、2人はともに早大スポーツ科学部に進学。ただ、髙内は競走部、中村は陸上同好会で競技を続けた。「競走部には体験にも行きませんでしたね」と中村は言う。

 専門種目も分かれた。中村は走幅跳をメインに据えたが、高いスプリント能力も兼ね備える髙内は、短距離に主戦場を移した。

 2人の邂逅(かいこう)は突然にやってきた。日本ジュニア選手権入賞や関東選手権優勝など、同好会の選手とは思えないほどの成績を残してきた中村。だが、同好会に籍を置くうちに募ってきたのは、「もっと試合に出て強い選手と戦いたい」という強い気持ち。さらなる高みを目指して、中村は2年の冬に競走部に入部した。こうして2人は、所属するブロックは異なるものの、ともに早大のグラウンドで練習するようになった。


今大会で競技を引退する中村。学生の域にとどまらず、シニアの試合でも活躍した

★5年ぶりの直接対決は偶然に

 中村は関東学生対校選手権や日本学生対校選手権で入賞、髙内も3、4年と東京六大学対校大会100メートルに2年連続2位など、それぞれの種目で活躍した2人。一緒に試合をすることなど、意識すらなかっただろう。だがその機会は偶然訪れた。早慶戦の対抗走幅跳に中村はもちろんだが、急きょ髙内も出場することに。ここに高2の関東高校新人選抜以来、5年ぶりに同じピットに立って行う一戦が実現したのである。

 試合は、中村が自己記録7メートル75の跳躍力を存分に発揮して、7メートル48で連覇。悪い感覚に陥った前週の日本学生対校選手権から修正し、勝ち取ったタイトルだった。一方の髙内は7メートル31をマークして2位に。大学2年秋ぶりのジャンプは、従来の自己記録を6センチ更新するものだった。「7メートルは跳べる自信はありましたが自己ベストまで行くとは思っていませんでした」。自身もびっくりの好記録だった。この跳躍を後ろから見ていた中村も「7メートル!?そんなに跳んでるの」と驚いた。跳躍後、チームメイトや欠畑岳短距離コーチなどから祝福を受けた髙内。ピットの周りでは、一番の盛り上がりを見せた。


髙内にとって2年ぶりの走幅跳。そして自己記録更新は5年ぶりだった

 5年ぶりの直接対決を終えた2人。ラストエンジを優勝で飾った中村は、今大会で競技を引退する。「自分にとって一番長い2年間だったと思う」と競走部での競技人生を振り返った中村。記録面では8メートルの大台こそ届かなかったが、対校戦にとどまらない活躍を見せた。今年の日本選手権では7位に入り、同好会の時に抱いていた『日本選手権入賞』を達成。入部以前は指導者から教えを受けたことがなかったそうで、「自分がうまくやれるのか」と不安に感じることもあった。それでも「仲間に恵まれて」、この日を迎えることができた。「記録だけ見たら後悔はあるかもしれないけど、陸上人生の最後で真壮と一緒に跳べたし、自分の中では楽しくできたかな」。最後は中村らしく、笑顔で締めくくった。

 「個人の種目を走幅跳で、しかもエンジを背負って締めくくれたのはすごく感慨深いものがあります」。一回一回の跳躍をかみ締めた髙内。そして、「自分らしい終わり方をしたな」とも振り返る。「チームを盛り上げようという思いがあって。皆に喜んでもらったのはすごくうれしかったです」。最上級生らしい、組織の先頭に立つ姿勢を体現してみせた。

 髙内には、エンジを着る機会が日本選手権リレーにも残っている。4×200メートルリレーで、チームが日本新記録でゴールした後、「俺も走りたかったな」とポツリとつぶやいた髙内。1年時から4×100メートルリレーのメンバーに名を連ねてきただけに、バトンをつなぎたい思いは人一倍強かったに違いない。日本選手権リレーでは「全員で表彰台に上がる」のが目標。後輩たちのサポートをしながら、自らもチームの一翼を担う。そうして、エンジで戦う本当に最後の試合に臨んでいくつもりだ。


髙内は欠畑短距離コーチから祝福を受け、固い握手を交わした

 個人競技を走幅跳に始まり、走幅跳に終えた2人。ピットからは離れるが、長い人生において、現在はまだ助走の途中に過ぎない。今までの競技生活を踏み台に、これからもっともっと高く飛躍していくはずだ。

(記事、写真 岡部稜)