熱戦が続くラグビーワールドカップも6日目、9月25日(木)は東北のラグビータウン、釜石でフィジー代表対ウルグアイ代表の一戦が行われた。 かつて日本選手権を7連覇した、「北の鉄人」新日鐵釜石(現・釜石シーウェイブス)の本拠地だが、2011年の…
熱戦が続くラグビーワールドカップも6日目、9月25日(木)は東北のラグビータウン、釜石でフィジー代表対ウルグアイ代表の一戦が行われた。
かつて日本選手権を7連覇した、「北の鉄人」新日鐵釜石(現・釜石シーウェイブス)の本拠地だが、2011年の東日本大震災で多くの犠牲者を出した。釜石鵜住居復興スタジアムは、ワールドカップのために今大会で唯一新しく作られたスタジアムで、津波で全壊した小中学校の跡地に建設された。復興の願いを込めたワールドカップがついにキックオフを迎えた。
フィジー代表は21日に札幌でオーストラリア代表と初戦を行い、途中までリードしていたが、21−39で敗れている。中4日での試合とあってか、第1戦からキャプテンのFL(フランカー)ドミニコ・ワンガニプロトゥ、No.8(ナンバーエイト)レオネ・ナカラワ、CTB(センター)セミ・ラドラドラの3人以外先発メンバーを入れ替えて臨んだ。
一方のウルグアイ代表はこれが開幕戦となる。キャプテンのFLファン=マヌエル・ガミナラを中心に、フランスでプレーするSO(スタンドオフ)フェリペ・ベルチェシ、CTB(センター)アンドレス・ビラセカらが先発した。
スタジアムには14,025の人が詰めかけ、名物の大漁旗も振られていた。この試合には秋篠宮ご夫妻もご臨席された。
国歌斉唱の前に、津波で犠牲になった人たちのために黙祷が捧げられた。そしてフィジー代表のウォークライ、「シンビ」の後、試合が始まった。
やはり実力に勝るフィジー代表が序盤から優勢に試合を運ぶ。スクラムでペナルティを獲得し、敵陣22メートル内に入っていく。
7分、ラインアウトからFWがドライビングモールで押し込み、最後はHO(フッカー)メスラメ・ドロコトがトライ。SOジョシュ・マタヴェシのゴールは外れたが5−0とフィジーが先制する。
しかし、13分、フィジー代表の連携ミスからウルグアイがボールを拾い、SH(スクラムハーフ)サンチャゴ・アラタが走りきってトライ。SOベルチェシのゴールも決まって5−7とウルグアイが逆転する。
18分、フィジーはウルグアイのディフェンスの間を縫うように左右に展開し、最後はラックからPR(プロップ)エロニ・マウイがトライ。SOマタヴェシのゴールも成功して、12-7と再びフィジーが逆転する。
しかし、ウルグアイも負けていない。21分、ラインアウトからNo.8マヌエル・ディアナがトライ。ゴールも決まって12-14と再びスコアをひっくり返す。
今日はウルグアイのBKのアタックも冴えていた。さらに25分、SOベルチェシからパスでつなぎ、WTBロドリゴ・シルバのオフロードからCTBファン=マヌエル・カットがトライ。ゴールも決まってウルグアイが12-21とフィジーに対してリードを広げる。
前半終了前の37分にウルグアイはSOベルチェシのPGで3点を追加して、12-24とフィジーに対してリードして折り返す。
後半、フィジーはなるべく早く点差を詰めていきたかったが、SOマタヴェシのPGは外れてしまう。それでも、7分、LOアピ・ラトゥニヤラワがパワーで押し切りトライ。しかしまたしてもSOマタヴェシのコンバージョンは逸れ、17-24とする。
20分、ウルグアイはSOベルチェシのPGで3点を加え、17-27と10点差にする。
時間がなくなってきたフィジーはパワーで攻めていきたいが、ウルグアイも必死のディフェンスで食い止める。しかし26分、ライン側の攻防から、フィジーは途中から入ったSHニコラ・マタワルが疲れが見え始めたウルグアイの意表を突いてトライ。しかし、やはり途中から入ったSOベン・ヴォラヴォラもゴールを外し22-27。
圧倒的にフィジーが攻める時間帯が長くなるものの、35分、ペナルティで逆にウルグアイがPGで3点を追加し22-30とされ、1トライ1ゴールでは追いつかない点差にする。
ロスタイムにフィジーが意地のトライを見せるも、試合は27-30でノーサイド。世界ランキング19位のウルグアイが10位のフィジーを倒す今大会最初のアップセットは釜石で起こった。
フィジーのキャプテン、FLワンガニブロトゥは「良いところがなかった。ウルグアイは素晴らしかった」と落胆の表情を隠さなかった。
ジョン・マッキーヘッドコーチ(HC)も、「ペースをつかめなかった。非常に今後が難しくなってきた。ハーフタイムにエリアを取り戻して、エラーが多かったので、ボールをしっかり処理するように話したのだが、ウルグアイのアティチュードの方が優っていた」と厳しい表情だった。
歓喜に沸くウルグアイのキャプテン、FLガミナラは大粒の涙をこぼしながら、「国を誇りに思う。僕たちは4年の間、準備した。僕らのチームはこの大会に出るために、まず予選を戦って、その資格を得なければならなかった。それから、この大会のために準備をしてきました。とにかく誇らしい」と語った。
エステバン・メネセスHCは、「メンバー31人に祝福を送りたい。愛している。4年間準備をしてきた結果、一つの素晴らしいチームができた」と選手を称えた。
プレイヤー・オブ・ザ・マッチを獲得したSOベルチェシは「本当に誇らしい気持ちだ。僕たちがウルグアイのラグビーを示すことで、国のラグビーを発展させていきたいし、もっともっと大きなサポートを得たい」と笑顔を見せた。
7点差以内の敗戦でボーナスポイントをとったものの、2連敗で決勝トーナメント進出に向けて後がなくなったフィジーは、10月3日(木)に、大阪・花園ラグビー場でジョージア代表と対戦する。
勝利したウルグアイ代表は9月29日(日)に埼玉・熊谷ラグビー場でジョージア代表と相見える。
◆「被災地でワールドカップを」というさまざまな人々の思いから実現した、釜石でのワールドカップ
フィジーのジョン・マッキーHCは「釜石でワールドカップをやるのはラグビーにとってとても意義のあること」と語り、ワンガニブロトゥ主将も「釜石で起こったことを学びました。ここでの試合は特別な経験になる」と述べた。
釜石を象徴する大漁旗が青空の下にはためき、そのスタジアム上空をブルーインパルスが展示飛行。東日本大震災の犠牲者への黙祷と、すべての出来事に復興への願いが込められた試合と言えるだろう。
そして、格下と言われるウルグアイが国の誇りを胸に抱きながら、不屈の闘志で戦い、勝利を勝ち取った。復興から立ち上がる釜石の人たちにとっても、ウルグアイのラグビーにとっても特別な1日となったと言えるだろう。
釜石ではもう1試合、10月13日(日)にカナダ代表対ナミビア代表が行われる。