ウェールズ43-14ジョージア。 このスコアだけを見ればいたって一方的なものであり、下馬評どおりの結果と言ってしまえばそれまでだ。しかし、ラグビーの「神髄」が随所に垣間見えた試合だったと表現しても決して大袈裟ではないだろう。試合後に握手を…

 ウェールズ43-14ジョージア。

 このスコアだけを見ればいたって一方的なものであり、下馬評どおりの結果と言ってしまえばそれまでだ。しかし、ラグビーの「神髄」が随所に垣間見えた試合だったと表現しても決して大袈裟ではないだろう。



試合後に握手を交わすジョージアのマムカ・ゴルゴゼ(左)とウェールズのアラン・ウィン・ジョーンズ

 ウェールズは、今年の欧州6カ国対抗戦「シックス・ネーションズ」でグランドスラム(全勝優勝)を達成し、一時はワールドラグビー世界ランキング1位まで上り詰めた(9月23日現在4位)強豪中の強豪だ。今回のワールドカップで優勝候補の一角と目されている。

 片やジョージアは世界ランキング12位。シックス・ネーションズに属するイタリア(同14位)と肩を並べつつあり、実力のあるチームだ。特にスクラムの強さに関しては世界トップレベルにあり、中でもフロントローの選手を世界各国の名門リーグに輩出し続けている。ただ、ウェールズなどのティア1(欧州6カ国+南半球4カ国の概ね世界トップ10の強豪チーム)と好勝負を演じるにはまだいたっていない。

 両者の実力差は、前半序盤から如実に表れた。2分、12分、18分とウェールズが立て続けにトライを奪い、前半終了間際の39分のFB(フルバック)リーアム・ウィリアムズの4トライ目で早々とボーナスポイントを獲得(ワールドカップでは4トライ以上で勝ち点1が加わる)。29-0とジョージアにとっては厳しい前半となった。

 ただ、後半に入るとようやくジョージアが反撃。2分にHO(フッカー)シャルヴァ・マムカシュヴィリが、28分にPR(プロップ)レヴァン・チラチャヴァがそれぞれトライを決めた。いずれもフロントローの選手が押し込む形というジョージアらしいトライで、後半に限れば14-14というイーブンのスコアとなった。

 全体的に見ればウェールズの試合巧者ぶりが目立ったことは確かだが、同時にジョージアの意地も光った一戦は、世界各国から35,545人ものファンが集結し、豊田スタジアムでのワールドカップの幕開けにふさわしいゲームだったと言えるだろう。

 そんな今回の対戦で特に目を引いたのが、ウェールズを象徴するキャプテンのLO(ロック)アラン・ウィン・ジョーンズと、代表復帰を果たしたジョージアのレジェンドFL(フランカー)マムカ・ゴルゴゼ、共通項の多い両雄のマッチアップだ。

 LOとして世界最多の129キャップを誇り、今回4度目のワールドカップ出場を果たしたアラン・ウィン・ジョーンズ。196センチ118キロの巨体で、最前線で常に体を張り続ける献身的なプレーから、「闘将」と表現されることも多い。激しいタックルを見舞った直後、すぐに次のポイントへ移り接点でボールの争奪に絡む。スタッツにこそ表れてはいないものの、ジョージア戦でもこうした持ち味を80分間発揮し続けた。34歳という年齢を感じさせないハードワーカーである。

 なお、このジョージア戦ではラインアウトで5回のキャッチに成功と、チームで一番の数値をマーク。前半12分のウェールズのFLジャスティン・ティピュリックのトライもキャプテンのラインアウトキャッチを起点とするものだった。

 2015年の前回ワールドカップではジョージアのキャプテンを務めていたLO/FLマムカ・ゴルゴゼも「闘将」の異名にふさわしいスキッパーだった。195センチ118キロというアラン・ウィン・ジョーンズとほぼ同じサイズの巨漢は、2017年には代表からの引退を表明。しかし、今大会直前に負傷者が相次いだことで翻意した。じつに2年半ぶりに今回のテストマッチ、それと自身4度目となるワールドカップの舞台へと返り咲いた。

 35歳となった現在も、フランスリーグのTOP14で戦い続けてきたこともあり、その運動量と激しさはブランクを感じさせないものだったと言えよう。このウェールズ戦のタックル成功数はチーム2位タイの11回と、自軍の防戦に身を投げ打ってディフェンスし続けた。

 闘将。献身。長年の経験。4度目のワールドカップといった共通項を持ち、それぞれのチームのスタイルを体現する両雄はしばしば接点でぶつかり、フィジカルバトルを繰り広げた。ラグビーは個と個の勝負ではなく、チームスポーツだ。しかし、そのマッチアップはウェールズ対ジョージアの体の張り合いやプライドのぶつかり合い、すなわちラグビーの魅力そのものを象徴するもので、「体を張るとはこういうことだ」というメッセージが伝わってくるようなプレーであった。

 勝ち点5を獲得したウェールズが目指すのは、まずはプールDのトップ通過だ。そのためにも6日後の9月29日(日)に控えたオーストラリア戦は極めて特別な一戦となる。

「よかったが、まだまだ取り組まなければいけないことがある」

 アラン・ウィン・ジョーンズは、ジョージア戦の勝利に特別な喜びを示すことなく、すでに次を見据えていた。ジョージアも同じく9月29日(日)に、ウルグアイと対戦する。

 闘将たちが身をていし続ける長い旅は、まだ始まったばかりだ。