2004年9月。パラ馬術競技がパラリンピックの正式競技となり3回目となるアテネ大会は、マルコポーロオリンピック馬術競技場で実施された。これまでの大会は大会主催者が提供する馬が割り当てられ、その馬で競技に参加する貸与馬制だったが、アテネからは…

2004年9月。パラ馬術競技がパラリンピックの正式競技となり3回目となるアテネ大会は、マルコポーロオリンピック馬術競技場で実施された。これまでの大会は大会主催者が提供する馬が割り当てられ、その馬で競技に参加する貸与馬制だったが、アテネからは自分で馬を用意して参加する「自馬戦」となり、環境が急速に変化した。そんな厳しい環境にも負けず、鎮守美奈は日本人唯一のライダーとして出場権を獲得し、初めてのパラリンピックに挑んだ。

初めてのパラリンピックで遭遇した“魔物”

 競技2日前の練習中、馬が音楽に反応して2回続けて落馬しました。大会当日の個人規定演技前、待機馬場での練習中に、馬の状態を読めない程の緊張していた私に、コーチから「鞭を入れなさい!」という声。先日の落馬の記憶がよみがえり、鞭を入れることすらためらい、そして会場から聞こえてくる観客たちの大声援に圧倒され、平常心を失い、恐怖心と闘いながら本馬場に入りました。その記憶しか残っていません。

*セン馬:去勢された牡馬

日本代表としてアテネパラリンピックに出場した

 種目の中で一番好きなのは、自由演技なのですが、海外ではなかなか(上位選手しか自由演技に進出できないため)残れなくて残念です。日本では大会に出場する選手数が少ないこともあって演技できるのですが……。

 競技に挑戦し続ける理由は、一言では言えませんが、私自身が悔いのない人生を歩みたいからです。もちろん、馬が好きだということもあります。馬は、私にとって競技をするにあたっての大切なパートナーです。動物なので、意思や感情があり、お互いに感情があるので、日々違うことが楽しいんです。

人馬でパラリンピック出場条件を満たしているジアーナと

 2020年は自国開催ですし、どうしても出場したいと思っています。世界のレベルは急速に上がっていて、パラ馬術選手が乗る馬の質も上がってきていますが、ライバルは自分自身だと思っているので、毎回の練習で自分に掲げたテーマにチャレンジしていくだけです。また、いい演技をするために、特殊馬具の調整も欠かせません。最近は新たに使用することになった拍車ベルト(*)をループ手綱(**)と一緒に持って乗る練習をしています。*拍車ベルト:一般的に拍車とは馬の推進を促すためにライダーが足につける補助道具。これを止めるために使用する革製のベルトを鞍の前につけて補助道具として使用している。**ループ手綱:一般の手綱と違い、ループがついているものを使用。騎乗時馬に合図をするためにライダーは手綱の持ち位置を変えて長さを変更する必要が出てくる。ループがついた手綱を使用することで手綱が伸び切って落としてしまうことなどを防ぎ、素早くスムーズに手の位置を変えることができる。

強力なサポーターたちと目指す東京パラリンピック
明石乗馬協会で練習に励む

 私が長い間、競技を続けられてきたのは、所属クラブである明石乗馬協会のサポート体制が整っていたからです。海外に行くときは薫先生、もしくはボランティアの方に同行していただけるので、とても心強いんです。また今は、多くの方々に支えられているという実感もあります。とくに会社の方々には、いろんな配慮をしてもらっているほか、会社を挙げて応援してもらっていると感じることが多く、モチベーションにつながっています。

 練習の数が増えることにより、実力に変化があったかどうかはわかりませんが、気持ちにゆとりができました。出勤は週2回なので、練習以外に身体のケアもできますし、家での馬関連の事務作業もできるようになりました。

 競技会のときだけ、明石乗馬協会からお借りしているジアーナは、牝馬なのにおっとりしています。しなやかな歩きをします。「ライダーからの要望を聞いてあげよう。助けてあげよう」と思ってくれているのが分かります。

アクシデントを乗り越え、東京パラリンピックへ一直線

 「なんでやねーん」という気持ちでいっぱいです(苦笑)。こんなアクシデントがあるなんて、もうメンタル面ではよっぽどのことがなければ動じないなと感じています。

 おとなしくてカリカリしない、すごくいいコ。それに、食いしん坊で。脚への反応もよく、11才と比較的若いからかパワーのある歩きです。甘え上手なコなので厩舎の方々に可愛がられているようです。

ベテランの鎮守美奈二度目のパラリンピック出場を目指す

 今は、トラブルを多々経験した反動か、たんたんと過ごしていて、気持ちもかなり落ち着いています。幸運にも(新しいパートナーの)ダモルカちゃんにすぐに出会うことができました。このふわっと舞い込んできたチャンスに引き寄せられるようにパラリンピック出場に向けて、彼女と競技会に出て(東京パラリンピック出場最低資格の)62%を獲れるようがんばります。ぜひ東京パラリンピックに出場して、チームに貢献できる選手、人間でありたいですし、これまでご尽力頂いた多くの方々に感謝を持って演技をしたいです。そして、たくさんの人にパラ馬術の魅力を知ってもらいたいです。

interview by Ayako Tanaka

photo by Yusuke Nakanishi

撮影協力:明石乗馬協会