9月1日まで、東京の日本武道館で行なわれた世界柔道選手権。来年の東京五輪へ向けて優勝を狙っていた男子重量級2階級は、100kg級のウルフ・アロン(了徳寺大職員)が3位、100kg超級の原沢久喜(百五銀行)が2位と、金メダルには届かなかった。



惜しくも決勝で敗れて銀メダルになった100kg超級の原沢久喜

 100kg級に出場したウルフは、初出場した2017年の世界選手権で優勝し、昨年は5位で今回が3回目の出場。今年4月の体重無差別で出場した全日本選手権では、100kg超級の選手たちを圧倒して優勝し、7月のグランプリ・ブダペストでも優勝するなど準備は万全かに思えた。

 しかし、ふたを開けてみると初戦から動きが重かった。1回戦と2回戦は技によるポイントを奪えず、みずから攻めるというよりは、時間を使って反則勝ちで進んだ。3回戦も相手に指導がふたつ出る有利な状況になりながらも、釣り手で背中や帯を取ってくる相手に苦戦。4分間では決着をつけられず、ゴールデンスコアの延長戦に入って18秒に内股で技ありを取って勝ち上がっていた。

 準々決勝は昨年優勝しているチョ・グハム(韓国)との対戦になった。先に釣り手を取って組んでも、一歩先に動かれる展開になり、両者指導1のままゴールデンスコア(延長戦)に。そして延長1分16秒にはチョの一本背負いに対応しきれず、技ありを取られて負けてしまった。

「当日の5%計量(前日に計量を終えても、当日試合前に制限体重の5%以上の超過になってはいけないルール)が頭にあって、朝ご飯を食べられなかったり、栄養をしっかり補給できなかった影響もあったかもしれないです。うまく動けなかったというのが正直なところで、1回戦で全力を出せるような準備ができなかった。減量はしっかりできたが、ちょっとギリギリ過ぎたかもしれない」

 その悪い流れを引きずってしまった準々決勝では、釣り手を下から持って自分の得意な形にしようとしていた所で、相手に隙を突かれて潜り込まれると投げられてしまった。

 その後、休憩時間を挟んだ夜の試合では、モヤモヤを吹き飛ばす彼本来の柔道を見せた。敗者復活戦では昨年のグランドスラム大阪の決勝で顔を合わせて勝っていたシャディ・エルナハス(カナダ)を相手に、釣り手を取るとすぐに技を仕掛けた。開始1分47秒に引き込み返しで技ありを取ると、2分55秒には釣り手から素早く大外刈りに入り、一本を取って3位決定戦に勝ち上がった。

 3位決定戦では、16年リオデジャネイロ五輪銀メダルのエルマール・ガシモフ(アゼルバイジャン)が相手で、前半は互いに組んでもなかなか技を出せない展開になった。残り1分を切ってからは積極的に技を出し、残り32秒には相手が小内刈りを仕掛けて尻もちをついたのを逃さず、隅落としで転がして技あり。銅メダルを死守した。

 100kg超級の原沢は、初戦の2回戦では、3分9秒に内股で技ありを取った後、すぐに崩れ袈裟固めで抑え込むと合わせ技の一本勝ち。3回戦は先に奥襟を取る、落ち着いた柔道を、見せ、時間はかかったものの、残り28秒に小内刈りで技ありを取ると、それが1本に変更されて勝ち上がるなど安定した柔道で滑り出した。

 準々決勝は、どんどん前に出てくるリオデジャネイロ五輪銅メダルのラファエル・シルバ(ブラジル)が相手だったが、荒っぽく攻めてくるシルバに指導2が出る状況の中、ゴールデンスコアの延長戦2分33秒には相手が3つ目の指導を受けて反則勝ちとなった。

 準決勝は、前回優勝者で世界ランキング1位のグラム・ツシシビリ(ジョージア)との対戦で、今回最大のヤマ場。ツシシビリはスピードが持ち味でどんどん攻めてくる選手。

「準決勝は組手を雑にしないということと、相手が力勝負や速い勝負できたら、自分も受けて立とうと思っていた」という原沢は、序盤こそ先に技を出されたが、余裕を持ってそれに耐える。そして、2分40秒過ぎには両者とも背中を抱え合うような体勢になって技を打ち合う展開になると、最後は原沢が浮き腰で技ありを取って、そのまま横四方固めで抑えて勝利し、決勝へ進んだ。

 だが、決勝はその疲れが影響したのか、スピードのあるルカシュ・クルパレク(チェコ)との対戦では、序盤は相手の奥襟を取って押し込むシーンが何度もあったが、なかなか決められない展開になった。そして、延長13秒には、相手の裏投げで頭から落ちてダメージを受け、最後は押し込まれて3つ目の指導を受けると反則負け。惜しい敗戦を喫した。

「準決勝を乗り越えて気持ちも上がったというところはありますが、その試合を意識し過ぎていたというところはあります。そこを超えたら何とかなるかなと思っていた自分の甘さが決勝では出てしまった。決勝も序盤は組手もよかったですが、そこから自分が何をしたいのか、どういう展開に持っていくのかというのが考えられなかったところがあったので、相手のペースになってスタミナを削られてしまった。相手の方が自分のスタミナを上回っていた」(原沢)

 その一方で、今大会収穫もあった。

「全体を通して自分的には動きはよくなかったんですが、その中でも我慢して粘って戦えたこと。ツシシビリ選手とも、ああいったもつれた場面で負けずに戦えたこと」

 そんな戦いを井上康生男子監督は「1回戦から強豪選手との戦いが連続しましたが、我慢して勝ち切ったうえで次につなげた。準決勝は絶対に引かずに競り合い、我慢比べにも絶対に引かないで投げにいくことと話したが、それをやり切れたことはよかった。

 決勝は惜しい試合で先に息が上がってしまいましたが、本当は逆の展開にしたかった。それまでのギリギリの戦いの影響はあったと思いますが、決勝でも技術面をもう少し工夫していけば、ああいう展開にはならなかったのではないかと思う」と話す。

 100kg超級には昨年に続いて今回も出場してこなかったテディ・リネール(フランス)という絶対王者がいるが、試合展開もこれまでよりスピード化している。そんな中、選手たちには速い組手や速い技出しをして、しっかり競り合うことを意識させていると井上監督は話す。リネールだけではなく他の選手に勝っていくためにも、スタミナ作りというのがこれからの課題のひとつにもなってくるだろう。

 また100kg級のウルフに関しても、井上監督は「彼のよさはスピード感あふれる組み手や、厳しい組手。そこから圧力をかけていって最後まで競れるところ。今回の前半戦はそれを出せていなかったが、敗者復活戦からはそんな柔道をして銅メダルを獲得したので、最低限の結果は出した」と評価する。

 ウルフ自身も「今回は組手の部分や、いつもなら途中で諦めるタイプの選手が最後まで技をかけてくるなど、五輪1年前になって、勝ちに飢えているような柔道をしてきた。僕自身もそういう柔道ができるようにしっかり(レベルを)上げていかないと、五輪では優勝できないと感じた。準備の段階からやり残しがないようにしていきたい」と振り返る。

 金メダルこそ逃したが、それぞれに原因もはっきりしている”完敗”とはいえない結果。それは来年の東京五輪の金メダル獲得へ向けて、選手自身だけではなくスタッフももう一度気持ちを引き締める大会になった。