フェンシング。それは、中世ヨーロッパの騎士道にルーツを持つスポーツ。元々オリンピック競技として採用されており、近年は日本人選手がメダルを獲得するなど、注目の競技だ。そんなフェンシングに、“移動できないフェンシング”があるのをご存知だろうか。…
フェンシング。それは、中世ヨーロッパの騎士道にルーツを持つスポーツ。元々オリンピック競技として採用されており、近年は日本人選手がメダルを獲得するなど、注目の競技だ。そんなフェンシングに、“移動できないフェンシング”があるのをご存知だろうか。「ありえないでしょ」という声が聞こえてきそうだが、選手たちはどうやって相手の剣を防御しているのか? 、移動できないフェンシングとは何か? それをここで紹介しよう。
必然的な超至近距離での突き合いは、何が起きているのかわからないほどのスピード感!まず “移動できないフェンシング”とは、実は2020年東京パラリンピックで正式競技として実施される「車いすフェンシング」のことだ。しかし、車いすには車輪があるし、移動もできる。では、移動できないとはどういうことか。その答えは、コート上にある。フェンシングの競技コートをピストと言うが、そこに車いすを固定するための装置が備わっており、選手たちは車いすが動かせない状態で競技に挑むのだ。その状況の中で相手の剣をどう防御するかというと、例えば、障がいの軽い選手は、体を左右に動かしたり、ねじったり、のけぞらせたりと、素早くしなやかに上半身を動かし、障がいの重い選手は華麗な剣さばきによって、それを実現している。勝敗の決し方は一般のフェンシングと同じで、剣先で相手を突き、いかに相手より多くの点を得られるかによって勝利が決まる。種目は、男女とも胴体を突く「フルーレ」、上半身を突く「エペ」、上半身を突き、斬る動きも有効となる「サーブル」の3つで、これも一般のフェンシングと同じだ。車いすフェンシングの最大の魅力はというと、車いすが固定で移動できないため、必然的に至近距離での突き合いになるということ。トップ選手ともなれば、何が起きたのか分からないほどに、剣さばきのスピードとコントロールが凄まじい。そして、相手の一瞬の隙をつく集中力とハードワークを惜しまない精神力の強さが勝利を手繰り寄せるのである。
上半身を大きく動かす華麗な剣さばきは、まるで舞台芸術のよう!車いすフェンシングの試合を見てまず驚くことは、障がいの軽い選手は想像以上に上半身を前に、後ろにと大きく動かすということ。特に相手の剣を避けるときには、地面と平行になるくらいに体を後ろにのけぞらせることもある。また、相手を突くときや剣先を避けるときには、自分の車いすの車輪が大きく浮くほど、その剣さばきや身のこなしは激しいと同時に美しくもあり、まるで舞台で芸術を鑑賞しているかのような気持ちにさえなる。そして、元々フェンシングが「筋肉を使ったチェス」と呼ばれるのと同様、車いすフェンシングにおいても、頭脳戦・心理戦の要素が大きい。相手を突き、迫りくる剣先をギリギリで避け、また隙をみて相手を突く……。たった数秒の中で行われる激しい攻防の連続の裏には、「相手がどう突いてくるか、どう避けるのか、だから自分は……」といった思考の連続が存在している。まさに極限状態で行われる車いすフェンシング。見る側にも選手たちの緊張感がダイレクトで伝わってきて、最初から最後まで目を離すことができないエキサイティングなスポーツなのだ。至近距離で向き合って試合が行われる車いすフェンシングはまさにガチンコ勝負。実際に観戦すれば、単純に激しいだけではなく、高い技術に裏打ちされた選手たちの華麗な剣さばきや身のこなしに魅了されるだろう。2020年東京パラリンピックでは、会場に足を運んで、選手たちの熱く、美しい姿を目撃しようではないか。車いすフェンシングを実際に観戦してみよう! 国内大会のスケジュールはこちら ↓ ↓ ↓https://www.parasapo.tokyo/schedule車いすフェンシングの種目、クラス分けが書かれたページはこちら↓https://www.parasapo.tokyo/sports/wheelchair-fencing
Text by Tsutomu Mikata(Parasapo Lab)photo by Getty Images Sport