いざ、日本史上初のベスト8進出へー。日本代表メンバーを発表したジェイミー・ジョセフHC。右は強化委員長の藤井雄一郎氏。 日本ラグビー協会は8月29日、第9回ラグビーワールドカップ(RWC)に臨む日本代表登録メンバー31人を発表した。とくに…

 いざ、日本史上初のベスト8進出へー。



日本代表メンバーを発表したジェイミー・ジョセフHC。右は強化委員長の藤井雄一郎氏。

 日本ラグビー協会は8月29日、第9回ラグビーワールドカップ(RWC)に臨む日本代表登録メンバー31人を発表した。とくにサプライズはなかった。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)は記者会見で「ベスト8」を掲げ、こう力強く発言した。

「かなり難しいチャレンジだけど、選手、スタッフとも150%の力を出し切って、そこにまい進したい」

 日本の戦術のキーワードは、「アンストラクチャー(崩れた局面)」である。ジョセフHCは、「日本の武器は、はやい展開です。そのスキルを活かして、アンストラクチャーな中で、自分たちの強みを発揮するということです」と言い切った。

 このアンストラクチャーとは、時に効果的なキックを絡めて混沌とした局面を作り出すことを指す。そのベースとなるのが安定したセットプレー(スクラム、ラインアウト)とスタンドオフ(SO)田村優(キャノン)の精度の高いキック、状況判断、チーム全員のフィットネス、反応スピードだろう。また、選手たちがラグビー・ナレッジ(理解力)に長け、日本の柔軟な戦術を理解しておかなければならない。言わば戦術的熟知。

 加えて、コンタクトエリアでの強さである。タックルやブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で力負けしないためには、ジョセフHCが「フィジカル的な存在感と体格が大きい」という外国出身選手が15人選ばれた。ダイバシティ-(多様性)の時代を象徴するかのごとく、前回大会の10人から大幅に増えて過去最多となった。

フォワード(FW)は前回大会より1人多い18人で、うちフロントロー陣は8人となった。フッカー(HO)が円熟の堀江翔太(パナソニック)とスクラムがつよい北出卓也(サントリー)、フィールドプレーに優れる坂手淳史(パナソニック)。最終選考メンバーの堀越康介(パナソニック)は選考から漏れたが、ジョセフHCは「ラインアウトのスローイングをみると、北出の方が上と判断した」と言う。

 プロップ(PR)は、前回大会より1人多い5人が選ばれた。スクラムを引っ張る左PRの稲垣啓太(パナソニック)ほか、大型で強じんな足腰を持つ25歳の具智元(ホンダ)、中島イシレリ(神戸製鋼)、ヴァル・アサエリ愛(パナソニック)が並ぶ。勢いのある23歳、木津悠輔(トヨタ自動車)も選ばれ、ベテランの山下裕史(神戸製鋼)は惜しくも外れた。

 日本代表が予選プールで戦うロシア、アイルランド、サモア、スコットランドはどこも、セットプレーを狙ってくるだろう。フロントロー陣の選考基準を聞かれ、ジョセフHCは「そこでしっかりと相手に対して互角に戦えるかどうか、ゲームの運び方、プレーの仕方が理解できているかどうか、遂行できるかどうか」と説明した。日本のスクラムは8人一体。ヒットのタイミング、姿勢、足の運び方など細部のスキルの習熟も求められている。

 稲垣は、網走合宿で8人結束の意識が高まったと胸を張り、こう自信を示した。「(4年前と比べ)攻められるスクラムになったんじゃないでしょうか」

 ロック(LO)には、4大会連続のRWC出場となるチーム最年長の38歳、”トモさん”こと、トンプソン・ルーク(近鉄)が選ばれた。網走合宿で4年前との違いを聞けば、「トシだよ」と笑わせた。「ジムでいっぱい練習した。コンタクト・フィットネスはよくなったね」。勝負のポイントについては、「モールディフェンス」「リアクションスピード」を挙げた。

 FW第三列は、リーチ・マイケル主将(東芝)のほか、ピーター・ラブスカフニ(クボタ)、アマナキ・レレイ・マフィ(NTTコミュニケーションズ)ら。網走合宿終盤に左足首をねんざした姫野和樹(トヨタ自動車)も無事、選ばれた。スピード、アタックセンスに長ける徳永祥尭(東芝)は初選出だ。

 バックスが13人。専門職のスクラムハーフ(SH)は、前回RWCから1人増え3人、ベテランの田中史朗(キャノン)と流大(サントリー)、好調の茂野海人(トヨタ自動車)。ジョセフHCは「チームが何をしようとしているか、はやい展開を熟知している選手を選んだ。(けがで)SHがいなくなるとチームに打撃になるので、今回は3人連れていく」と説明した。ここが攻めのカナメとなる。

 ウイングが、快足トライゲッターの福岡堅樹(パナソニック)、鋭いランの松島幸太朗(サントリー)。インパクトプレーヤーとして、185cm、114kgの大型ウイングのアタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼)がメンバー入りした。

 日本バックスの素早いディフェンスは磨かれている。守備に回ると、大型(188cm、101kg)のウィリアム・トゥポウ(コカ・コーラ)がSO田村と替わり、CTBのラファエレ・ティモシー(神戸製鋼)、中村亮土(サントリー)らと強力ディフェンスを形成することになる。

  SO田村は、リーチ・マイケル主将の言葉を借りると、「天才」となる。日本のラグビースタイルは、「リトル・ニュージーランド」か。司令塔の田村が混沌とした状況をつくりながら、自分たちでその状況をコントロールしていく。日本の布陣(メンバー)を簡単に言えば、エリアを奪えるバックスと言っていい。

 不安は、田村がケガで戦列を離れたときである。代わりはいない。ジェイミーHCが想定するメンバーが最後まで戦い抜けばいいのだが、もしも、田村がケガをしたら…。ジョセフHCは「ケース・バイ・ケース。31人でお互いをカバーできるように試行錯誤して、今回のメンバーに落ち着いた」と言うが。

 フルバックでは、苦労人の山中亮平(神戸製鋼)が初選出された。早大時代から逸材と騒がれながら、不注意によるドーピング違反で「空白の2年間」を過ごした。どん底だった。その時、故・平尾誠二さんから掛けられた言葉が「我慢しろ」だった。

 山中はプレーに安定感を増した。フォア・ザ・チームの献身プレーができるようにもなった。網走合宿で31歳は「選ばれたら」と前置きして、感慨深そうな顔をつくった。

「うれしいですね。平尾さんには、とくに感謝しています」

 チームスローガンが『ONE TEAM』である。31人中、RWC経験者は10人にすぎない。地元の日本開催のRWC。確かに日程的には恵まれている。が、大きなプレッシャーがかかる中、いろんなラグビー人生を歩んだ選手たちがひとつになって、思い切って、チャレンジすることができるのかどうか。かぎは、『結束』『プライド』である。

 9月20日の開幕まで、あと約3週間。9月6日の南アフリカとの壮行試合(熊谷)を経て、日本代表は敵の情報データ、戦術を落とし込み、アジア初のRWCで、世界の強豪に挑戦することになる。

 4年前のRWCでは、優勝候補の南アフリカに番狂わせを演じた。こんどは初のベスト8で日本ラグビーの歴史を創ることになるだろう。