星稜・奥川恭伸対履正社打線──。 今大会、32回3分の1を投げ、45奪三振、自責点0の奥川をチーム打率3割6分1厘…

 星稜・奥川恭伸対履正社打線──。

 今大会、32回3分の1を投げ、45奪三振、自責点0の奥川をチーム打率3割6分1厘、本塁打も6本記録している強打の履正社打線がどう攻略するか。これが第101回大会決勝の最大のポイントになる。

 履正社打線が大きく飛躍するきっかけとなったのが、今春センバツの初戦・星稜戦の屈辱だ。奥川の前に3安打17奪三振と手も足も出ず、完封された。岡田龍生監督は言う。

「奥川くんと対戦してトップレベルがわかった。あのレベルを打とうとやってきたことが、この夏の成果につながっている。やってきたことは間違いない」

 どうすれば全国トップレベルの投手を打てるようになるのか。履正社の各打者を見れば、工夫し、試行錯誤したことがよくわかる。



圧倒的なピッチングでチームを牽引する星稜のエース・奥川恭伸

 センバツで奥川の前に3打数0安打2三振に抑えられた1番の桃谷惟吹(いぶき)は、春はやや足を上げて打っていたが、ノーステップ打法に変更。重心を低く、グリップの位置を低くしたことで目線がぶれず、バットの出もよくなり、安定感が増した。

 同じくセンバツで奥川に4打数0安打2三振と封じられた4番の井上広大はトップが深く入るようになり、ボールとの距離を取れるようになった。これらのフォームの改善に加え、例年より技術練習を減らし、筋力トレーニングに時間を割いたことでパワーアップ。どこからでも本塁打が出る打線に変貌した。

 今大会の初戦では、霞ケ浦の最速148キロ右腕・鈴木寛人からの3発を含む5本塁打。7番の西川黎(れい)、8番の野上聖喜(いぶき)も本塁打を放つなど、成長のあとを見せた。

 さらに準決勝でも明石商の151キロ右腕・中森俊介に11安打を浴びせ、5得点を奪って攻略。今大会を代表する速球派右腕を打ち込んだことで自信を深めている。

 課題はバントと走塁。履正社にとってバントはお家芸だが、明石商戦では2度の送りバントを失敗。津田学園戦も失敗2つ、関東一戦、霞ケ浦戦もそれぞれ失敗1つと決まっていない。

 走塁も関東一戦で一死満塁から二塁走者が安打で還れる当たりで三塁ストップ、明石商戦では一死一、二塁のライトオーバー二塁打で二塁走者の打球判断が悪く、一塁走者が本塁に還れなかった。ともに後続打者がタイムリーを放ったため目立たなかったが、奥川相手には、少ないチャンスをどれだけ得点に結びつけられるかが重要になる。こうしたミスは命取りになりかねない。

 一方の奥川も負けていない。初戦で旭川大高を3安打完封。わずか94球と制球のよさを見せると、3回戦の智弁和歌山戦では強力打線を相手にギアを上げて本気モードにチェンジ。自己最速の154キロをマークした球の勢い、スライダーのキレは最後まで衰えず、14回を投げて3安打、23奪三振と観客が思わず引き込まれるような投球を披露した。

 猛暑、金属バットなど圧倒的に打者有利の時代に信じられない快投で、甲子園に”奥川伝説”をつくった。

 奥川のすごさは、スピードや奪三振などの数字では表われない部分にある。相手を見て、かけひきをしながら投げられることだ。省エネ投球だった旭川大高戦はもちろん、準決勝の中京学院大中京戦でも速球を打とうと前のめりになる相手を利用し、要所ではスライダーを続ける配球を混ぜながら、ストレートで打たせて取った。打ち気があると見ればそらし、打つ気がないと見るや簡単に追い込む。

 センバツでも150キロを記録したが、7月の石川大会直前まで腕の筋力トレーニングをしたことで同じ150キロでも球の強さが違う。旭川大高戦ではスライダーが「まだしっくりきていない」と言っていたが、そのあとに修正。智弁和歌山戦からはフォークも本格解禁して配球のバリエーションを増やした。

 ただ、さすがの奥川でも履正社打線を完璧に封じるのは至難の業。今大会は例年以上に強風が吹いており、150キロの速球と履正社打線のスイングが衝突すれば、高く上がった打球が風に乗ってスタンドインする可能性もある。

 5試合連続初回先頭で安打を放って勢いに乗る桃谷、6月の練習試合で奥川から本塁打を放った小深田大地、今大会2本塁打の井上に注目したいところだ。

 星稜は「奥川なら抑えてくれる」と思うのではなく、3失点程度は想定内にしておくことが必要になるだろう。言い換えれば、攻撃陣がいかにして3点以上を取れるかになる。

 幸い、星稜の打撃陣は好調だ。初戦の旭川大高戦は9安打1点、3回戦の智弁和歌山戦でも13回まで9安打1点と拙攻が目立ったが、智弁和歌山戦で孤軍奮闘した奥川が登板回避した準々決勝の仙台育英戦で22安打17得点と目覚めた。準決勝の中京学院大中京戦も11安打9得点で奥川を7回87球で交代させることができた。

 智弁和歌山戦は石川大会無安打だった福本陽生(はるお)がサヨナラ3ラン、仙台育英戦は甲子園初スタメンの今井秀輔が満塁本塁打を含む7打点、中京学院大中京戦では主将の山瀬慎之助が3安打3打点と日替わりヒーローが誕生している。

 履正社の投手陣は、ともに140キロ超の速球を持つ左腕の清水大成、右腕の岩崎峻典(しゅんすけ)の二枚看板。準々決勝は清水が関東一を6安打、準決勝は岩崎が明石商を6安打に抑えて完投したが、今大会、清水は29回を投げて被安打27、岩崎は16回で被安打18と決して本調子ではない。清水はスライダー、岩崎はカットボールが武器。これらの低めのボールになる球を星稜打線がしっかり見極めることができるかどうか。これが3点以上取れるかどうかのカギになるだろう。

 昨夏、春夏連覇した大阪桐蔭を北大阪大会準決勝で「あと1アウト」まで追い詰めながら涙を呑んだ履正社が、大阪勢2連覇を達成するのか。それとも、星稜が夏の甲子園での北陸勢初優勝を果たすのか。令和初の王者を決める決勝戦は8月22日、14時にプレーボールする。