近年、レースをより面白くする方法を模索してきたF1GPは、今季(2019年シーズン)に向けて、テクニカルレギュレーション(技術規定)の大幅な変更を行なった。空力に関する新たなレギュレーションの導入によって、コース上での競り合いやオーバーテイクを(理論的に)より容易にしようというのがその狙いだ。



レッドブル・ホンダの躍進もあって盛り上がりを見せている今季

 この10年間、マシンの空力は複雑化の一途をたどってきた。だが、前を走るマシンが引き起こす乱流(タービュランス)の影響で、2台以上のマシンによる接近戦では追走車のパフォーマンスが大幅に落ちてしまうため、コース上での追い抜きやバトルは非常に困難な状態になっていた。

 この問題を解決するために、2019年のレギュレーション変更では、競り合いをより容易にするために前後ウィングの形状を単純化する等の対応策が採用されたのだ。果たして新レギュレーションは有効に作用したのだろうか? シーズンが半ばを過ぎた今、この問題にあらためて注目をしてみよう。

 空力レギュレーションの変更にもかかわらず、レース中の追い抜きが簡単になったとは言えないレースもあった。たとえばフランスGP。同国南部のポールリカール・サーキットで行なわれたレースは正直、眠気を誘うほど退屈で「この課題を改善してレースを面白くすることはF1界喫緊の急務である……」と、レース直後には多くのメディアやファンが口を揃えて述べていた。

 一方で、その後のオーストリアGP(レッドブル・リング)、イギリスGP(シルバーストン)、ドイツGP(ホッケンハイム)の3戦は非常にスリリングで、レース中は随所でオーバーテイクやバトルが繰り広げられた。とくにシルバーストンとホッケンハイムの2戦はここ10年でも屈指の名レースと言ってもいいだろう。

 これは新レギュレーションの効果なのだろうか。その正しい評価を行なうには、もう少し時間が必要だろう。こうした変化の背景には、サーキットのコース特性や各チームのマシンの戦闘力の差、そして、個々のレースの展開も大きく影響するからだ。また、シーズン中盤に向けて、新レギュレーションに合わせた各マシンの空力性能の改良が進んでいることも、レース内容の変化をもたらしている可能性がある。

 だが、少なくともいくつかのサーキットでは、従来よりも多くの追い抜きやコース上でのバトルが可能になっているのは事実。今後、それらが新たな空力規定の効果であると確認できれば、それが将来のF1レギュレーションにも影響を与えることになるだろう。FIA(国際自動車連盟)とF1は、現在、2021年シーズンに向けてテクニカルレギュレーションを刷新するための議論を続けている最中だ。

 この新ルールの目玉は、マシンの底面と路面の間に発生する負圧をダウンフォース(マシンを路面に押し付ける下向きの力)として積極的に活用する「グランドエフェクトカー」の復活や、空力パーツなどの構成全体をかなり単純化して、オーバーテイクをよりしやすくすることだ。

 前後ウィングは非常にシンプルな形状になり、むき出しのホイールが引き起こす乱流の低減や、大事故の原因となる車輪同士の接触を防ぐためのホイールカバー(ハブキャップ)を採用。ホイールは大径化される方向のようだ。マシンのノーズを低くしてより魅力的なボディワークと空力パーツを減らすことにより、スッキリとした外観を目指すという。

 ただし、これらの諸策に対し、とくに空力関連のレギュレーションが厳しくなるため、どのマシンも似たような形状になってしまうと批判する声も上がっている。実際のところ、各マシンは似たような外観になるどころか、多くのパーツは共通化され、ホイールやブレーキ、タイヤ、燃料系、ステアリングコラム、そしてラジエーターもまた、全マシンで同じものの使用を義務付けられる可能性がある。車体形状の大部分が厳しく管理されるため、この新規定が導入されれば、チームが創意工夫を凝らす余地は非常に小さくなるだろう。

 また、制約は技術開発だけでなく、予算面にも及ぶ。F1が現在検討している改革案では、1チームにつき1シーズンあたり1億7500万ドル(約186億円)の上限が設けられるという。ただし、この金額にドライバーへの報酬額は含まれない。レッドブルやメルセデスにとっては大幅なコストカットになるだろうが、ウィリアムズやレーシングポイントのようなチームにはさほど大きな影響にはならないだろう。

 2021年改革案で大きな影響を受けるのは車体だけではなく、パワーユニットについても同様だ。ざっくりと言えば、電動モーターを今より少しパワフルなものとし、内燃機関(いわゆるエンジン)については、最高回転数のリミットを若干高める方向になると思われる。ちなみに、パワーユニットに関しては2025年にまったく新しいものへ取り替えられるという。内燃機関の排気量をさらに小さくし(おそらく850cc)、よりパワフルなモーターを組み合わせた、ハイブリッドシステムになる見込みだ。

 これらの諸変更で、マシン間、チーム間の戦闘力の差は大幅に縮小し、コース上では常に激しい競り合いが繰り広げられていくだろう。それは、メルセデスやレッドブル、フェラーリの優勢が続いた近年の状況を終わらせる……というのが、F1GPのオーガナイザーが描く「今よりも魅力的なF1」の未来像であり、現在、議論が進む改革案は、それを実現するための新レギュレーションの方向性なのだ。仮にそれが実現すれば、F1の歴史のなかで何度も繰り返されてきたルール変更のなかでも、最大の変革になりそうだ。

 だが、F1の未来を大きく変える、こうしたレギュレーションの改革案についてはチームや自動車メーカーからもさまざまな異論があり、2021年案がすべて最終案として採用されるのかは定かではない。また、たとえ、そうなったとしても、そのルール変更が実際に良い方向に作用するかはわからない部分も多い。

 F1を長年「モータースポーツの頂点」たらしめてきたのは、「世界トップレベルのドライビングスキル」と「技術の粋を集めたマシンの開発競争」の組み合わせがあったからにほかならない。主催者が「コンペティティブなレース」や「予想不能なレース展開」を重視するあまり、F1の大きな特徴であった技術開発の余地を制限しすぎてしまえば、F1がその存在意義を失い、フォーミュラEのように「運」が大きく結果を左右するレースになってしまう危険性もあるだろう。

 果たして、どんな「F1の未来像」を描くのか、そしてそれを「どのようなレギュレーション」を通じて実現するのか? 2021年のレギュレーション確定にむけた「デッドライン」は着々と近づいており、シーズン後半のF1ではコース上の戦いの裏で繰り広げられる、「新レギュレーション」を巡るF1主催者やチーム、自動車メーカーの駆け引きにも注目したい。

(西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira)