GI馬が4頭も出走するとあって、この夏一番の注目を集めるGII札幌記念(8月18日/札幌・芝2000m)。ここに、昨年のダービー馬ワグネリアン(牡4歳)が出走する。札幌記念に出走する昨年のダービー馬ワグネリアン 昨年の秋、GII神戸新…

 GI馬が4頭も出走するとあって、この夏一番の注目を集めるGII札幌記念(8月18日/札幌・芝2000m)。ここに、昨年のダービー馬ワグネリアン(牡4歳)が出走する。



札幌記念に出走する昨年のダービー馬ワグネリアン

 昨年の秋、GII神戸新聞杯(阪神・芝2400m)を勝って、古馬相手のGI天皇賞・秋(東京・芝2000m)に挑む予定だったが、体調不良によって回避。以後、今年3月のGI大阪杯(3着。3月31日/阪神・芝2000m)で復帰するまで、長い休養を強いられていた。

 その戦績は、8戦5勝、2着1回、3着1回、着外1回。1番人気に推されたGI皐月賞(中山・芝2000m)では7着に終わったものの、それ以外はすべて馬券圏内(3着以内)に入っている。

 ただこの馬の場合、「ダービー馬」という額面ほどには、高い信頼を得られていない。

 現にダービーでは単勝配当ふた桁の5番人気だったし、その後の2戦も、いずれも1番人気になっていない。そうした評価に、この馬の強さに対するファンの微妙な心理がよく表われているような気がする。

 それは、昨春のGII弥生賞(中山・芝2000m)で人気を分けたダノンプレミアムに完敗を喫したこと、そして皐月賞では見せ場も作れずに人気を裏切ったこと、そうした同馬が抱える”脆さ”が影響しているのだろう。

 また、古馬となってからの、復帰初戦の大阪杯の評価も微妙だ。

 最後の直線、インぴったりに追い込んできて、勝ったアルアインからクビ、クビ差の3着。長期休養明けだったことを考えれば、一応「善戦」とは言える。

 だが、本当に強い馬であれば、休み明けの不利などモノともしないという。そういう意味では、その強さも「その程度」という評価が成り立つ。

 いずれにせよ、札幌記念でも同い年で、同じディープインパクト産駒のフィエールマン(牡4歳)に人気を譲って、またも1番人気にはならないと見られている。

 しかし考えようによっては、こうした評価はラッキーである。気楽な立場で乗れる分、勝てるチャンスが広がるからだ。それに、もしここでフィエールマンを負かせば、「1番人気になれないダービー馬」といった、ありがたくない定評も返上できるかもしれない。

 はたして、その可能性はあるのか。

「十分にあります。前走の大阪杯にしたって、本当は勝っていたレースですから」

 そう断言するのは、関西競馬専門紙のトラックマンだ。

 実はあの大阪杯、スタート後の1コーナーで馬群がギュッと固まって、最内にいたワグネリアンは、進路が塞がれたような形になり、ポジションを下げるはめになった。その不利が「最後まで響いた」とトラックマンは言う。

「勝った馬との着差がクビ、クビとわずかだっただけに、あそこがスムーズだったら、勝つか、少なくとも、もっと際どい勝負に持ち込めていたと思います。その意味で、あの3着はワグネリアンの能力の高さを再認識した3着でした」

 このトラックマンによれば、ワグネリアンの一番の長所は「頭のいいところ」だと言う。オンとオフ、つまり、がんばるべき時とそうじゃない時がわかっていて、それをしっかりと使い分けることができるところだそうだ。

 ただその長所は、3歳の時点では体調にバラつきがあったため、思うようには生かせなかった。

 皐月賞の7着という成績も、ダービーを最大目標として「二兎を追わない」と決めたからで、皐月賞でも勝ち負けになるくらいがんばっていたら、ダービーの勝利はなかったという。

 そして、その”体調が安定しない”という状態は、ダービー後、休養を挟んだ秋になっても解消しなかった。神戸新聞杯は勝ったものの、不安定な状態に変わりはなかったそうだ。

 そこで、使おうと思えば使えた天皇賞・秋もパス。ワグネリアンを管理する友道康夫調教師が、「今は無理をする時期ではない」と判断して長期休養に入った。

「ワグネリアンにとっては、この休養がよかったようです」とトラックマン。続けて、「グンと成長して厩舎に帰ってきましたからね」と語る。

 その成長の証は、何より馬体と馬体重のアップである。

 前走の大阪杯は、神戸新聞杯からはプラス8kgだったが、ダービー時からはおよそ20㎏も増えている。しかも、その後も馬体は成長を続けているという。

 F1で言えば、ようやくエンジンに見合うシャシーが出来つつある、といった感じか。

 カリカリする気性は相変わらずのようだが、これは欠点というよりは、むしろ個性。この気性ゆえ、距離には限界ができてしまうかもしれないが、代わりに爆発的な末脚を引き出すことができる。

 何はともあれ、札幌記念に向けて「ワグネリアンの状態は万全」とトラックマンは言う。

「栗東にいるときから、いつでも競馬を使える状態でした。距離は合うし、札幌の舞台も苦にすることはないでしょう。あとは、馬場が極端に悪くならなければ、フィエールマンを負かすシーンだって十分にあります」

 ちなみに、ワグネリアンは父がディープインパクトで、母父がキングカメハメハ。先日相次いで亡くなった2頭の大種牡馬の血を受け継いでいる。

 こういう時、ターフではゆかりのある馬を後押しするような”不思議な風”が吹くことが、時としてある。ワグネリアンの場合はどうか。

 札幌記念では、そんなミラクルにも期待したい。