第12戦・ハンガリーGPの表彰台の下、ホンダの山本雅史マネージングディレクターは浮かない顔をして、2位の段に立ったマックス・フェルスタッペンを見上げていた。「結果的にポールトゥウインで勝てなかったのは、正直最初は悔しいという思いしか出…

 第12戦・ハンガリーGPの表彰台の下、ホンダの山本雅史マネージングディレクターは浮かない顔をして、2位の段に立ったマックス・フェルスタッペンを見上げていた。

「結果的にポールトゥウインで勝てなかったのは、正直最初は悔しいという思いしか出てきませんでした。ついこの間まで表彰台で喜んでいたのに、今じゃ2位で悔しいって、ずいぶん贅沢になったものですけどね」



ハミルトンと健闘を称え合うフェルスタッペン

 山本マネージングディレクターがそう語るとおり、レッドブル・ホンダはこの数戦で急激に力をつけてきた。この4戦で2勝を挙げ、ハンガロリンクでは予選でポールポジションを獲った。1周のパフォーマンスで争う予選でトップに立つことは、車体、パワーユニット、そしてドライバーの純粋な速さが最速であったことの証明にほかならない。

「ラグの問題がなければ、ポールポジションを獲れていたのに……」

 シルバーストンでは0.183秒差とポールに限りなく近いところまでいったが、パワーユニットの出力特性がフェルスタッペンのペダルワークに付いていけず、そのチャンスを逃した。

 その悔しさがあったからこそ、次のドイツGP、そしてこのハンガリーGPに向けて、ホンダも必死に対策を施してきた。そして、ドライバビリティが重要となる中低速コーナーが大半を占めるハンガロリンクでは、まったく問題は起きなかった。

「シルバーストンで『あれがなければポールが獲れた』というところから始まって、原因としてコース特性だったり、空タンクでのアタック時のスロットルの踏み方だったり、コーナーの特性だったり、ギアの使い方だったり、いろんな組み合わせがあるなかでデータを踏み直し、ダイナモテストをしながらここまでやって来ました」(田辺豊治テクニカルディレクター)

 実は予選Q3の1回目のランで、フェルスタッペンが「最終コーナーの出口でディプロイメント(ERS回生)が切れた!」と訴えた。

 どこで発電し、どこで電気を使ってアシストするか、ホンダのエンジニアはエネルギーマネジメントと呼ばれる配分をプログラムしている。しかし、フェルスタッペンがマシンの限界ギリギリまで攻めた走りをした結果、想定以上にスロットルを踏む時間が長くなり、ラップの最後で電気が足りなくなったのだ。それはつまり、エンジニアの想定を上回る走りをフェルスタッペンがしたことにほかならない。

 ホンダは12分間で行なわれるQ3のなかで、2回目――つまり最後のアタックに出るまでのわずか5分足らずの間にエネルギーマネジメントの計算をし直し、最終アタックでは完璧にフェルスタッペンの驚異的なドライビングに合わせ込んでみせた。チームやドライバーだけでなく、ホンダも着実に進歩している証だ。

「(Q3に入って)乗り方、踏み方が変わったので、HRD Sakura、HRDミルトンキーンズ、そして現場の同時進行で対応しました。エンジニアたちは迅速、かつ適切な対応をしてくれたと思います。ですから、2回目のランまでに間に合わないとか、遅れるといったようなことはありませんでした」

 このポールポジション獲得は技術者たちにとって、より大きな意味があったようだ。

「結果は『レースがすべてだ』という考え方もありますし、長い距離を走っていろんな出来事があるなかで勝つのがレースなんですが、純粋な速さという点で『ポールポジションをいつかは獲りたい』というのはありました。

 その一方で、開幕からずっとメルセデスAMGとフェラーリに先を越されている状況が続き、そう簡単なものではないなとも思っていました。しかし今回は、コース特性とマシンの仕上がり、ドライバーのコンビネーションでポールポジションを獲ることができ、非常に励みになりました」

 フェルスタッペン自身も、史上最年少ポール記録がかかった昨年のメキシコGPで達成寸前までいきながらQ3最後のアタックでミスを犯し、チームメイトのダニエル・リカルドにポールを奪われるという辛酸を嘗めていた。それだけに、本人は「気にしていない」と言いながらも、「これでもう同じ質問はされなくて済む!」と冗談も飛び出すほど喜びもひとしおだった。

 史上100人目のポールシッターとなり、ホンダにとっては2015年のF1復帰後初、そして2006年の第3戦・オーストラリアGP以来のポールポジションをもたらした。

 決勝もそのままスタートを決めてリードし、ピットストップも絶妙のタイミング。今季3勝目は手中に収めたかに思われた。

 しかし、メルセデスAMGはピットストップを遅らせて、6周フレッシュなタイヤで一気に攻めてきた。それでもうまくいかないと見るや、今度はもう一度ピットインして、20秒後方に下がってでもミディアムタイヤに履き替え、1周2秒速いペースで猛攻を仕掛けてきた。

「僕はハードタイヤで、ミディアムタイヤを履いたルイス(ハミルトン)の1秒以内のタイムで走り続けようとトライしたけど、ある時点でタイヤ(の寿命)が終わって1.5秒差になってしまい、そのうち2秒差になってしまった。マシンはスライドするし、完全にラバーがなくなってしまったようなフィーリングだったよ。そうなってしまうと、ドライバーとしてできることはほとんどない」(フェルスタッペン)

 ホンダも残り周回数で『オーバーテイクボタンを1周4秒、4周押してもいい』として、バッテリーが空になるまで使い切ってギリギリまで攻めたが、これだけのタイヤ差は如何ともしがたく、残り4周でフェルスタッペンはあえなくハミルトンに抜かれ、首位から陥落した。

 これ以上、できることは何もなかった。「最初から最後まで全開だった」と全力を出し切ったからこそ、フェルスタッペンは晴れやかな顔をしていた。

「今日のレースがそうだったように、ルイスは必要なら究極までプッシュすることができる。いつもそれだけのマージンを残して走っているんだ。今もメルセデスAMGが最速のマシンであることは変わらない。それはシンプルな事実だ。



追い上げてくるメルセデスAMGから逃げるレッドブル

(レッドブルが勝った)オーストリアではオーバーヒートの問題を抱えてプッシュできなかったし、ホッケンハイムでは前がトリッキーな状況だったから限界点でマシンをドライブできなかった。でも、今日は全開で走っていた。それは僕が全開でプッシュしたからだけど、それによって彼らの総合力でどこまでできるのかが見えた」(フェルスタッペン)

 レッドブル・ホンダは、王者メルセデスAMGをいよいよ追い詰めるところまできた。

 山本マネージングディレクターはレッドブルとホンダの着実な進歩に強い手応えを感じている。

「最後はメルセデスAMGの戦略勝ちでしたが、彼らも精一杯だったと思います。メルセデスAMGとレッドブルのトップチーム同士のトップレベルのバトルが見られたのは、F1にとって非常によかったと思います。メルセデスAMGとハミルトンに対して、レッドブルとマックスのコンビは互角に戦えるんじゃないかというのが、今日のレースで見えた気がしました。

 それに最近の面白いレースは、すべてホンダが絡んでいます。それはうれしいですよね。『自分たちがやってきたことが間違いじゃなかった』というのが証明されたという意味でも、いい形でシーズン前半戦を終えることができたと思います」

 シーズン序盤戦にあれだけ独走していたメルセデスAMGに第2、第3の戦略を採らせ、マシンにもドライバーにも全力を出させたのは、レッドブル・ホンダが彼らを攻め立てるところまできたからだ。そういう意味では、ここまでに挙げた2勝以上に意味のあるグランプリ週末だった。