レッドブル・ホンダが、またしても勝った。トロロッソ・ホンダも3位表彰台に上がり、一時はホンダのワンツーフィニッシュもあるか、という夢のような展開だった。 オーストリアGPで勝った時は、暑さを味方につけての勝利だった。そして今回は、雨を…

 レッドブル・ホンダが、またしても勝った。トロロッソ・ホンダも3位表彰台に上がり、一時はホンダのワンツーフィニッシュもあるか、という夢のような展開だった。

 オーストリアGPで勝った時は、暑さを味方につけての勝利だった。そして今回は、雨を味方につけてのダブル表彰台だった。



今季2勝目をマークしたフェルスタッペンと記念撮影

「ものすごくトリッキーなコンディションで、集中力の要求されるレースだったし、ミスが許されない状況だった。レース後の今だから、『あの360度ターン(スピン)は観客のみんなのためだよ』と言えるけど、あの時はミディアムタイヤでものすごくグリップが低く、かなりトリッキーだったから。

 とにかく今日は、僕とチームの間での情報のやりとりがものすごく重要だった。正しい決断を下したからこそ、この勝利を掴むことができたと思う」(マックス・フェルスタッペン)

 ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)、バルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)、シャルル・ルクレール(フェラーリ)、ピエール・ガスリー(レッドブル)らがミスで上位から姿を消していくなか、フェルスタッペンとレッドブルだけがミスを犯さずにコース上にとどまり続け、コンディションが変わるたびに正しいタイミングで正しいタイヤに履き替えていった。

 世間では広く、「ウェットコンディションでは車体性能差が縮まり、ドライバーの腕が出やすくなる」と信じられている。

 その意味において、フェルスタッペンがトリッキーなコンディションのなか、誰よりも優れたドライビングとタイヤ選択の決断をしたことはたしかだ。ドイツGP優勝の最も大きな要因がそれであったことは間違いない。

 しかし、ウェットコンディションで車体性能差が縮まる、というのは間違いだ。パワー差が帳消しになるのは事実だが、低グリップで難しい路面状況になればなるほど、空力性能とメカニカル性能の優れたマシンのほうがドライブしやすく、実質的な車体性能差が広がることさえあるのが、今のF1の常識だ。

 だから、シーズン前半戦のレッドブル・ホンダは、雨の可能性があるレース週末に「ウェットのほうが望ましい?」という質問に対して、「いや……」と否定的だった。車体性能でメルセデスAMGに大きな差をつけられていることがわかっていたからだ。ドライコンディションでグリップ不足に苦しんでいたシーズン前半戦のRB15は、ウェットになればもっと苦しい戦いを強いられていたはずだ。

 しかし、フランス~オーストリアでのアップデートがマシンを見違えるように進化させ、ドライコンディションのシルバーストンでも好走を見せた。それが、ホッケンハイムのウェットコンディションでも生きた。ぶっつけ本番のウェットで安定した挙動を見せたことが、RB15の大きな進歩を物語っていた。

 ホンダのスペック3パワーユニットは、ドライバーのスロットル操作に対するラグの問題が予選で指摘された。だが、前戦に比べればその度合いは小さくなり、確実に改善している。

「かなり改善して軽微になってはいるのですが、まだ(ドライバーの)自分の意思にエンジンのレスポンスがついてきていないところが残ってしまった。ただ、前回はコンマ何秒失ったという言い方をしていましたが、今回はそこまでではなかったみたいです」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、予選で出たラグの問題についてそう説明した。実質的に初めてのウェットコンディション走行でも、パワーユニットのドライバビリティやエネルギーマネジメントに問題はなかったと言う。

「今日はドライバビリティなどに関する不満やパワーダウンといった話もありませんでした。ぶっつけ本番のウェットコンディションでしたが、エネルギーマネジメントもエンジニアたちの間で議論して、雨用にセットアップしていたのがうまくいきました。ドライバビリティが悪くて足を引っ張ったということはありません。ドライバビリティがいいのも(ウェットで好走を見せた)要素のひとつとしてあると思います」

 そして、フェルスタッペンに適切な情報を伝え、適切な情報を引き出してレース戦略を構築したチーム力もすばらしかった。他のどのチームよりも先に動き、なおかつ正しい判断を下し続けたからこそ、フェルスタッペンは集団の先頭をキープし続けることができた。

 灼熱のオーストリアとは真逆の、雨のホッケンハイムで再び、レッドブル・ホンダのチーム総合力が勝利を手繰り寄せた。

「見てのとおり、今日はとてもトリッキーで、ミスを犯しやすい状況だった。今日が彼ら(メルセデスAMG)の日じゃなかった……というだけのことだよ。僕らはとてもいい仕事を成し遂げてきたけど、それでもまだやるべきことは残されている。

 ギャップを縮めるために、懸命に努力しなければならない。僕らが目指しているのは、毎戦勝てるようになることだ。だから、やらなければならないことは、まだたくさんある」(フェルスタッペン)

 この3戦で2勝を挙げたのは、幸運でも偶然でもなく、異例の状況下で勝利を手繰り寄せる実力があったからだ。次は通常のコンディションでも勝てるようになること――それがターゲットだ。

 それはすなわち、チャンピオンシップに挑戦する、ということでもある。フェルスタッペンも、レッドブルも、ホンダも、見ているのはもっと先だ。