昨季の世界フィギュアスケート選手権で、羽生結弦と宇野昌磨は2位と4位を獲得し、3番手の田中刑事は14位で終えた。日本男子は実力的に世界を牽引する勢力になっているが、上位2名とその下の力の差は従来よりも開いてしまった感がある。 その差を…

 昨季の世界フィギュアスケート選手権で、羽生結弦と宇野昌磨は2位と4位を獲得し、3番手の田中刑事は14位で終えた。日本男子は実力的に世界を牽引する勢力になっているが、上位2名とその下の力の差は従来よりも開いてしまった感がある。

 その差を埋めるために必要なのは、若い選手たちのレベルアップだ。



日本スケート連盟シニア合宿に参加した島田高志郎

 7月の日本スケート連盟シニア合宿には、初出場だった2018年世界選手権で5位になりながらシニア2年目の昨季は力を出し切れなかった友野一希、ケガからの本格的な復帰シーズンを迎える山本草太、そして、昨季の世界ジュニア出場選手、島田高志郎も参加した。

 その中でも目を惹きつけられたのは、ショートプログラム(SP)の曲かけで、勢いがあってメリハリの利いたステップシークエンスの滑りを披露した友野だ。もともとリズム感のある選手だが、昨季は柔らかな表現を意識していたように見えた。だが、今回の練習で見せた滑りでは、これまでにないキレと力強さも加わっていた。その要因について、友野はこう話す。

「オフの間は、すぐに改善できるスピンとフリーレッグの使い方にたくさん取り組んできました。とくに、フリーレッグは昨シーズンもったいなかったところがあるので、直さなければいけないと思っていました。セントラルスポーツのトレーナーについてもらい、週2回は内容の濃い陸上トレーニングもしています。ウエイトトレーニングでも、全身をしっかりコントロールするために、どの筋肉を使っているかを常に意識していいます。

 今は氷上でもどの筋肉を使っているかが、かなりわかるようになってきました。その成果で体の使い方が改善し、とくに姿勢が良くなったと感じています。私生活でも、歩く姿勢は以前と比べて体の中に芯が通っている感覚もあるので、それをスケートに生かせるようにしたいです」

 そうした姿勢の保持がメリハリの利いた滑りにつながっている友野の新プログラムは、SPはフィリップ・ミルズ氏の振り付けの『ザ・ハーデスト・ボタン・トゥ・ボタン』だ。

「これまで興味を持っていたコンテンポラリーで、しっかり音楽を解釈しなければいけないのですが、振り付けをしてもらいながら、フリーレッグの使い方やバレエの所作なども教えてもらいました」と、手ごたえを感じている。

 また、フリーはミーシャ・ジー振り付けの『ムーランルージュ』で、「今シーズン目標にしているのは、力強い演技をすること。それをすごく後押ししてくれる曲になっています」と、自らに対する期待も高くなっている。

 山本草太は、SPの曲かけで、大きさがあって丁寧なスケーティングのステップが印象的で、最初に4回転サルコウを入れて4回転トーループを連続ジャンプにする意欲的な構成に挑んでいた。

「昨季最終戦のチャレンジカップで4回転トーループを跳んだあと、今季は4回転サルコウもショートとフリーの両方に入れる予定なので、それに取り組んでいます。今のところ、トーループのほうが練習でも確率はいいですね。チャレンジカップでは最初のジャンプで1本だけだったので集中できましたが、フリーでは2本入れるのでミスが出てしまいます。トーループに関しては曲の中で入れられる確率もだいぶあがってきましたが、サルコウも含めて全部の4回転を決められるように練習中です」

 新プログラムは自分で選んだ曲で、SPは『エデンの東』、フリーは『イン・ジス・シャツ』。振り付けは、ともにパスカーレ・カメレンゴだ。

「ショートは壮大な曲で、自分でもそういうスケートをしたいと思っています。フリーはしっかり演技をすれば大人っぽいプログラムになると思いますが、曲調が単調なので、滑りも単調になってしまいます。いい曲だと思って選んで実際にやってみて、周囲からは『ケガの間に良くなってきたスケーティングを生かせる』というアドバイスももらえているので、そういうところを見せて単調にならないようにしたいと思います」

 新シーズンを前に「昨季は日本選手権がとても悪かったので、今年は表彰台に上がって世界選手権に行きたい」と、目標を掲げている山本。ケガをしていた時に進化したスケーティングも武器にして、上位を目指す意欲も十分だ。

 また、昨季のジュニアグランプリ(GP)ファイナルで3位になった島田は、全日本選手権でもSPで3位発進となり、可能性の高さを見せた。だが、最終戦の世界ジュニアは9位と、悔しい結果でシーズンを終えた。オフの間は氷上で曲かけを通すことを意識したという島田は、トレーナーにスイスまで来てもらって、ウエイトやインターバルなどのハードなトレーニングにも取り組んだ。その成果で、体重も2kgほど増えた。

「ジャンプを跳ぶ時は少し重い感じもするけど、持久力はかなり向上したと思う」と言うように、SPの曲かけでも終盤のステップシークエンスにはスピードがあり、迫力を感じさせた。

「今はトリプルアクセルがかなり安定してきて、プログラムにも2本入れる予定です。4回転トーループと4回転サルコウはまだ調子が悪くてなかなか決まらないのですが、これからはその安定を目指していかなければいけないと思います」と話す島田だが、7月には4回転ルッツも1回だけクリーンに降りている。

「もちろん将来的には(4回転ルッツも)プログラムに入れたいし、そのための練習なのですが、最初はお楽しみ程度でやってみたら、逆にそれが良かったようです。楽しみながらやることで、気持ちも高まります」と言う。もちろんそれは、4回転トーループや4回転サルコウの確率アップにもつながる。この日の練習でも、最後には何回も4回転ルッツに挑戦していた。 

 新プログラムは、フリーは指導を受けるステファン・ランビエル振り付けの『アーティスト』で、SPの『ステイ』はフィギュアスケートの振付師ではなく、ランビエルと交流のあるカナダのダンサーに振り付けを依頼した。新境地を切り開く取り組みにも挑戦して、新たなジャンプにも取り組む島田が、表現者ステファン・ランビエルの指導でどこまで才能を開花させるのか。今季は、そこにも期待をしたい。