球速なら「MAX〇〇キロ」といった具体的な数字があって、ある程度の印象は与えられることができるが、 投手の”緩急”のテクニックや内野手の”フィールディング”のうまさを文章で伝えるのは難し…

 球速なら「MAX〇〇キロ」といった具体的な数字があって、ある程度の印象は与えられることができるが、 投手の”緩急”のテクニックや内野手の”フィールディング”のうまさを文章で伝えるのは難しい。だが今回、西日本短大付(福岡)のショート・近藤大樹(だいき)の守備のすごさをいろんな表現を駆使して、なんとかお伝えしたいと思う。

 身長171センチ、体重70キロ。サイズ的にはどこにでもいる普通の選手である。ところがいざショートのポジションにつくと、どんな難しい打球でもいとも簡単に捕球し、確実にアウトにする。おそらくプロに交じっても、まったく遜色がないだろう。



守備だけでなく、パンチ力があるバッティングも魅力の西日本短大付・近藤大樹

「高校生でこんなうまいショート見たことない」。これが近藤の第一印象だ。ドラフトまで、今年は”近藤推し”でいこうと思っている。それぐらいの逸材である。

 では、近藤の何がすごいのか――。

 彼はいつもどこかを見ている。足元を見て、風を見て、太陽の位置を見る。走者が出れば、ランナーを見て、相手ベンチを見て、打者の仕草を見る。そして最後に味方野手のポジショニングを見る。

 打球が飛んでくる前に、なるべく多くの情報をインプットする。近藤の場合、ただ情報を集めるだけじゃない。そこからいろんなことを想定し、しっかりと準備する。

 ある試合で、二塁ベース前あたりに飛んできたゴロがイレギュラーして、捕球しようとする近藤の前でポーンと跳ねた。「あっ!」と思った瞬間、見事に反応して、何事もなかったようにアウトにしてみせた。試合後、近藤は涼しい顔でこう語った。

「見えていたんです。あそこ、ちょっと掘れているなぁ……って。あのあたりに打球が飛んだら、ボールは跳ねるか、沈むかのどっちかですから。半身で構えて、跳ねたらうしろ、沈んだら前というふうに決めていました」

 また、打球が外野を抜けた時のカットプレー。打球を追い、外野手が長い距離を走るほど、息が上がり返球が逸れるものだ。近藤にしてみればそれも想定内で、いつもより距離を詰め、大声を出して自分の位置を伝える。

 もちろん、ストライクの返球がこないことも想定済みで、ショートバウンドを難なくすくい上げると、ワンステップで三塁にストライクスロー。スーパープレーを簡単に見せることができる。こういう選手がショートにいたら、バッテリーはもちろん、チームはどれほど助かることか。

「うまい。すごい」と言われ慣れてくると、いつの間にか自分でも「オレはうまいんだ」と思ってプレーする選手が多い。それを自信にできればいいのだが、場合によっては独りよがりのプレーになったり、雑なプレーになったり……チームを救うどころか、迷惑をかけしまうこともある。これまでそうした高校生を何人も見てきた。

 しかし、近藤にはそうした”勘違い”がない。プレーのスピードは間違いなく”超”がつく一級品なのに、打球に対しては最後まで用心深く、適当にこなすことがない。スーッと打球に入り、一瞬でボールの動きを確かめると、フワッと捕球し、サッとステップを踏んでスナップスローで決める。一連の動作のなかに強引さがないから、見ている者に安心感を与える。

 投手が「打ち取った!」と、心のなかで小さなガッツポーズをつくった打球は、まず間違いなくアウトにしてみせる。プロの投手たちが望む”あるべき遊撃手像”を、高校生でありながらすでに体現している。

 守備のことばかりだったが、5月の九州大会ではバッティングでも驚かせた。高校ナンバーワン左腕の呼び声が高い興南(沖縄)の宮城大弥から3安打4打点の活躍で、チームを九州大会優勝に導いた。

 野球に賭ける一途な思いと、豊富な練習量。それを「これぐらいはやって当然」と涼しい顔で言ってのける根性。

 とにかく、西日本短大付の試合を見に行く機会があれば、近藤のプレーを見てほしいと思う。一つひとつの動作を見るだけでも退屈しないはずだ。派手さはないが、当たり前のことを当たり前にやってのける近藤のプレーは、間違いなく高校生のレベルを凌駕している。