「今のユウタは昨季とはほとんど別人みたいに見える。自信がついて、軽いジョークも飛ばすようになった。そうやって快適に感じられていることが、プレーにも好影響を及ぼしているのだろう」 ラスベガスで開催されたNBAサマーリーグ開始直後のこと。メンフ…

「今のユウタは昨季とはほとんど別人みたいに見える。自信がついて、軽いジョークも飛ばすようになった。そうやって快適に感じられていることが、プレーにも好影響を及ぼしているのだろう」

 ラスベガスで開催されたNBAサマーリーグ開始直後のこと。メンフィス・グリズリーズの顔馴染みの職員にそうに告げられた。そのあと、実際に渡邊雄太のプレーを見ると、その職員の言葉は大げさには思えなかった。




サマーリーグで成長した姿を見せた渡邊

 今夏の渡邊はソルトレイクシティ、ラスベガスでの4試合で平均14.8得点、7.3リバウンド、1.5アシストという好成績をマーク。オフェンスでの動きはアグレッシブで、守備での数字に残らない貢献度の高さも相変わらず。サマーリーグ通算7勝2敗と突っ走ったグリズリーズの攻守の要として、堂々とプレーする姿からは風格すら感じた。

「積極性とかは自信からくるものなんですけど、1年間NBAとGリーグを通して経験してきた部分が生かせている。それは今、コート上で出せているんじゃないかなと思っています」

 そんな言葉どおり、渡邊本人も手応えを得ているのだろう。左足ふくらはぎを軽く痛めたためにラスベガスでの最後の5戦は欠場したものの、焦燥感は感じず、とにかく笑顔ばかりが目立った。

 もっとも成長を感じさせたのは、ラスベガスでの2戦目となった現地時間7月7日のロサンゼルス・クリッパーズ戦である。この日の渡邊はシュートタッチがいまひとつで、前半はFG1/6で3得点のみ。去年までならこういったゲームではシュートは控え目にし、得意のディフェンスでチームを盛り立てようと気持ちを切り替えていたかもしれない。そうやって得点力以外でも貢献できるところが長所だったことは確かではある。

 しかし、”2年目の渡邊”はひと味違った。クリッパーズ戦では第3クォーターに入っても積極性は変わらず、やがてロングシュートを鮮やかに決め始める。

 結局、第3クォーターは2本の3ポイントシュートを含む3本のFG、1本のフリースローをすべて成功。この10分間だけで9得点を挙げ、前半終了時点で1点だったチームのリードを11点に広げる立役者になった。グリズリーズの勝利に大きく貢献した渡邊は、試合後の言葉も滑らかだった。

「今日は内容はよくなかったんですけど、それでも12(得点)、7(リバウンド)という数字が残せているっていうのは成長かなと。これで満足することなく、どんどん上を目指してやっていきたいです」

 何より心強いのは、これまで渡邊の課題として指摘されてきたフィジカルが確実に改善されているように見えたことだ。相手ディフェンダーのチェックを受けても弾き飛ばされず、”アンド・ワン(ファウルされながらシュートも決める)”のシーンも何度か目にした。そうしてフィニッシュするか、フリースローがもらえるようになれば、得点は必然的に増えるはずだ。

「(フィジカル強化は)去年のシーズンを通してずっとやっていましたし、このオフに体重もけっこう増えました。まだまだ継続してやっていかなければいけないですけど、徐々に力はついているんじゃないかなと思います」

 カレッジ時代から渡邊のプレーを見てきた筆者にとって、この確実な成長ぶりは驚きではない。ジョージ・ワシントン大学時代も1年〜4年の間に7.4、8.4、12.2、16.3得点と毎年確実に平均得点をアップさせた。課題を自覚し、豊富な練習量でそれを克服する聡明さと適応能力こそが、渡邊の最大の長所。それゆえに、アメリカでは平均レベルの身体能力でもNBAまで辿り着けたのだ。

 もちろん、若手選手が集うサマーリーグで支配的なプレーで魅せたからといって、その実績がNBAでの活躍に直結するわけではない。渡邊がマイナーリーグでハイレベルの数字を残せることは昨季に証明済み。今後、NBAでも同じようにできると示していかなければいけない。

 フィジカルと同様に課題として挙げられる3ポイントシュートの精度向上は必須。サマーリーグでは3ポイント成功率が36.3%(4/11)とまずまずだったが、その数字を上のレベルでも保てるかどうかが最大のポイントになるだろう。

 ただ……まだ先は長いことを理解したうえで、それでも”2年目の渡邊雄太”には期待せずにはいられない。サマーリーグで数字を残したからというだけではない。灼熱のラスベガスでの、渡邊の姿勢、口調、プレーの端々から、「やっていける」という自信がみなぎっているように感じられたからだ。

「2ウェイ契約(の2年目)で、アピールしないといつ切られてもおかしくない。精神的負担でいうと(去年よりも)今のほうがかかっていると思います。ただ、それよりも自信のほうが勝っている。コート上でも自信を持ってしっかりとプレーできたらいいですね」

 あとはその”自信”を、NBAシーズン中に”確信”に変えるだけ。準備を整えて迎える2019-20シーズンは間違いなく勝負の年になる。渡邊のアメリカでのキャリアを左右するほどに重要な1年が、もうすぐ始まろうとしている。