宮原知子はまだあきらめていなかった。昨季は宮原にとって試練のシーズンだった。グランプリ(GP)ファイナル6位、全日本選手権3位、そして世界選手権でも6位と振るわず、苦しい戦いを強いられた。本人もこう振り返る。

「気持ちの面で揺れたシーズンでした。自分がもっと自立しないといけないとすごく感じたので、今季はその経験を生かして、気持ちが引けてしまったと思うような試合がないようにしていきたいです」



全日本フィギュアシニア強化合宿に参加した宮原知子

 そんな熱い気持ちと高いモチベーションをもって、今オフは新たなチャレンジに取り組んできたという。それが、2シーズンほど前から心に秘めていた新しいジャンプの習得だ。何としても武器にしたいと思っているのはトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)だが、そう簡単には跳ぶことができないジャンプだけに、練習時間をかけていくしかない。

「トリプルアクセルを跳ぶ練習は、時間を作ってやっています。(ジャンプ自体は)だいたい回ってきていますけど、まだ降りられていないので、まずは1回でもいいから立ちたいです。その日にもよりますが、一番よかったジャンプは、回ってコケたというレベルです。いいときはいい感じで挑めるんですけど、頭でわかっていても、もうひとつ体にそれをつなげられないという感じです」

 追われる立場でもあり、追う立場でもある、少し微妙な立ち位置にいる現在の宮原。国際大会でメダル争いをするためには、トリプルアクセルを必須のジャンプにしていかないと、勝負にならなくなる可能性もある。もちろん、それ以外のジャンプについても、高いGOE加点をもらえるように質を上げていくことが必要だ。ここ数シーズン、ジャンプの改良に取り組んでいる宮原の浮上のカギを握るのは、今季もやはりジャンプということになるだろう。

 本人もそれは重々承知していた。

「ジャンプは1本1本、見直してやっています。全体的には昨シーズンよりもよくなっていると思います。トリプルアクセルという自分にとって難しいジャンプに挑戦していることで、ほかのジャンプでは失敗できない気持ちが強くなり、以前よりは確率よくジャンプが入るようになっている感じがします。とにかく、トリプルアクセルについては、今年中に練習で1本は降りたいです」

 今季の新プログラムは、宮原の新たな一面が見られるものになるという。ショートプログラム(SP)は『Yalla, Tabla & Percussion Solo, Egyptian Disco (Buddha Bar Edit) / DJ Disse 』という、3曲を組み合わせた構成。フリーがジョン・ベイレス編曲の『シンドラーのリスト』となった。振付師はSPがブノワ・リショー氏、フリーはローリー・ニコル氏だ。

 リショー氏のプログラムは独特な表現と動きが特徴。坂本花織と髙橋大輔が昨季演じたフリープログラムも手掛けており、高い評価を受けた。また、ニコル氏は日本女子のエースだった浅田真央のプログラムを長年作ってきた世界的にも著名な振付師で、宮原の魅力を存分に引き出してくれるに違いない。

「SPはエジプシャンな感じで、途中からヒップホップになっている曲です。いままでとは全然違う自分を見せないといけないんですけど、すごく激しい動きが入っている振り付けです。これまで自分がやったことがないステップがたくさん入っているので、振り付けのときには体中が痛くなったんですけど、だいぶ息の使い方や曲に馴染んできたかなという感触なので、新しい世界観を見せたいと思っています。

 フリーは『シンドラーのリスト』とラフマニノフの『鐘』が混ざった、ジョン・ベイレスさんのピアノ曲で、こちらはSPと違って、生と死の重いテーマのプログラムになっています。『シンドラーのリスト』の映画のお話になぞらえて、自分でテーマを考えました。重く深いテーマをいかに見せるかというのが大切になります。コンテンポラリーダンスを取り入れた動きがたくさん入っていて、いままでのバレエっぽい感じとは違う、もう少し型にハマっていない動きで、どちらかというとちょっと苦手な要素が入っているので、さらに練習をたくさんしていきたいと思っています」

 ジャンプ同様、演技面でも進化を遂げようとしている宮原が、どんなプログラムに仕上げてくるのか、いまから楽しみだ。

 今年3月で21歳になった宮原は、すでに日本女子の中ではベテランの部類に入る。長年守ってきたエースの座も、年下の坂本や同門で急成長した紀平梨花に奪われた格好だ。しかし、負けるつもりはない。「自分にはまだ伸びしろが十分にある」と、さらなる成長を目指して、新たな取り組みに真摯に向き合っていた。

「今オフの新プログラムの振り付けには、濱田(美栄)先生はついてもらわず、トレーナーと2人でトロントに行きました。自分で曲を決めて、自分でどういう入り方をするとか、振付師の先生と話をして作りました。最終的には濱田先生と一緒に整理していくのですが、作る過程では完全にひとりだったので、そこは昨年までとは違いますし、すごく楽しかったです。

 毎年、『今年は違う自分を……』と考えてやっていますけど、いつも最終的には何となく同じというか、自分ができるプログラムになっている感じがありました。だから、今年こそは全然違うものをやりたいと思って、コンテンポラリーダンスという新しいジャンルに取り組んでいます」

 心身ともに「自立した大人」として強いメンタルを持って試合に臨み、殻を破ることができれば、昨季は後塵を拝した後輩たちと、好勝負を繰り広げることになるだろう。