第9戦・ドイツGPでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)があっさりと今季5勝目を達成したことは、以下のコメントがその強さを何よりもよく象徴している。

「まず10周ほど攻めたんだ。次の10周はタイヤを温存した。最後の10周は、かなり余裕があったかな」

 レースは4.5秒差の勝利だったが、もっと大差を築くことも可能だった、というわけだ。



ドヴィツィオーゾはドイツGPでもドゥカティの扱いに苦しんでいた

 おそらくこの事実は、レース後にドゥカティのピットを重苦しい雰囲気にする大きな要因になった。

 そして、レプソル・ホンダのチームマネジャー、アルベルト・プーチのコメントがさらにその沈鬱さに拍車をかけた。スペインの日刊紙のインタビューに応えたプーチは、ドゥカティのパオロ・チャバッティ(スポーティングディレクター)の「マルケスのずば抜けた才能を別にすれば、ホンダは何も結果を残せていない」という言葉に対して、以下のように答えたのだ。

「ホンダでは、多くの選手が勝利を重ねてきましたよ」とプーチ。「ドゥカティは、たったひとりの選手がある一年だけ圧倒的な成績を収めましたね。今も彼らは全力を傾注して戦っているようですが、結果を残せていません。今に至るも、なにひとつ勝ち得ていないじゃないですか」。

 今回のレース結果により、アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)はマルケスにさらに14ポイント差を広げられてしまった。レース中はスズキやヤマハについていくことに精一杯だった様子を見ても、ドゥカティは2018年(と2019年の序盤)にレースを牽引していたアドバンテージをすでに喪ってしまったようにも見える。

 レース後に、ドヴィツィオーゾはドゥカティが抱える現状をこんなふうに述べた。

「いつも同じところで限界に突き当たる。とにかく、旋回性の改善に集中しなければならないことはハッキリしているんだ。デスモセディチGP19には優れている部分もたくさんあるけれども、ライバル勢と比べるとの旋回性の不利はかなりひどい」

 この問題について、ドヴィツィオーゾは幾度となくドゥカティのマネジメントに訴えてきたが、あまり聞き入れられた様子はない。たとえ2019年の後半を犠牲しても、今は長期的な視野で検討しなければならない時期なのだ、とすらドヴィツィオーゾは言う。

「将来に向けた戦略を立てる必要がある。この状況を一変させるためには、僕たちはもっともっとがんばらなきゃいけないんだ」

 ここ2戦のドゥカティは、厳しいレースの連続だった。アッセン(第8戦・オランダGP)は切り返しで苦労し、ザクセンリンク(第9戦・ドイツGP)では、デスモセディチのポテンシャルを削ぐようなコーナーの連続に苦しめられた。ジャック・ミラー(プラマック・レーシング)の言葉を借りるなら、「もう、そこらじゅうで滑るわ、跳ねるわ、暴れるわ」という状態で、「乗っていて、ぜんっぜん楽しくなかった」のだとか。

 ザクセンリンク・サーキットはタイヤのエッジを使って旋回しながら坂を急激に下り、あるいは登っていく高低差の激しいコースで、旋回に問題を抱えるドヴィツィオーゾはスロットル操作を犠牲にせざるをえなかった。

「ハードブレーキングが必要なのはほんの2、3カ所で、とくに高速コーナーではフロントから旋回していく感覚がまるでなかった」と、ドヴィツィオーゾのチームメイトで4位のチェッカーを受けたダニロ・ペトルッチは話す。

「3コーナーから11コーナーまでは、ずっとブレーキを使わずにスロットルの加減で操作をするので、フロントタイヤに加重していかないんだ。そこが僕たちの弱点で、昨日(土曜)は9コーナーで少しがんばってみたら、気がつくとコースサイドで転んでいたよ」

 ここ数年はずっと、こんな状態が続いている。そして、この欠点は「バイクのDNA」なのだと、ドヴィツィオーゾは言う。

 彼がマルケスの最大のライバルであった2017年と2018年、彼らはこの短所にさほど注力をしてこなかった。現在、ドヴィツィオーゾとペトルッチはそれぞれランキング2位と3位につけているとはいえ、それにしてもなぜ彼らはここまで苦戦を強いられているのだろうか。

 ドヴィツィオーゾの言うとおり、今年のヤマハとスズキは長足の進歩を遂げている。両陣営とも、似たような方法でタイヤをうまく温存させる方法を獲得したようだ。ホンダの場合はやや事情が複雑だが、低速域から溢れ出るパワーとトップスピードを備えた強力なエンジンを使いこなすマルケスは、無敵と言っていい状態だ。

 一方、カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)は、「まずまずのポジションでレースを終えれば、そこに到達するのにどれくらい苦労したかなんて、人はなかなか理解してくれないものだよ」とも話す。要するに、ドゥカティのブレーキングスタビリティと優れた加速性能は、もはや十分な武器たり得ていないのだ。

 今年のマルケスは、独走してレースをコントロールするシーンが多い。機を見れば逃さずに、圧倒的なリードからペースを自在に操っている(これまでのところ、マルケスがトップを周回した回数は、2番目の選手よりも119周多い)。

 さらに、ミシュランの2019年リアタイヤ用コンパウンドの進化ともあいまって、タイヤを温存する大集団のレース展開になったのは、開幕戦のカタールGPのみだ。「今年は新技術を投入し、(リア用)コンパウンドに手を加えたんです」と、ミシュランの二輪モータースポーツマネジャー、ピエロ・タラマッソは言う。「グリップと安定性の面で、進歩を遂げています」。

 その結果、レースが始まってもタイヤを温存する様子はあまり見られなくなってきた。「序盤から最後まで速いペースでレースが推移して、全員が限界まで攻めるようになっている」と、今回の決勝後にドヴィツィオーゾは説明した。「タイヤをしっかり使って速いペースで走らなければならない。そこが去年との違いなんだ」。

 2017年を振り返れば、ドヴィツィオーゾが優勝した6戦中4戦で、最速タイムを記録したのは彼ではなかった。スムーズさと安定性を発揮して周回することが、勝利の要諦だったのだ。現在では、彼のそのふたつの武器、換言すればタイヤマネジメントと戦略は、もはや必要とされていないのかもしれない。

 ドヴィツィオーゾの忍耐も、もはや限界かもしれない。この4年間、彼はこの問題を繰り返し訴え続けてきた。しかし、それでも問題は解決を見ていない。ここ最近の彼は、イタリアメディアに対しても、かなり手厳しい言葉を返すようになった。

 ドイツGPのレースウィークでは、「マルケスに迫るためには、もっとアグレッシブになる必要があるのではないか」という質問に対して、「たとえばアッセンでは11番グリッドからスタートして、1周目で6番手までポジションを上げたけどね」とピシャリと言い返した。「でも、それでは十分ではない。と、そう言いたいわけだね」。

 ドヴィツィオーゾの主張にも一理はある。土曜の段階で勝機が途絶えたレースも何戦かであったとはいえ、オースティン(第3戦・アメリカズGP)やヘレス(第4戦・スペインGP)、ムジェロ(第6戦・イタリアGP)、アッセン、そしてザクセンリンクでは、まずまずのポイントを獲得している。マルケスの優勢さえなければ、ドヴィツィオーゾが上々のシーズンを過ごしていたかもしれないのだ。完走したレースはすべて、5位以上の結果で終えているのだから。

 だが、マルク・マルケスという圧倒的な存在が目の前にいる以上、それを受け入れて満足できるものでもないだろう。

 ドゥカティはやはり、強くなければならない。そして、サマーブレイク明けの2戦では、優勝争いを演じる力強い姿を再び見せてほしい。シーズン全体を通じてマルケスに対抗してゆくためには、ドヴィツィオーゾのコメントは謙虚に聞き入れられてしかるべきだ。さもなくば、今後も似たようなレース展開がまたしても繰り返されるだけだろう。

西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira