7月末からの国際試合3連戦、そして9月20日に日本で開幕を迎えるラグビーワールドカップに向けて、ラグビー日本代表は宮崎で合宿を重ねている。参加している選手に大きなケガなどがなければ、W杯の最終メンバー31名は今回の合宿から選ばれる可能性が高い。



ジョセフHCから高い評価を得ている23歳の木津悠輔

 今回の宮崎合宿には、SH(スクラムハーフ)日和佐篤、CTB(センター)立川理道、WTB(ウィング)山田章仁といった「2015年W杯組」が落選した。そんななか、今年になって急にコーチ陣の評価を上げて宮崎合宿に呼ばれた、代表キャップ0の「シンデレラガール」ならぬ「シンデレラボーイ」がいる。それが、FW最年少23歳のPR(プロップ)木津悠輔だ。

 個人的には、サンウルブズでプレーし続けていたベテランPR浅原拓真が選ばれると思っていた。ところが、日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、日本代表候補で編成された特別編成チーム「ウルフパック」で活躍した木津を選んだ。

「木津には感心している。若手だが(ウルフパックで)戦えるところを自ら立証した。とても激しい選手で、機動力もある。求めるスキルを持ち合わせているので、将来も有望だ。彼がW杯のメンバーに入るかわからないが、非常に期待している」(ジョセフHC)

 ジョセフHCから賞賛の言葉をもらった木津は、語気を強めて思いを語った。

「日本でW杯が開催されるのは、選手人生において一生に一度。日本代表候補としてチャンスをいただいているので、アピールして日本代表に入りたい」

 身長178cm・体重113kgを誇る木津のポジションは、背番号3番の「右PR」だ。スクラムを組んだ時には両肩に相手の体重がかかるので、「タイトヘッドプロップ」とも呼ばれている。日本はワールドカップでロシア、アイルランド、スコットランドといったセットプレーの強い欧州勢と戦うため、スクラムの安定は欠かせない。3番のポジションは、まさにスクラムの根幹を支える要だ。

 また、PRというポジションはSHやHO(フッカー)と並んで、替えのきかない専門職とも言われている。W杯の最終スコッド31名のうち、右PRとして選ばれるのは3名と予想されるなか、24歳の具智元(グ・ジウォン)と経験豊富な山下裕史は、ほぼ当確だろう。木津は3つ目の枠を、突破力のあるヴァル アサエリ愛と争っている形だ。

 天理大を卒業した木津がトヨタ自動車でトップリーグデビューを飾ったのは、わずか10カ月前のこと。今年に入った段階で木津は、日本代表候補の合宿メンバーにもサンウルブズのメンバーにも招集されていなかった。

 そんな折、トップリーグ選抜の一員に選ばれた木津は、2月にフランスの強豪クラブ・クレルモンと対戦する機会を得る。

「(活躍すれば日本代表に呼ばれる)チャンスはあると思っていました。だから、短い時間でどのようにアピールするかを考えていた」

 各国の代表経験者が数多く在籍するクレルモンを相手に、木津はタックルの激しさやスクラムの強さをアピール。それが関係者の目に止まり、日本代表候補の合宿に初めて呼ばれることになった。そしてその後、ウルフパック5試合での活躍が認められ、宮崎合宿メンバーの切符を掴んだのである。

 プロ2年目で宮崎合宿に呼ばれ、一気に注目を集めるようになった木津だが、実は高校時代までは無名の存在だった。

 生まれは大分県由布市。小学校3年から中学校までは、剣道に打ち込んでいた。中学生ながら98kgの巨漢だったため、大分の日本文理大付属高からラグビー推薦の話もあったという。だが、木津は地元の由布高に進学し、ラグビー部の監督の勧誘に「おもしろいかな」と思い、興味本位で楕円球の門を叩いた。

 当時の木津は、「地元で消防士になりたい」と思っており、大学でラグビーを続けるつもりはなかったという。ただ、「剣道にはない魅力を感じた」と徐々にのめり込み、花園出場の経験がないながらラグビーの強豪・天理大に進学。すると、大学でのPR転向が、木津の才能を一気に開花させた。

 持ち前のパワーを武器に、大学1年時から関西大学リーグ出場を果たすと、大学3年時には大学選手権ベスト4進出に貢献。日本代表に準じる「ジュニアジャパン」にも選ばれ、全国区の右PRへと成長する。そして、トヨタ自動車でも存在感を発揮し、ルーキーながら計15試合に出場を果たした。

 木津に「選手として一番伸びたのはいつ?」と質問をぶつけると、「大学時代より、今です!」という答えが返ってきた。

「大学でも(PRとして)教えてもらったことは多々ありますが、なかなか外国出身選手と組み合うことはなかった。しかし今は、ウルフパックや練習で(自分より身体の大きな)外国出身選手と組んでいるので、さらに成長できています」

 178cmという身長は、W杯で対戦する強豪チームのPRと比較すれば小さい。そのなかで、どうやってスクラムで組み勝つか――。木津は先輩である堀江翔太や稲垣啓太らと積極的にコミュニケーションを取って、いろいろとアドバイスをもらっているという。

「接戦になればなるほど、スクラムなどのセットプレーが大事となります。組む前に(相手に有利な)ポジションを取られないよう、高さや立ち位置、バインド(相手のジャージを掴むこと)などをコントロールすることが重要になる」

 現在、木津がライバル心を燃やしている相手は、同じポジションの具だ。同じ大分の高校(日本文理大付属高)に通っていた1学年先輩である。

「年齢はひとつ違いですが、具さんは世界の舞台を経験しているので、見習うことが多々あります。いいところは吸収していって、切磋琢磨して(具さんを)超えられるようにがんばりたい」

 W杯まで、残り80日あまり。高校や大学時代の成績など、日本代表メンバーの選考にはまったく関係ない。「2月に日本代表候補合宿に呼ばれた時はびっくりしたけど、宮崎合宿のメンバーに選ばれて自信がついた」。無名の高校から日本代表候補まで上り詰めた木津は、今、静かに気持ちを高ぶらせている。

 高校時代、ラグビー部の部員は23名。「1回戦に勝つのがやっと」の実力だった。現在、母校のラグビー部の部員は7名(そのうちマネジャーが3名)だという。

「花園に出ている有名な高校は数多くありますが、部員が足りなくて花園予選も出られない高校もたくさんある。そういった高校の選手が希望を持てるようながんばりを見せたい」

 果たして、木津はポジション争いに勝ってW杯メンバーとなり、無名高校の星となれるか――。