1年前のオーストリアGPは、レッドブルファンとフェルスタッペンファンで満員のレッドブル・リンクが熱狂に包まれた。チームの地元レースで、マックス・フェルスタッペンがシーズン序盤の不振を払拭して完全勝利を挙げたからだ。



レッドブル・ホンダは地元レースで結果を残すことができるか

 ルノー製パワーユニットを搭載していた昨年は、レッドブルにとってレッドブル・リンクは「チャンスのない」サーキットだった。2014年に開催が再開されて以来、一度も勝利に恵まれるどころか、そのチャンスすらなかった。

 しかし、急に暑くなった日曜の決勝で、ライバルたちがタイヤのオーバーヒートとブリスターに苦しむなか、フェルスタッペンは完璧なタイヤマネジメントで勝利を掴み獲ったのだ。

 ホンダとタッグを組む今年も勝てるのか?

 その問いに対するフェルスタッペンの答えは、素っ気ないものだった。

「あまり高くないだろうね。今年はちょっと厳しいだろう。勝つためには、かなり運が必要だ」

 ポール・リカールで4位に入ったフェルスタッペンだが、それはセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が予選でミスを犯し、7番グリッドに沈んだからだ。何事もなければ、予選ではメルセデスAMGとフェラーリの計4台の後ろで5位、決勝もそのまま5位、という結果になっていた可能性が高かった。

 レッドブル・リンクでもその勢力図は変わらないだろうと、フェルスタッペンは語る。

「上位で何も混乱がなければ、4位か5位だろうね。4位になるか5位になるかは、フェラーリがミスを犯すかどうかだよ。3位になるためには、フェラーリの2台ともがミスを犯す必要がある。もちろん、可能性がゼロってことはないけど、今の僕らはとにかく速さが足りない」

 ポール・リカールでもトップスピード不足が問題になり、ストレートでタイムを失った。

 ひとつは、ホンダのパワーが足りないこと。とくに予選では、ライバルたちがアタックの瞬間だけ「パーティモード」と呼ばれるアグレッシブな点火時期セッティングでパワーを捻り出してくるのに対し、ホンダはICE(内燃機関エンジン)へのダメージを考慮して、まだ十分なパワーを引き出せていない。これによって差が開いてしまう。

 そしてもうひとつは、マシンが空力性能不足なため、中速コーナーでの速さが十分でないこと。そのため、ウイングを立ててダウンフォースをつけざるを得ず、空気抵抗が増えてストレートが伸びなかった。

「トップからそんなに大きく離されているわけではないんだ。常にフェラーリかメルセデスAMGが前にいて、そこから大きく後れをとっているわけじゃない。何か大きな弱点があるのでもなくて、あらゆるところの速さが少しずつ十分じゃないだけ。ポール・リカールでは明らかにトップスピードが足りていなかったけど、メルセデスAMGと比べて2つか3つのコーナーでは、コーナリングスピードも欠いていた」

 メルセデスAMGと比べると、RB15は中速コーナーでの速さに欠いている。空力性能が十分でないからだ。フェルスタッペンが言う2つか3つのコーナーというのは、空力性能が問われるターン6やターン11のことだ。

 ターン11では、ボトムスピードがメルセデスAMGだけ20m/hも速く、レッドブルは10km/h落ち。それでも、他車に比べれば速い。ただしそれは、ストレートを犠牲にしてでもウイングを立ててダウンフォースをつけ、コーナーで稼ごうと決めたからでもある。

 その結果、メルセデスAMGと比べると、コーナーでもストレートでも負けることになる。

 しかし、対フェラーリでは、ストレートで負けてもコーナーで優っている。

「フェラーリはストレートでロケットのような速さだけど、コーナーでは僕らのほうが少し速い」

 ただそれは、フェラーリがパーティモードを使った時のパワー差を取り戻すまでの速さではない。予選ではフェラーリに後れを取ってしまう。開幕前にレッドブルが考えていた「パワー差を車体でカバーしてトップに立つ」という思惑は、完全に崩れ去ってしまっている。

 ポール・リカールでは、ストレートが長く、コーナーが少ないため、フェラーリに負けた。レッドブル・リンクは実質的にコーナーが7つしかなく、スロットル全開率が70%を超えるため(ポール・リカールは60%)、さらに厳しい戦いが予想される。

 パワーが上がれば、ストレートでのロスは小さくなる。しかし、ダウンフォースをつけなければ曲がれないという症状は変わらない。レッドブル・リンク以外の一般的なサーキットでフェラーリに勝てるようにするためには、空力を改善し、コーナリング性能を上げなければならない。

「表彰台に乗りたければ、僕らは車体側もエンジン側も、もっとパフォーマンスの向上が必要なんだ」

 ホンダとしても、パワー向上の必要性を認識している。しかし、現時点での最高速不足がパワーのせいだけでないことは、田辺豊治テクニカルディレクターも示唆している。

「ストレート(スピード)はドラッグとパワーのバランスで決まりますからね。今の我々のバランスは、遅いほうにいる。ラップタイムとして遅いほうにいるということは、トータルのパフォーマンスを上げていかなければならないということ。そこはお互いに手を緩める気はありません」

 前戦のフランスGPでは予選から急に失速し、精彩を欠いたピエール・ガスリーも、これが原因ではないかというおおよその答えは掴んでいるようだ。オーストリアGPでは問題ないだろうと言う。それでも、フェルスタッペン同様に苦戦を覚悟している。

「(これが原因ではないかという)アイデアはあるよ。それが正しいかどうか、まだハッキリと断言はできないけど。去年のレッドブルのマシンは、パワーでは大きな不利を抱えていたけど、車体性能ですべてのライバルたちに優っていたから、コーナーでタイムを稼ぐことができていた。でも、今年のマシンでそれをやるのはトリッキーだろう」

 レッドブルにとっては地元レースであり、今週末にかける思いは強い。その思いはトロロッソもホンダも共有していると、田辺テクニカルディレクターは語る。

「トロロッソはイタリアが地元ですが、レッドブルグループとしてはここが本拠地。チームとして、重点レースであるということはたしかです。だが、今までに投入したなかで最善を尽くすことしかできません。年間のアップデート計画のなかで、きちんとすべてをやり切りたいと思います」

 車体はフランスでアップデートを投入し、パワーユニットも年間3基しか使用できないため、地元スペシャルを投入して戦うようなことはできない。手持ちの道具でいかに性能を引き出して速く走るか、という勝負になる。レッドブル・ホンダの厳しい地元レースがこうして始まった。