NTTインディカー・シリーズ第10戦ロードアメリカで、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)が今季2勝目を挙げた。 第4戦ロングビーチでは、ポールポジション(PP)からぶっちぎりで優勝を果たしたロッシ。今回はPPこそ…

 NTTインディカー・シリーズ第10戦ロードアメリカで、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)が今季2勝目を挙げた。

 第4戦ロングビーチでは、ポールポジション(PP)からぶっちぎりで優勝を果たしたロッシ。今回はPPこそスーパールーキーのコルトン・ハータ(ハーディング・スタインブレナー・レーシング)にさらわれたものの、予選2位でフロントロー外側グリッドからスタートすると、すぐさまターン1でアウトからハータを抜き去り、そこからはグイグイとリードを広げていった。結局、55周のレースで2位に28秒もの大差をつけてゴールし、ポイントトップをいくジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)との差をわずか7点に縮めた。

 ロングビーチと同様、ライバルをまったく寄せ付けない走りでの勝利。これが今のロッシの実力だ。同じマシンを与えられているチームメイトたちも、彼と同じスピードでは走れないことがほとんどで、今回は誰よりも1周につき0.5秒速く走り続けた。最後までペースが落ちることがなかったのに、燃費もまったく心配いらなかったというのだから、ライバルたちも完全に脱帽だ。



ロードアメリカでは圧倒的な速さを見せたアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)

 これでシーズン後半戦に向け、ロッシが念願の初チャンピオンとなる可能性が高まった。ここまで2勝しかできていないのは、彼が不運に見舞われることが多かったからで、「普通に戦えば勝てる」と言うこともできる。そうなれば、アンドレッティ・オートスポートにとっては5回目のシリーズ制覇となる。

 アンドレッティ・オートスポーツのルーツは1993年創業のフォーサイス・グリーン・レーシング。1995年にチーム・グリーンに変わり、2003年からマイケル・アンドレッティが経営陣に加わって、アンドレッティ・グリーン・レーシングになった。2010年からはマイケルが単独でチームを仕切る体制となり、チーム名もアンドレッティ・オートスポートとされた。

 マイケルは優勝回数が歴代4位の42勝、PP獲得も歴代9位の32回を記録し、1991年にシリーズチャンピオンにもなっている。ただし、1996年から2002年まで、アメリカのトップオープンホイールはCARTシリーズとIRLに分裂しており、マイケルはインディ500の属さないCART側で走っていた。キャリアのベストの時期にインディ500は戦えておらず、インディ500での優勝はない。

 しかし、チームオーナーになってからはインディ500で5勝している(2005年ダン・ウェルドン、2007年ダリオ・フランキッティ、2014年ライアン・ハンター‐レイ、2016年アレクサンダー・ロッシ、2017年佐藤琢磨)。

 ロードアメリカでのロッシの優勝は、アンドレッティ・オートスポートにとっての通算64勝目だった。他のカテゴリーを含めると、アンドレッティ・オートスポートは、決して長くはない歴史のなかで、すでに200勝以上をマークしている。ちなみに今年が創立50年目となるチーム・ペンスキーは、同じ2003年から現在まででダントツの94勝を記録。1990年発足で、ペンスキーを脅かす強豪となったチップ・ガナッシ・レーシングは65勝だ。

 優勝回数からすれば、アンドレッティ・オートスポートはすでに一流チームだ。しかし、なぜか真の一流とは感じられない。何かが足らず、”1.5流”感が漂っている。

 チームは、2003年にマルチカー体制をスタートさせた。経費節減が時代の流れとなり、テスト日数が制限されるようになったため、マイケルは4カーエントリーでプラクティスや予選、レースで得られるデータを増やし、それをアドバンテージにしようと考えたのだ。最初の年は2勝だけだったが、トニー・カナーンがチャンピオンに輝き、3年目にはシリーズ17戦のうちの13戦で優勝。6勝したウェルドンがチャンピオンになった。その後もフランキッティが2007年、ハンター‐レイが2012年にチャンピオンになっている。

 アンドレッティの成功を見て、チーム・ペンスキー、チップ・ガナッシ・レーシングも体制を拡大した。現在はガナッシがスポンサー不足から2カーに縮小し、ペンスキーは3台体制がベストとの結論に達しているが、アンドレッティは2003年から4台体制を保ち続け、インディ500にはさらに1台か2台をエントリーさせている。

 しかし、古豪ペンスキーが安定した強さを発揮し続けているのに対して、近年のアンドレッティは伸び悩んでいる。両者の差は、活動資金の安定度とドライバーのクオリティにあると言っていい。

 ペンスキーといえども、資金確保は簡単ではない。フルシーズンスポンサーは、ウィル・パワーのマシンについているベライゾンだけ。ニューガーデンとシモン・パジェノーの2台は、スポンサー数社を何戦かずつシェアしているほどだ。それでも彼らは、レースごとに7ポスト・リグなどのシミュレーターでデータ収集、解析を行なうだけの資金確保を目標としており、それを実現し続けている。そうすることでしかトップに君臨することができないと、理解しているからだ。

 それに対してアンドレッティは、成績よりも資金を追いかける状況に陥りがちで、資金が足りないとなれば、すぐさま開発にしわ寄せがいく。経営基盤を安定させようと、ラリークロスはフォルクスワーゲン、フォーミュラEはBMWで戦い、GT4ではマクラーレンを走らせているが、資金面で窮地に立たされると、エンジンサプライヤー2社まで天秤にかけ、少しでも有利な条件を引き出そうとする。

 このあたりはいかにもアメリカのチームらしいが、それではエンジンメーカーとの信頼関係も盤石なものにはならない。いつライバル陣営に移ってしまうかと心配されるようでは、それも仕方がないだろう。

 ドライバーに関しても、ペンスキーは2年前から元チャンピオン3人を揃え、インディ500には、同レースで過去3勝のエリオ・カストロネベスも起用。やり過ぎとも思えるほどの体制を維持し、ドライバーたちがハイレベルで協力し合う体制を確立している。

 一方、アンドレッティでタイトル獲得経験を持つのはハンター‐レイだけ。ロッシが急成長してチームをリードするレベルになっているが、3人目は、パフォーマンスが低下の一途をたどるのに”クビ”にできないオーナーの息子、マルコ・アンドレッティ。4人目として昨年加入した元インディライツチャンピオンのザック・ビーチは、資金獲得要員と言われても仕方のない存在だ。ドライバーラインアップの強化もされるべきだろう。

 アンドレッティ・オートスポートがペンスキー、ガナッシをコンスタントに打ち負かすためには、エンジニアリングのさらなる強化も必要だ。もちろん、そのためにはさらに資金が必要になるのだが……。

 しかし、何より重要なのは、マイケルを筆頭とする経営陣が、”圧倒的なナンバーワンになる”という意気込みを持ってリーダーシップを発揮することだ。

 ロッシは「世界最速のドライバーになる」「レースで勝つ」「チャンピオンになる」という目標に大きな情熱を持って突き進んでいる。チームにも同じことが求められており、それがないと判断したら、ロッシはそれがあるチームに移ってしまうだろう。来季は「ナンバーワンであり続ける」というプライドを持つペンスキーに移籍するのではないかという噂が流れている。