文=神高尚 写真=Getty Images即戦力か将来性か、戦略と運のドラフトデー八村塁の9位指名に沸いたNBAドラフトは、当日に17ものトレードが発生し、各チームの思惑が飛び交う忙しい1日となりました。2年前には2巡目指名のマルコム・ブロ…

文=神高尚 写真=Getty Images

即戦力か将来性か、戦略と運のドラフトデー

八村塁の9位指名に沸いたNBAドラフトは、当日に17ものトレードが発生し、各チームの思惑が飛び交う忙しい1日となりました。2年前には2巡目指名のマルコム・ブログトンが新人王に輝くなど、指名順位と活躍度は必ずしも一致しなくなってきたNBAではありますが、現時点での各チームを評価してみましょう。

やはり最も目立ったのはペリカンズ。ロッタリーで引き当てた1位指名権でザイオン・ウィリアムソンを獲得しただけでなく、アンソニー・デイビスのトレードで手に入れた指名権を再トレードし、動けるセンターのジャクソン・ヘインズと身体能力に優れたガードのニキール・アレキサンダー・ウォーカーらを指名しました。すでにトレードでレイカーズの若手たちを獲得していることもあり、即戦力というよりは将来性を見込んで各ポジションにバランス良く選手を揃えてきました。

2位でジャ・モーラントを指名したグリズリーズは、こちらもトレードを使って21位ブランドン・クラークを指名しました。2年生のモーランド、3年生のクラークと、素材型よりも即戦力としての活躍が計算できる選手を選んだ傾向があります。現有戦力も20代半ばが多く、早くからプレータイムを与えてチーム戦術を熟成していくことを狙っていそうです。

ペリカンズとのトレードで指名順位を上げたホークスは、4位でデアンドレ・ハンターを、さらに10位でもキャメロン・レディッシュをと、シューター系ウイングを求めました。特にレディッシュはこの1年で評価を落としたものの、もともとはトップ3のポテンシャルがあるとされる超有望株。10位まで残っていたのはホークスにとってラッキーな出来事でした。

そもそもホークスが持っていた指名権は昨シーズンに3位でルカ・ドンチッチを指名し、5位トレイ・ヤングとトレードしたことで手に入れたもの。上手い戦略と幸運が舞い込んできたような形で、3ポイントシュートが上手く走力の高い選手を集めたチームを構築しています。

地味ながら注目したいのはスパーズ。目立つ選手は指名していないものの、ビッグマンのルカ・サマニッチとウイングのケルドン・ジョンソンを獲得しました。どちらもシュート力を持ち合わせた選手で、この1年間チームが磨いてきた方向性に合うだけでなく、オフェンスの起点役デジョンテ・マレーとデリック・ホワイト、ゴール下のハードワークを担当するヤコブ・パートルといった若手選手との相性も良さそうで、ポジションバランスが取れた指名になっています。ベテラン陣がチームから去っても穴を埋める選手が次々に出てくるのは、ドラフト下位指名でも中長期的視点で戦略を構築しているからでしょう。

逆に不思議な指名となったのはキャブス。5位でポイントガードのダリウス・ガーランドを指名しましたが、昨年指名したコリン・セクストンと同じポジションになります。さらに26位と30位でもガードを指名。こちらはシューター系ではあるものの、ガードばかり揃えているのは、どんな狙いがあるのか。過去にはグリズリーズがカイル・ラウリーとマイク・コンリーというオールスター級のポイントガードを2年連続で指名したことがありますが、ラウリーが花開いたのは移籍してから。新ヘッドコーチを迎え、多くのガードを揃えた戦術で戦うのか、それともさらなるトレードを画策しているのか。キャブスの戦略も気になるところです。

有力選手が少ないとされたドラフトでしたが、チーム戦略が目立つドラフトにもなりました。1位指名権を2つ持っていたネッツが両方をトレードで手放すなど、今年のドラフト自体をあきらめたチームもありました。41位指名だったニコラ・ヨキッチが今年のオールNBAファーストチームに選ばれるなど、誰がブレイクするかはスカウト力も試されるようになっています。どのチームが成功したドラフトだったのか。答えは数年後になりますが、動きの多かったドラフトだけに各チームの明暗は大きく分かれそうです。