写真:ピッチフォード(イングランド、T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

今夏、卓球界で「日本人キラー」の異名を持つ危険な男がTリーグに参戦する。その名もリアム・ピッチフォード(25歳)。183センチの長身を活かした豪快なバックハンドが武器のイングランド代表のエースだ。

ピッチフォードは、五輪イヤー前年となる大事な今シーズン、その活躍の舞台をなぜ日本に求めたのか。「欧州の大砲」にTリーグ挑戦の決意を聞いた。

世界卓球日本戦と中国・馬龍超えが転機だった




写真:ピッチフォード(イングランド、T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

2018年はピッチフォードにとってキャリアの転機となった1年だった。2月のチームワールドカップで張本智和を4-0のストレートで下すと、4月末の世界選手権(団体)の日本戦でも張本を再びストレートで破る。続く試合で苦手意識のあった水谷隼にも完勝し、日本のメダル獲得を阻んだ。

ピッチフォードは日本戦での勝利について「去年の世界選手権は個人としても、イングランドにとっても本当に大きな勝利。張本はロンドン(でのチームワールドカップ)でも破っていて、その時にいくつか効果的な得点パターンを持っていた。張本はもう一度負けるのは嫌だという気持ちで戦ってきたけど、僕は冷静にやるべきことをやって勝てた。続く水谷戦はもっと難しい試合となった。僕が勝てばチームも勝利というプレッシャーの中、なんとか勝利できて本当に嬉しかった」と振り返る。



世界卓球2018日本vsイングランド戦、張本智和を3-0、水谷隼を3-2で破ったピッチフォード
写真:新華社/アフロ

さらに8月にはブルガリアオープンの初戦で、リオ五輪金メダリストの馬龍(マロン)を4-3で下し、世界を震撼させた。2018年1月に79位だった世界ランキングも気づけば15位(2019年6月現在)まで上昇している。

馬龍戦を「僕のキャリアの中のベストゲーム」と位置づけるピッチフォードは、中国超えの秘訣について「相手にプレッシャーを与え、精神的に追い込めたこと」とメンタル面を挙げる。

「相手は今や世界選手権を3回制し、誰もが認める歴代最強の世界王者。戦えることに感謝して幸せな気持ちでコートに入った。出だしが悪くリードされたけど、絶対に諦めず食らいついた。徐々に点差を詰めていくと、馬龍がナーバスになって冷静さを失った瞬間がわかった」と振り返る。ピッチフォードの思い切りの良いプレーに対し「(馬龍は)バック(ハンド)対バックでは僕が有利だったから本当はそこで勝負したくなかったはず。それでもムキになって何度も僕が有利なそのコースで勝とうとしてきたのは彼が焦っていたから」と相手の心理を冷静に分析していた。

「(馬龍が)少し怪我をしていたのではないかという情報もあったけど、それでも彼になかなか勝てるものではない。チャンスが巡ってきた時に勝たなきゃいけないし、そのチャンスをモノにできたことが大きかった」

なぜ五輪前年にTリーグを選ぶのか




写真:ピッチフォード(イングランド、T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

馬龍戦での勝利の後、ピッチフォードには「複数のビッグクラブからのオファーが舞い込んだ」という。その中にはTリーグ・T.T彩たま坂本竜介監督からのものもあった。「正直、日本からのオファーには少し驚いた。でも最終的には自分のキャリアにとってベストな環境と判断した。Tリーグはどの選手もレベルが高く、簡単に勝てる試合が1試合も無い。東京オリンピック前年ということも考え、全ての試合がタフな環境の方が自分の成長に繋がると考えたんだ」。

8月下旬に開幕するTリーグでは、未だ球団と選手の契約交渉が進んでおり、参戦選手の発表は完了していない。それでもT.T彩たまへの加入が決まっているピッチフォードは日本と世界のトッププレーヤーたちとの対戦を楽しみにしている。「負けるのは嫌いだし、誰が来ても倒したい。運良く日本の水谷、丹羽、張本には勝ったことがあるけど、もっとコンスタントに勝ちたい。ワールドツアーの準決勝以降や世界選手権などの大舞台では彼らの方が安定して勝っていて、実力は彼らの方が上だと思っている」と自信と謙虚さの両面を持ち合わせる。

イングランド代表としてロンドン、リオと2度の五輪に出場し、昨年の大躍進により世界トップランカーの仲間入りを果たしたピッチフォード。一見、順風満帆に見えるキャリアの裏には、本人にしか分からない大きな苦悩があった。(続く)


文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)