F1第7戦・カナダGPの舞台「ジル・ビルヌーブ・サーキット」は、セントローレンス川に浮かぶ美しい公園の周遊路を使った半公道サーキット。6本のストレートをシケインかヘアピンでつないだレイアウトで、全開率も65%近くに達する。つまり、パワーがモノを言うサーキットだ。

 パワーユニットとして、現状でメルセデスAMGとフェラーリに後れを取るホンダにとっては、苦戦を強いられそうなサーキットのように見える。しかし、それは間違いかもしれない。



レッドブル・ホンダが最高速の速いフェラーリに勝つためには?

 マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は、当面のライバルであるフェラーリがここでは速さを見せるだろう、ということは認める。

「ここはストレートが多いサーキットのひとつだし、フェラーリの最高速が速いのもわかっている。だから、彼らにとっていいサーキットであることは当然だろうし、僕らにとってはモナコほどいいサーキットとは言えないだろう。でも、明日走ってみないとわからないよ」

 世間が思うほど、レッドブル・ホンダが苦戦を強いられるとは思っていないようだ。

 パワーの不利を抱えて、ただスロットルを踏んで真っ直ぐ走る以外にどうすることもできない。コーナーで稼いだアドバンテージを、ストレートの遅さで吐き出す。そのフラストレーションとどう向き合い、ドライビングでいかにカバーすることができるものなのか――。そう問いかけると、意外にもフェルスタッペンは、今週末のレッドブル・ホンダが不利は小さいと予想していた。

「頭をすくめて、ただひたすら耐えて真っ直ぐ走ることかな(笑)。それは冗談だけど、実際に走ってみなければ、僕らがどのくらいコンペティティブかはわからないと思う。僕らが不利を抱えているというのは、もしかするとただの推測でしかないかもしれないし、実際にはみんなが思っているよりも差は小さいかもしれないしね。不利はそれほど大きいとは思っていない。もちろん最速ではないけど、僕らはすべてをファインチューニングしてなんとか戦おうとしているんだ」

 何をどう、ファインチューニングするのか?

 カギは6本あるストレートの最高速ではなく、それらをつなぐシケインやヘアピンをいかに速く駆け抜け、速く立ち上がるかだ。

 ジル・ビルヌーブ・サーキットはストレートの長さもさることながら、フルブレーキングと加速を繰り返す「ストップアンドゴー」のサーキット。だからこそ、低速コーナーの速さと出口のトラクション性能が重要になるのだ。

 フェラーリ優勢が伝えられるなか、メルセデスAMGも負けるとは考えていない。それはコーナリング性能とトラクション性能で挽回できるからだと、ルイス・ハミルトンは語る。

「とくに2017年以降はホイールベースが長いこともあって、コーナーでターンするのが難しくて少し苦戦してきた。でも、今年の僕らのクルマは中低速コーナーで大幅によくなっているから、今年はこれまでに比べてかなりコンペティティブだと思う」

 だからこそ、ハミルトンはレッドブル・ホンダがカナダでも速いと予想している。

「今年のホンダは確実に進歩しているし、コーナーの速さを考えれば、レッドブルもかなり強力だと思うよ。フェラーリはストレートで最速のクルマだけど、僕らはコーナーで彼らを捕まえることができた。今週末もそうなるかどうかは、実際に走ってみてのお楽しみだね」

 フェルスタッペンが「思っているほど悪くないと思う」と言う根拠も、それと同じだ。ストレート主体のサーキットでも、ラップタイムはストレートの最高速だけで決まるわけではないのだ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「悪くないかどうか……みなさん非常にポジティブな発言をされるので(苦笑)。ストレートが速くても、トラクションがかけられなくて出口で着いていけないと、DRS(※)を効かせても最後に追いつききらない、オーバーテイクしきれないということになりますからね。低速から立ち上がるという意味では、モナコと似たようなところがあると思います。ストレートが長いのでトップスピードやパワーも重要になってきますが、ストレートの長さでいえばバクーのほうが長いですしね」

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 事実、今年の各マシンは、空気抵抗を削るためにリアウイングを薄くするのではなく、しっかりとダウンフォースをつける方向に振ってきている。これはコーナーからの立ち上がりでトラクションを確保し、ストレートの前半でタイムを稼ぎたいからだ。

 レッドブルも従来に比べれば大きなウイングをつけているが、これはそれだけパワー差が小さいということと、もう一方ではダウンフォースをつけなければトラクションが確保できないということでもある。

 ただ、レッドブルの車体もよくなってきているとはいえ、まだ昨年までのような圧倒的な車体性能を誇る状態ではない。

「もし僕らが原因を100%完全に理解できていたら、すでに変更を施しているよ。ダウンフォースがもっとほしいのは、いつだってそうだし、誰だってそう。これで十分ということはないからね。メルセデスAMGを打ち負かしたいのなら、僕らはまだあらゆるエリアを改善させなければならない」

 フェルスタッペンもこう認めている。

 加えて、タイヤにきちんと熱が入れられるかどうか、という課題もある。

 高速コーナーが皆無のジル・ビルヌーブ・サーキットでは、タイヤにエネルギーが入る箇所が少ない。そのためタイヤに熱が入らず、グリップの確保ができなくなり、滑って表面にグレイニング(めくれ磨耗)が生じるという負のスパイラルに陥りやすい。そうなれば、モナコGPのハミルトンのようにマシン本来の速さを発揮できなくなる。

 フェラーリ陣営も、その点には不安を抱えている。セバスチャン・ベッテルはこう語る。

「僕らの強みが強調されるサーキットだから、計算上はバーレーンGPのように僕らは速いはずだ。だけど、ここは路面がかなりスムーズだから、タイヤに熱を入れて機能させるのが難しいだろう。とくに僕らは、ここ数戦でその点に苦労してきたしね」

 スペック2パワーユニットを投入してくるメルセデスAMGにしても、ストレートが速いフェラーリにしても、彼らがどれだけ戦闘力を発揮してくるかはわからない。それよりも、自分たちが持っているマシンパッケージの性能を最大限に引き出すことにのみ集中するしかない。そのうえで勝てるかどうか。レッドブル・ホンダが考えているのはそういうことだ。

「自分たちが今週末どのくらいコンペティティブなのかは、あまり考えていない。それよりも、自分の全力をフルに引き出すこと、マシンの最適なセットアップを見つけ出すことに頭を向けているんだ」(フェルスタッペン)

 フリー走行で走り込み、そのデータを元にさらなる分析と熟成を進め、自分たちの全力を引き出す。その結果、苦手なように見えるカナダでも、レッドブル・ホンダは想定外の走りを見せるかもしれない。