6月2日、午前8時10分。三塁側ベンチ前でヤクルトの石井琢朗打撃コーチは、早出練習で黙々とバットを振り込んでいるD…

 6月2日、午前8時10分。三塁側ベンチ前でヤクルトの石井琢朗打撃コーチは、早出練習で黙々とバットを振り込んでいるDeNAの宮崎敏郎とあいさつを交わすと、外野に向かいポール間のランニングを始めた。20分ほど走り、三塁ベンチ前でストレッチをする頃には、DeNAの選手たちが外野でアップを始めていた。

 石井コーチに「走っている間は無心なのですか?」と聞くと、こう返ってきた。

「いろいろ考えています。いちばん考えることのできる時間ですからね」



連敗を16で止め、試合後に安堵の表情を見せるヤクルトの選手たち

 チームは前日の完封負けでセ・リーグワーストタイの16連敗となり、この日のDeNAとの試合に敗れると不名誉な記録更新となってしまう。

「連敗を抜け出すきっかけは何度かあったと思っています。とくにホームラン3連発で勝てなかった試合ですかね。あれで『これでも勝てないのか』と、気持ち的にドーンと重くなってしまった。もうここまできたら技術とかじゃないです。技術は持っていますし、本当にちょっとのきっかけというか、その時のめぐり合わせというか……。そのなかで僕らは、選手たちをいかに気持ちよく打席に立たせてあげられるか。そのことばかり考えています」

 石井コーチが言った”ホームラン3連発”とは、5月26日の中日戦(神宮球場)のことで、3回裏に青木宣親、山田哲人、ウラディミール・バレンティンの3者連続ホームランでリードを4点差に広げるも、結局8―10で逆転負け。これでチームの連敗は11となった。

 この連敗中、毎試合のように打順や起用する選手を入れ替えたが、その甲斐もなく、気がつけば自慢の強力打線のチーム打率はリーグ最下位まで落ち込んだ。石井コーチは言う。

「不動でいくのか、それともいじるのか、いろいろやってきましたが、結果的にそこがはまらなかった。前から話していますが、今は打線として過渡期だと思っています。ベテランが多く、いつまでも今の打線でいくことはできません。そのための底上げをしている最中で、主力が抜けた巨人戦(5月10日からの3連戦/このカードは2勝1敗と勝ち越し)は、僕らが”美女木スワローズ(※)”と呼んでいる若手が躍動してくれた。まだまだ年間を通しては難しいけど、僕は光を見ました」

※ヤクルトの二軍施設が埼玉県戸田市美女木にあるため

 午前9時、上田剛史、奥村展征、廣岡大志、宮本丈の4人がビジター側のブルペンへと入っていく。早出のティー打撃をするためで、彼らも”美女木スワローズ”の一員だ。

 10時20分にヤクルトのアップが始まると、「トダ(戸田)ソウル、オネガイシマス」と、バレンティンが一軍に昇格して間もない、3年目の古賀優大に声をかける。

 16連敗中、試合を終えてクラブハウスへ戻る選手たちの足取りは重かったが、青木が2ミリの丸刈りにして周囲を驚かせたり、声のよく出る練習風景は救いだった。

 午後1時、試合が始まると、連敗中に苦しめられていた”悪い流れ”から一気に解き放たれたような、すばらしい展開を見せた。

 1回表、二死満塁から6番に入った大引啓次が、DeNA先発の濱口遥大の高めに浮いたチェンジアップを叩き、右中間を破る走者一掃の二塁打で3点を先制。大引が振り返る。

「狙いどおり、ミーティングどおりのバッティングができた。ここまで宮出(隆自)コーチらが、毎日、相手投手の対策を練ってくれていたのですが、僕ら選手がなかなか応えられなかった。今日、ひとつ恩返しができたかなと」

 つづく2回表、先発マスクの古賀が四球を選び、原樹理がきっちりとバントを成功させ、1番に起用された塩見泰隆が2ストライクと追い込まれながらも右中間を破るタイムリー三塁打。効率のいい攻撃で追加点を刻んだ。ちなみに、塩見も”美女木スワローズ”の一員である。

「三振だけは絶対にしてはいけない、なんとか食らいついてバットに当てようと。本当に無我夢中でした。ただ、ほかの打席はあまりよくなかったので……。打席や塁上で、球数が進んでいくごとに慌ててしまう自分がいる。そこをこれから詰めていけたらいいなと思います」

 3回表にはバレンティンの一発でさらに追加点。2回裏にホセ・ロペスのホームランで1点を返されていただけに、貴重な1点となった。

 先発のマウンドを任された原は、中4日での登板となったが、力のあるストレートを軸に7回途中を1失点。自らの黒星から始まったチームの連敗を止めてみせた。試合後、原は安堵の表情を見せた。

「中4日でしたが、その間の練習ですごく状態がよく、腕をしっかり振れたかなと。とにかく連敗を止めたい一心でやってきて……やっと勝てましたが、これで終わりじゃないんで。明日からまた気を引き締めて、次の試合でもベストにもっていけるようにやっていきたいです」

 原は7回裏二死走者なしから、伊藤光にストレートの四球を出し降板。デーブ・ハフがマウンドに立つと、捕手も中村悠平に交代した。中村は試合前、こんなことを語っていた。

「これだけの大型連敗をしているということは、僕が同じような失敗をしているんだなと……。そのことに責任を感じています。自分の出すサインひとつにチームの勝敗がかかっていますし、裏方さんとかの生活もかかっている。今日は交流戦前の最後の試合なので、しっかりと全員で戦っていきたい。この先も、どうしたら勝てるのかを意識していきたいと思っています」

 8回裏には、コンディション不良から戦列復帰した抑えの石山泰稚が登板。1点を失ったが、チームにとっては大きいイニングとなった。

 9回裏のマウンドに立ったのは、石山の不在中、抑えに抜擢された3年目の梅野雄吾。先頭の筒香嘉智に二塁打を打たれるも、後続をきっちりと抑えた。

「プレッシャーはもちろんありましたが、絶対に勝つという気持ちで投げました。チームの勝ちに貢献できてうれしかったです」(梅野)

 試合後、選手たちの歓喜の声が聞こえてくるなかで、小川淳司監督の囲み会見が行なわれた。

「ホッとしたと言ってはいけないんでしょうけど、勝ててホッとしたというのが正直なところです。とにかく、どうにかして連敗を止めないといけない。そういう思いしかなかったです」

 初回に殊勲のタイムリー二塁打を放った大引は、しみじみとこう語った。

「連敗中は、本当に野球の持っている不思議な流れ、目に見えない大きな力を感じたというか……とくに坂口(智隆)がそうなんですけど、いいコンタクトをしても野手のいないところに打球が飛んでくれない。でもひとつ勝つことで、そういういい当たりが野手の間に飛んでくれたりとか、ミスショットがボテボテでも内野安打になったりとか、好転しそうな感じがあります。これから交流戦に入りますが、去年は優勝していますし、今日の勝ちを起点にして頑張っていきたいですね」

 選手たちは16連敗中も集中力を切らさずに練習して、試合に臨んできた。この経験は必ず大きな力へと変えられるはずだ。ヤクルトの逆襲に期待したい。