7季ぶりの東京六大学リーグ戦制覇を目指し臨んだ今春だったが、またしても賜杯には届かなかった。それでも小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)は「しめしめという感じではきている」と手応えをにじませる。伝統の一戦を目前に控えた今、指揮官は何を語るのか。選手起用や早慶戦に対する思いまで、様々なお話を伺った。

※この取材は5月25日に行われたものです。

「あっという間」


取材に応じる小宮山監督

――監督1シーズン目をここまで終えられて、率直な感想は

 あっという間、という感じですね。日々の練習にそんなに変化がないので。毎日同じような練習を繰り返し行なっているわけですから、曜日の感覚も薄くなっていって、気が付いたらもう最終週という感じです。

――監督の難しさは感じていますか

 あまり細かいところまで選手に要求していませんので、ある程度想定内で事が(進んでいる)という感じなので。なんていうか、本当に普通にシーズンを過ごしているかなという感じですね。

――現在6勝4敗で勝ち点が3です。この成績についてはどのように思っていますか

 もちろんね、優勝しろということでファンの方もOBの方も見ていることでしょうから、それでいうと物足りない数字なんでしょうけど、とりあえず早慶戦前までに勝ち点を失ったのが明治だけですから、及第点という感じはします。

――昨年まではOB会の副会長としてご覧になっていて、今年からは現場で采配を握っています。OBとして、また監督としてチームをご覧になることで、違いはありましたか

 ああしろこうしろってきつく言うことは簡単でしたけど、あえてそこまでせずに。学生たちの自主性に任せるというスタンスでやってきましたけど、その結果を彼らがどう受け止めているのかですよ。これで物足りないということであれば、もう1ランクも2ランクも上のレベルを要求しようと思っています。彼らがもうこれ以上できませんということであれば、所詮その程度という話ですから、そこの話は本人たちによるものじゃないですかね。

――「早慶戦までに指導を末端にまで浸透させたい」というお話でした。こちらの達成度は

 見方によって変わってしまうので、なんとも言えないですけれども、監督として思い描いていたものというところであれば、しめしめという感じできていますね。それこそ、指示せずとも全てがうまくいくということをゴールに置いた場合、1シーズン目でクリアしなければいけないところには来ているので、そういうことです。

「(中川卓は)決して悪い状況ではなかった」


珍しくベンチで喜びをあらわにする小宮山監督。その背景には…

――今年の早稲田の良い点を一つ挙げるとするならば

 (しばらくの沈黙の後)分からないな。逆にチーム防御率とチーム打率がリーグトップなのになんでこの順位なんだってなるかもしれないけど、それが野球だという話ですよ。だから野球は面白いんだという話です。

――今季カギになった試合、もしくはワンプレーを挙げるとするならば

 それは選手一人一人がそれぞれ思っていると思うので、その上で試合を司る監督として挙げるとするならば、明治の初戦かな。あそこで想定外のことが立て続けに起きたので。それが明治の勢いというものなのかなと思います。

――想定外というのは、6回に先発・早川隆久選手(スポ3=千葉・木更津総合)がいきなりつかまったことでしょうか

 まあその打たれ方もね。(二塁手の)銀佑(金子、教3=東京・早実)がホームに投げてツーアウトになって。その後まさかきれいにライト線を破られるとは。その後とどめを刺されたのもクソボール(顔の高さへの変化球)でしたから。多分同じボールをもう一回打てと言っても打てないと思うので。そういう奇跡的なことが立て続けに起こった試合だと。最後に言えばその2試合目。それまでノーヒットだった和田(慎吾、4年)がまさか2本もホームランを放つとは。最後に柴田(迅、社3=東京・早大学院)が(逆転3ラン本塁打を)打たれる前のピッチャーゴロも、まさかトンネルするなんて、という話ですから。そういうのも含めて、想定外のことが起こったということですね。

――法大3回戦、吉澤一翔選手(スポ2=大阪桐蔭)が本塁打を放った時は喜びを爆発させていました

 いやもうね、自然とガッツポーズが出たので(笑)。僕は学生時代に絶対ガッツポーズはするなと教えられていたので、激しいガッツポーズをした記憶がほとんどないんですけれどもね。完投勝利を挙げた時だけ、拳を上げたという記憶は何度かありますけれども。それ以外で、自然にガッツポーズが出てしまったことは今までなかったものですから、してやったりということで自然と出たガッツポーズですね。

――吉澤選手に期待する部分が大きかったからでしょうか

 まあまあ吉澤だけというわけではないので、なかなかコメントはしにくいんだけれども、本来ならばファーストのレギュラーで試合に出ていたという認識なはずなんですよ、彼も。ところが(春季)オープン戦から打てずに苦しんで、それこそ徳武さん(定祐コーチ、昭36商卒=東京・早実)とマンツーマンでやりながら相当もがいていたので。それでもって本来ラインアップに自分の名前がなきゃいけないところに、まさか高校の後輩(中川卓也、スポ1=大阪桐蔭)が、ということで。(高校から進学して)きて早々に、ポジションを奪われるということは想像もしていなかったんじゃないですかね。そういう屈辱的な思いを受けて、ずーっとチャンスもなかなか与えてもらえずに。この前チャンスもらった時(立大3回戦)はあっさり初球打ち上げてキャッチャーフライで。って考えると、相当のね、思いが積もって苦しんでいたわけですよ。そんな中で、あの日の試合前に「変則サウスポーの新井(悠太朗、4年)が出てきたら使うぞ。あの手の(変則的な)ピッチャーは好きか嫌いか、どうなんだ?」って聞いたら、「大好きだ!」って言ったんですよ。この「大好きだ!」っていうのは「俺に打たせてくれ!」っていう意思表示ですから。その「大好きだ!」って言った時の吉澤の顔がね、なんとかしてやろうという気持ちになったので。それでたまたま新井が(試合に)出てきてその状況になった時に、「おまえ試合前に大好きって言ってたよな。大好物ならちょっと頼むよ」って耳打ちしたら、「分かりました」って言われて。まあインチキなんだけどな(笑)。風に乗ったホームランだから。でも結果的にフェンスを越えたという状況で、何よりも本人が一番ほっとしていると思うので。苦しんでいるのを知っていただけに良かったなと、そういう話です。

――今お話にあった中川選手がずっと一塁手として先発出場していました。打率は1割前後でしたが、その中で起用を続けた理由は

 それはねOB連中も「なんで使っているんだ」と思っていると思いますよ。スタンドで見ているファンの方も「なんで打てないやつを置いておくんだ」と怒り心頭なんだと思うけど。でも毎日練習を見ている側からすれば、決して悪い状況ではなかったので。結果が伴っていないというだけですから、そこでスタメンをすぐ外してしまったら負けたような気がするので。それが自分自身でちょっと許せなかったので、だから使い続けたと、そういう話です。

――調子が悪かったわけではないと

 決して他の連中と負けず劣らず。さらに言うと、ある程度のことは卒なくこなせるレベルの選手なので。そういうわけで、ずっとラインアップに名前を置いたと、そういうことですね。

――練習の状態が落ちない限り、スタメンを外すお考えはなかったと

 一切なかったです。

――続いては継投について。昨年は投手コーチの道方康友氏(昭53教卒)がいましたが、今年はいません。嵯峨悠希学生投手コーチ(商4=東京・早大学院)にはどの程度任せているのですか

 基本的には彼に指示を出して、彼が選手たちにそれを伝えて、そのリアクションを伝えてくるという感じですね。

――指示は試合前でしょうか

 試合前ですね。試合後もありますけど。

――継投の順番は、嵯峨学生コーチの判断によるものですか

 基本的には「監督どうしますか」っていう尋ね方をしてきますよ。ただ、こちらから嵯峨に対してあまりきつい要求は出していないです。本当に細かいところまで要求しようとしたら、パニックになると思うので。こちらが想像しているような継投も含めて、選手たちの動きがどうかといえば、まだまだですよ。

――リーグ戦期間中のリフレッシュはどのようにされていますか

 リフレッシュする必要がないからね〜。何もしていないです。大学出てからずっとプロの世界で飯を食ってきて、引退してからもずっと野球の仕事をしてきたということでいえば、試合を見ている絶対数がその辺の人と天と地ほどの差があるんですよ。って考えると、試合中にどんなことが起こり得るかっていうことも、全てある程度は先を読める状況なので。試合の中の流れによれば、全然疲れることなんかないので、リフレッシュする必要がないんですよ。強いて挙げるならば、練習が始まる時間が早い(笑)。これはきついですね。

早稲田らしさ、慶応らしさ

――今年の慶大の印象は

 監督就任に伴って、(慶大の)大久保監督(秀昭)と話をする機会があった中で、「昨年の秋の雪辱を果たすんだ」という思いでこの春に臨むと聞いていたので。それこそ日吉(慶大の練習グラウンド)には去年の(秋の早慶)3回戦のスコアボードを残したまま練習していると聞いた時に、選手全員がその思いを共有していると思ったので、かなり手ごわいだろうなと。今季も明治に負けるまでは本当に見事な勝ち方をしていたので、強いなというふうには見ていました。

――慶大の第1先発には、髙橋佑樹投手(4年)が予想されますが、監督から見てどのような投手ですか

 打ちにくいボールを投げるピッチャーだという認識です。(どう打ち崩していうかということについて)まだそこまでの話はしていないですね。さらに言えば、チーム全体としてこうする、というようなことはあまりしたくないので。基本的にバッター対ピッチャーって1対1ですから、その状況でバッターがどうするのが一番ベストなのか、ベターなのは何なのか、最悪でもどうしなきゃいけない、っていうようなことを打席の中で考えながらやるのが一番だと思うので、次のバッターにいいかたちでつなげるようにということがチームとしてやらなければならないことだという話しかしていないので。ミーティングでもそこまで深く突っ込んでという感じではありませんが、きのうきょうのピッチャーではないから、みんなどんなピッチャーなのか分かっているわけですから。

――監督の思う早稲田らしさ、慶応らしさとは

 僕らの頃の早稲田はもっと泥臭かったですよ。今はスマートな学生が多いので、『らしくない』学生が多くなりました。今はどちらかと言うと慶大の方が泥臭い感じの野球をしているように見えます。昔はね、「さわやかな野球は慶応に任せておけばいいんだよ」みたいな感じだったんだけれども、どっちかというと今は慶応の方が泥くさい感じの野球をしているように見えるので。まあまあその辺のところは、いいのか悪いのか何とも言えないですけれどもね。

――小さなミスが大きな失敗に結び付くのが早慶戦。継投や代打起用などで、注意していくことや気に掛けていることはありますか

 特にはないですね。結果がね、想定外のことなんて起こり得ないと思っていますから。野球の試合って全てが頭の中で計算し尽くされたもので、最高の状態、最悪の結果がその振り幅も含めて頭の中で網羅されているはずなので。この状況でこの選手を使えばこういう結果になるだろう、と思って使うけどそういう結果にならなかった場合は、使った監督が悪いんだということで全てが丸く収まるので。だから特別どうということは全くないですよ。

――早慶戦への思い入れはありますか

 入学して早々から「慶大にだけは絶対負けるな」という教育を受けて四年間過ごしますから、それは染み付いていますから、それは卒業して何年経っていようと変わりません。おそらく塾の卒業生もみんな同じ思いだと思うんですよ。だから他の大学から見たら、間違いなくうらやましがられる部分だと思うんですよ。他の大学もプライドがあるから口には出さないけどね、どっかに「いいな、慶応は」「いいな、早稲田は」という思いが必ずあると思っているので。だからこそ、お互いがお互いをリスペクトして、なおかつ絶対に負けないようにということを常に肝に銘じています。

――早慶戦当日は、神宮球場に多くの観客が足を運びます

 早慶両校の関係者にとって春の早慶戦、秋の早慶戦が組み込まれているものだから、OBの子孫に至るまで刷り込まれていると思うんですよ。(選手たちは)そういう戦いなのだということを常に意識をしてやらないといけないと思います。今の学生たちがそれを本当に認識できるように、いろんな思いをしょい込んで神宮のグラウンドに立っていなければいけないということをしっかりと教育しないといけないと思います。

――今、早慶の野球部を目指している人たちにメッセージはありますか

 どうなんだろう。実際ね、140名弱の部員を預かって、そういう思いの強い学生が果たしてどれだけいるんだろう、とそういう感じですね。それを面と向かって口にする『早稲田バカ』があまり見当たらないので。時代の流れだから、しょうがないんじゃないですかね。ただ、譲れない部分はあるので。そこに関しては、言葉は悪いけれども、ドライな気持ちのやつに対しては、こちらもそういう対応をせざるを得ないと思っています。

――早稲田が一番強いチームになるために、今後どういった過程を歩むべきでしょうか

 全てを一からやり直さないといけないというスタンスで始まっていますから、それが春のシーズンの最終週を前にどの程度解消できたんですかって聞かれたら、「申し訳ありません。まだ全然です」っていう答えです。なのでこの春を受けて、学生たちにもう一度いろんなことを訴えて、それを学生たちがどう考えて取り組むかというそういう話じゃないですかね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 石﨑開、慶應スポーツ新聞会・小林歩)


『一球入魂』。指揮官として初めての早慶戦に挑みます

◆小宮山悟(こみやま・さとる)
1965(昭40)年9月15日生まれ。千葉・芝浦工大柏高出身。90(平2)年教育学部卒業。早大野球部第20代監督。令和最初の早慶戦。新時代の序章を勝利で飾ります!