INSIDE HUDDLE Vol.4

6月29日から7月10日、中国黒竜江省ハルビン市のハルビン商業大学で開催された国際アメリカンフットボール連盟(IFAF)主催、第4界U19世界選手権に密着取材する機会に恵まれた。

日本代表選手たちの奮闘は、現在配信中のハドルマガジン8月号Vol.18に掲載しているので、そちらを是非ご覧いただきたいが、初めて経験する中国の環境は、文字通りカルチャーショックの毎日だった。

日本代表選手、コーチたちの宿舎は学生寮の最上階、6階フロアだったが、エレベーターはなし。毎日6階までの昇降はかなりハードなワークアウトだった。古い建物の階段は、一段ごとに幅や高さが違ったり、宿舎以外の施設のトイレの鍵がことごとく壊れていたり…と、日本がいかに恵まれた生活環境なのかを実感する反面で、異なる環境に戸惑うチームの活動を、献身的にフォローしてくれた現地ボランティアスタッフの温かい友情を感じることができた。

最も大きなインパクトを受けたのは中国アメリカンフットボールの発展への意欲だった。

中国代表の戦績は最下位の7位だったが、競技の文化がまったくといっていいほど浸透していない中で、オープニング・セレモニーには1万数千人を動員したのには驚かされた。それ以前に、大学の敷地内に2万人以上を収容できる観客席付きのスタジアムがあることに驚いた。キャンパス内にそれだけの規模のスタジアムを保有する大学を日本では見たことがない。

オープニング・セレモニーでは、観客を巻き込んだマスゲームが披露されたが、リハーサルをして本番を迎えたことを考えれば、その統率力は驚くべきものだ。2年後の2018年にはFISU(国際大学スポーツ連盟)主催の第3回大学世界選手権が、今大会と同じハルビン商業大学で開催される。

中国版NCAA

FUSC加入を目指す

2007年の第3回世界選手権川崎大会、2014年第3回U19世界選手権クウェート大会に続き、アジア圏では3カ国目の世界選手権開催国となった中国だが、アメリカンフットボールの本格的普及に乗り出してから僅か3年目と、まだ産声を上げたばかりだ。

こうした環境の中で、今大会の開催、そして2年後の大学世界選手権招致のキーパーソンとなったのが、中国AFU(アメリカンフットボールユニオン)チェアマンの李肯(ケン・リー)氏だ。

ハルビン商業大学卒業後、サンフランシスコとカナダへ留学した時にアメリカンフットボールに出会った李氏は、フットボールが持つ教育的な要素に大きな価値を見出した。

「コーチへの信頼、チームメイトへの信頼、フィジカルな強さやコンディショニングの重要性など、フットボールは人々が社会生活を営んでいくために必要な様々な事を体験できるスポーツだと理解している」

李氏が中国AFUを設立し、大学スポーツとしての普及に乗り出すきっかけとなったのが、2年前の2014年、スウェーデンで開催された第1回大学世界選手権への参加だった。

現在、中国には2つの大学リーグがある。一つは李氏が主催するAFU傘下で活動するチームで、ハルビン、北京、上海など6地区で10チームが活動している。AFU傘下のチームはそれぞれ大学からも正式な運動部として活動が認められているが、学生が自主的に活動している同好会組織がもう一つのグループで、約20チームほどあるという。選手数は共に300名前後。計600名が現在の競技人口だ。

「二つの組織を合併し、1年間で4チームずつ増やし、3年後に32チーム、競技人口1,000人にすることが当面の目標だ」と、李氏は直近のビジョンを明かす。その先に見据えているのは、中国大学生体育協会(FUSC)への加入だ。

FUSCは、中国政府の教育部傘下の組織で、中国の大学スポーツを統括している中国版NCAAとも言うべき組織だ。

FUSCとNCAAが大きく異るのはその財源だ。NCAAが放映権料等、収益を上げる能力を持っているのに対し、FUSCは財源を政府に依存している。しかし、共産主義国の中国で競技の発展を目指す上で、政府から資金を得られるFUSCへの加入は、大きな推進力になると李氏は考えている。

「欧州では町のスポーツクラブが発展しているが、中国ではクラブチーム運営は難しい環境にある。なぜなら、大学チームは大学施設での練習ができるが、クラブチームは練習場所を借りなければならない」

二年後へのビッグ・ステップ

今回のU19世界選手権への参加は、中国にとっては大きなチャレンジだった。大学フットボールは3年前から活動を行ってきたが、U19カテゴリは、中国AFUにとって未開の領域だった。しかし、3月に北京の高校で参加希望者を募り、約2ヶ月の練習でチームを組み上げた。今回集まったのは17、18歳以下のメンバーがほとんどで、次回のU19世界選手権にも出場できる年齢の選手たちだ。

運営方式や競技の強化は、「米国や、韓国から学んでいる」と言う李氏だが、イベントの運営、演出に関しては日本のボウル・ゲームを参考にしたという。

李氏は昨年末と年初に来日し、甲子園ボウル、ジャパンエックスボウル、ライスボウルを視察している。また、日本協会に協力を要請し、U19世界選手権実行委員会スタッフとして日本から8名を招聘。2年後の大学世界選手権開催に向けてノウハウの蓄積を図った。

「このタイミングでU19世界選手権を行えたことは、競技の普及という観点からも、非常に大きなステップになった」

李氏は大会の成功に手応えを感じているようだった。

少なくとも会場となったハルビン商業大学の学生を中心に、大会期間中の2週間で競技に対する理解は大きく進んだようだ。象徴的だったのは観客の反応の変化だ。開幕当初、観客席が一番沸く場面はボールが大きく動くパントだった。しかし、日を重ねる毎にビッグプレーに沸くようになった。また、他国よりも先に全日程を終えたU19中国代表は、米国代表との合同練習を行う機会にも恵まれた。

中国におけるアメリカンフットボールの普及は、政府からの支援を受けられるかが大きなポイントになる。しかし、一度力を入れるとなれば、開会式に1万人以上を集めてしまう統率力と、新しいものを学び吸収する貪欲さは、大きな推進力となりそうだ。

加えて北京を中心に室内プロフットボールCAFLが設立されるなど、中国のアメリカンフットボールの環境は、急速に変化を遂げようとしている。

ハドルマガジン

上村弘文

第4回アンダー19世界選手権大会の詳細レポートは、ハドルマガジン8月号Vol.18に掲載しています。合わせてご一読ください。

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