マリナーズの菊池雄星が日本時間9日、ヤンキース戦に先発し今季2勝目をあげた。6回1死までヤンキース打線を無安打に封じ、メジャー最長となる7回2/3を投げて3安打1失点と好投した。 試合後に周囲で、とある“疑惑”が浮上…。菊池が帽子のツバに滑…

マリナーズの菊池雄星が日本時間9日、ヤンキース戦に先発し今季2勝目をあげた。
6回1死までヤンキース打線を無安打に封じ、メジャー最長となる7回2/3を投げて3安打1失点と好投した。 試合後に周囲で、とある“疑惑”が浮上…。菊池が帽子のツバに滑り止めの“松やに”を使用しているのではないか、というものであった。 MLBでは好成績を挙げた選手に、時折このようなクレームがつくことがある。 個人的な意見であるが、日本の野球選手は世界一と言っていいほどマナーが良いのでしていないと思う。

では、「松やに」にまつわる、こんな事件があったことはご存知だろうか。
それは今から36年前のこと。事件は1983年7月24日にヤンキー・スタジアムで行われたヤンキース対ロイヤルズの試合で起こった。

3-4とヤンキース1点リードで迎えた9回表二死一塁から、ロイヤルズのジョージ・ブレットが逆転2点本塁打を放つと、ここでヤンキースの監督が、ブレットのバットには滑り止めの松やに(パインタール)が規定を超えて塗られていると抗議した。 球審がこの抗議を認め、違反バットを使用したとしてブレットにアウトを宣告し、ヤンキースの勝利で試合が終了した。


ところが、試合後にロイヤルズはこの裁定についてMLBに提訴。MLBの会長はロイヤルズ側の主張を支持し、ブレットの本塁打は有効であると裁定した。 MLBは、2点本塁打の直後、ロイヤルズ1点リードの9回表二死からの試合再開を命じた。


私の知る限り、世界でも唯一と言っていい『提訴試合』が認められた試合である。 再開試合は9回裏にヤンキースが三者凡退に倒れ、ロイヤルズが勝利した。この事件を『パインタール事件』という。


さらに、この試合がこのまま終わらないのがアメリカらしい。9回から再開された試合で、ヤンキース側が全ての塁に踏み損ねているとアピールした。 これは、審判員が変わっていた為に行なわれた嫌がらせである。
当時は、映像での検証が出来なかったため確認する方法がなかった時代だが、審判員はこのようなことが起きると先読みし、当初の試合の審判から再試合の審判へ「ランナーは全てのベースを踏んでいる」と直筆で手紙を用意していた。それが証拠となり、アピールは認められなかった。


ここまでのストーリーを知っている方は日本に何人いるでしょう? ルールについての小ネタでした。
 

【提訴試合(プロテスティングゲーム)】

このルールについての規則書の文章は難しいので簡単に説明いたします。
アウト、セーフなどの審判員の判定ではなく、規則書によるルールの適用が明らかに間違っていると監督が提訴を起こし、その提訴が認められ提訴された場面から再開される試合である。

文:元プロ野球審判 坂井遼太郎