これまで数々のアマチュア投手の資質をズバリ言い当ててきた山本昌氏(元中日)。今春の選抜高校野球大会(センバツ)に出場した好投手のなかで、山本昌氏の眼鏡にかなう逸材はいたのか。活躍が目立った8投手を中心に一斉に分析してもらった。 さらに…

 これまで数々のアマチュア投手の資質をズバリ言い当ててきた山本昌氏(元中日)。今春の選抜高校野球大会(センバツ)に出場した好投手のなかで、山本昌氏の眼鏡にかなう逸材はいたのか。活躍が目立った8投手を中心に一斉に分析してもらった。

 さらにセンバツ出場投手ではないが、山本昌氏きっての希望で佐々木朗希(大船渡)についても言及。番外編を含めて最後までとくとご覧あれ!



初戦の履正社戦で17三振を奪った星稜のエース・奥川恭伸

奥川恭伸(星稜/183cm・82kg/右投右打)

 さすが「大会ナンバーワン」と言われた評判通りの素晴らしい投手です。とくに初戦の履正社(大阪)戦のピッチングがよかったですね。全体的なフォームのバランスがよく、腕を縦に振れるから角度があって縦の変化球もキレがあります。しかも、ホームベース方向に体が真っすぐ向くからコントロールまでいい。プロでも活躍できる可能性は高いでしょう。気になる点を挙げるとすれば、高めにボールが浮くケースが多いこと。ステップ幅が狭く、やや突っ立ちぎみの投げ方なので、リリースするタイミングが少し早いと高めに浮いてしまう。とはいえ、この投げ方だから縦の角度を使える一面もあるわけです。これから体が強くなって、自分の体を扱えるようになってくれば、抜ける球も減ってくるはずです。



初戦で敗れたがプロからの評価が高い最速152キロ左腕の横浜・及川雅貴

及川雅貴(横浜/183cm・74kg/左投左打)

 さすがに中学時代から侍ジャパンU-15代表の主戦格を務めていただけあって、マウンドでの雰囲気がありますね。腕の使い方やボールの角度は、まるで岩瀬仁紀(元中日)のよう。ストレートはよく走るし、スライダーにもキレがあるのは大きな武器になるでしょう。ただ、センバツでは明豊(大分)打線にノックアウトされたように、好不調の波があります。フォーム自体に暴れるところがあるので、制球を乱してしまうようですね。気になるのは、軸足である左足のヒザがすぐに折れて体重移動に入ること。これではボールに角度が出ませんし、縦系の変化球を投げるのは難しいでしょう。体重移動をしながら自然に沈んでいく形を覚えたいところです。プロで活躍するには、もう少し角度と試合で頼れる球種を増やしたいですね。



センバツでは全試合リリーフで登板し、チームの準優勝に貢献した習志野・飯塚脩人

飯塚脩人(習志野/181cm・78kg/右投左打)

 センバツではロングリリーフでチームを準優勝に導きましたが、楽しみな素材です。上背はあるし、ゆったりしたフォームで上からボールを叩ける。角度がある上に縦系の変化球が投げやすいフォームです。ストレートの最速は148キロと、スピードがあるのも魅力です。惜しいのは、リリースの際に顔がわずかに一塁側にズレること。この動きに伴って左肩も開きが早くなるので、動きが噛み合わないとストレートのシュート回転が強くなってしまうんです。シュート回転を減らすには、少し顔のズレを気にしてみるといいかもしれません。いずれにしても、スケール感のある好素材です。



初戦の八戸学院光星戦で自己最速の150キロをマークした広陵の河野佳

河野佳(広陵/174cm・76kg/右投右打)

 さすが名門・広陵のエースを任されるだけのことはあります。八戸学院光星(青森)戦の投球は力強さがありながら、まとまりのよさも感じました。上背はさほどなくても、ストレートも変化球も腕の振りが一緒で、ゲームをまとめられます。今後の課題は、左肩が今よりもホーム寄りに移動できるか。つまり、捕手に向かって真横を向いたまま体重移動をする時間を長くすることです。打者はタイミングが取りづらくなるし、ボールの質も上がるはず。また、右腕をトップまでしっかり上げる時間も確保できます。全身を使って投げられるようになれば、もっと伸びる投手でしょう。



龍谷大平安に初戦で敗れたが、11回を投げ2失点と好投した津田学園の前佑囲斗

前佑囲斗(津田学園/182cm・87kg/右投右打)

 僕としては好きなピッチャーです(笑)。体格がいい上に、体を大きく使って投げられる。体重移動の時間も長いし、球持ちがいい。手首の立ち方もいいですね。あえて指摘するなら、ボールによって目線が高くなるときがあること。ボールは投手の目線通りに行くものなので、目線が高くなるとボールも抜けてしまう。上から捕手を見下ろすくらいの感覚でいいと思いますよ。あとはシュート回転より、引っかけてのスライダー回転が強くなる傾向があります。カットボールのような軌道で打者は打ちにくいのですが、ヒジへの負担が強くなるのでケアはしっかりしてほしいです。ヒジ・肩の故障歴はないと聞きますから、体も強いのでしょう。まだまだ大きな伸びしろを感じます。



盛岡大付から11三振を奪う好投を見せた石岡一高のエース・岩本大地

岩本大地(石岡一/175cm・80kg/右投右打)

 21世紀枠でのセンバツ出場でしたが、強豪校を苦しめたのもうなずけます。この投手の持ち味は球持ちのよさ。ボールを前で離せて、打者にとって数字以上の速さを覚えるストレートになります。どの球種でも腕の振りが変わらないから、変化球でも勝負できる。投手としてのセンスが高く、球種によって自分なりの投げ方のコツをわかっているようにも感じます。気になる点を挙げるなら、ストレートを投げる際の軸足の使い方。ストライクゾーンに体を入れようという意識があるからか、軸足が折れるのが早いんです。だから、シュート回転が強くなってしまう。カーブを投げるときは軸足がきれいに立って、自然に体重移動ができているのでストレートでも使い方を覚えてほしいですね。



初戦の横浜戦でリリーフし、6イニング1失点と好投した明豊の大畑蓮

大畑蓮(明豊/184cm・73kg/右投右打)

「なんで背番号10をつけているの?」と思うほど、能力の高い投手ですね。上背があるだけでなく、真上から振り下ろすダイナミックなフォーム。ボールがよく走るし、見ていて気持ちがいい球筋です。こういう投げ方の投手は縦の変化球がよく落ちます。ひとつ気をつけてほしいのは、顔が「ライン」から外れることがあること。私はピッチャーが投げるときに使う空間の幅のことを「ライン」と呼んでいるのですが、投手はこのラインの中で動作を収めて投げるのが基本だと考えています。大畑くんの場合は、頭がラインからズレるときがあるんです。ホームベースへ真っすぐ向かえるようになれば、もっと安定したピッチングができるようになるはずです。



センバツで147キロをマークした明石商の2年生エース・中森俊介

中森俊介(明石商2年/182cm・83kg/右投左打)

 2年生にして150キロ近いボールを投げられるのですから、素晴らしいものを持っている証拠です。体が大きい上に、ホームベースに向かっていくフォームがいい。3年生になるにつれて、さらに体が強くなってくればどこまで伸びるのか……と希望がふくらみます。投球センスもいいですからね。ひとつ気になるのは、腕をヒョイと上げるテイクバック。このリズム感が彼の特徴であり、自分の体に合っているのかもしれません。でも、もう少しのびのびと、大きく腕が振れるようになるともっとボールが走るようになるでしょう。今は余裕のない腕の動きに見えるので、肩甲骨を開くように回せると、より腕が振れるようになるはずです。

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 ほかにも、何人か気になった投手を挙げておきましょう。

 優勝投手になった石川昂弥くん(東邦)は、打撃面の将来性を買われているようですが、投手としてもセンスが高いので伸びしろを感じます。体が大きくてボールに重みがあり、コントロールもいい。テイクバックで右腕を止めずにスムーズに回せると、もっとボールにキレが出てくるでしょう。

 清水大成くん(履正社)は腕の振り、リリースポイントの高さが光る好左腕です。軸足を折るタイミングが早すぎるので、もう少し研究するとより角度が生かせる投げ方になるはずです。

 村田賢一くん(春日部共栄)は体の力がまずまずあるし、腕の振りに迫力を感じる右腕です。ただ、少し投げ急いでいる感があるので、ゆったり投げられるようになると左肩の開きも抑えられるでしょう。

 香川卓摩くん(高松商)は小柄(165cm)でも腕の振りが速くて、変化球も鋭いので左打者を幻惑できるサウスポー。対右打者へのチェンジアップをさらに磨くと、上の世界でも通用するはずです。



日本のみならずメジャーからも注目を集める163キロ右腕、大船渡の佐々木朗希

【番外】佐々木朗希(大船渡/190cm・86kg/右投右打)

 最後にセンバツ出場投手ではないのですが、どうしても語りたい投手がいます。それはセンバツ大会後の国際大会対策研修合宿で、最速163キロを計測した佐々木朗希くんです。

 投げ方を見ていると、細かな課題は目につきます。でも、そんなことを吹き飛ばすくらい、圧倒的なボールを投げています。足を高く上げて反動をつけ、まるで鳥が羽ばたくように両腕を広げて体重移動をし、角度をつけて強く投げ下ろす。すべてがダイナミック、かつロスなくボールに力を伝えられている。大谷翔平(エンゼルス)の高校時代よりもすごい素材かもしれません。

 あえて課題を挙げるとすれば、まだ本当に厳しい環境で揉まれていないこと。大船渡は1984年春にセンバツベスト4に入った歴史のある高校ですが、甲子園からは遠ざかっています。フィールディングなど、細かな部分もこれから覚えることになるでしょう。とはいえ、これだけスケールの大きな投手はそう現れるものではありません。

 佐々木くんが163キロを計測したことで、世間の評価は「佐々木一色」になった感もありますが、私は奥川くんも甲乙つけがたいと考えています。もし私がスカウトなら、どちらを1位指名するか迷うでしょうね。現時点での完成度や投手としての計算の立ちやすさを考えれば、奥川くんの能力もすばらしいですから。

 2人ともお互いに刺激を受け合って、これからも我々に進化した姿を見せてもらいたいですね。