ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。し…

ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。しかし、その状況はようやく変わりつつある。着実に成長している若手選手を、その生い立ちや人となりも合わせて紹介していこう。

今回取り上げるのは、彗星のように突如現れたアレックス・デミノー(オーストラリア)。

1999年、ウルグアイ人の父とスペイン人の母の間にシドニーで生まれたデミノーは、5歳から13歳までスペインで過ごしていたこともあり、英語のほか、スペイン語、フランス語を話す。グローバル化する世界を代表する存在である大坂なおみ(日本/日清食品)のように、コスモポリタンなバックグラウンドを持った選手だ。

ATP250以上大会の出場1年目の2017年はわずか2勝にとどまったものの、翌2018年に28勝を挙げてブレイク。同年1月の「ATP250 ブリスベン」で元世界3位のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)らを破ってベスト4入りし、続く「ATP250 シドニー」ではフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)やフェリシアーノ・ロペス(スペイン)を下して決勝進出。6月にノッティンガムのチャレンジャー大会で初優勝を飾り、7月の「ATP500 ワシントン」でファイナリストに。「ウィンブルドン」と「全米オープン」で3回戦へ駒を進め、11月の「Next Gen ATP ファイナルズ」で準優勝。世界ランキングは1年間で208位から31位へと大幅アップし、選手によって選ばれる2018年度のATPアワードで「最優秀新人賞」と「最も上達した選手」にノミネートされ、前者を受賞した。両部門に候補入りしたのはデミノーだけだ。

勢いは2019年に入っても止まらず、1年前は決勝で涙を呑んだ「ATP250 シドニー」でATPツアー初優勝。直後の「全豪オープン」でグランドスラム3大会連続となる3回戦進出を果たし、ランキングをさらに25位まで上げている(2019年4月8日時点)。

そんなデミノーの大きな特徴は、俊敏さ。183cmと決して長身ではないが、コートを走り回り、追いつくのは無理としか思えないボールも拾うことができる。そのスピードは、「Next Gen ATP ファイナルズ」で対戦したステファノス・チチパス(ギリシャ)も警戒するほど。子どもの頃から小柄で細身だったため大きい選手と対戦することに慣れており、スピードだけでなく「本能で相手の動きを読む」こともできる。

もう一つの特徴は、粘り強さだ。「他の選手たちに知っておいてもらいたいんだ。僕は決して諦めないことをね」と語るデミノーは、脚力に加えて緻密な作戦、ここぞという時の決定力を武器に、相手がセットポイントやマッチポイントを迎えても簡単には勝たせない。2017年の「全豪オープン」1回戦でジェラルド・メルツァー(オーストリア)に、2018年の「ATP500 ワシントン」準決勝ではアンドレイ・ルブレフ(ロシア)に、それぞれマッチポイントを握られながらも粘って逆転勝利。2019年の「全豪オープン」3回戦ではラファエル・ナダル(スペイン)の6つのマッチポイントのうち5つをしのいでみせた。

2018年の「ウィンブルドン」も含め2度対戦したナダルは、「自信を持ってプレーしており、若く素晴らしい選手。ここ数年で大きく成長した」とデミノーを称賛。11回のグランドスラム優勝を誇るレジェンドのロッド・レーバー(オーストラリア)も「特別なことを成し遂げるだろう」と期待を寄せる。

急成長の裏には、元世界トップクラスの存在がある。グランドスラムで2度優勝した元世界1位のレイトン・ヒューイット(オーストラリア)だ。同郷の大先輩はメンターとしてデミノーの試合を観戦し、練習にも参加。2018年には二人でダブルスに出場してもいる。「彼がくれたアドバイスの一つは、自分を信じること。周囲からのプレッシャーへの対処法も教えてくれる。自分より大きな相手との戦い方もね。彼から学んだことがすごく助けになっているよ」とデミノー。急成長の理由について本人は「自分を信じられるようになったことが大きい」と話すが、10年近くコーチを務めるアルフォンソ・グティエレスは「ヒューイットが彼に自信を与えた」と証言する。

20歳にしてオーストラリアを代表する存在となりながらも、「毎日が上達するためのチャンス。ポイントを一つずつ重ねていき、コートで150%を尽くす」が今も口癖のデミノー。2018年に史上稀に見る飛躍を遂げた彼は、変わらぬ向上心と献身性をもってさらなる高みを目指す。(テニスデイリー編集部)

※写真は2018年「ATP500 ワシントンD.C.」でのデミノー(Photo by Kevin C. Cox/Getty Images)