大船渡(岩手)の佐々木朗希がU-18高校日本代表の合宿で163キロを記録し、いまや”時の人”となっているが、センバツでスカウトから最も注目を集め、驚かせたのは星稜(石川)の奥川恭伸である。初戦の履正社(大阪)戦で3安打完封、17奪三振。2回戦で習志野(千葉)に敗れたものの、スカウトたちの評価は変わらなかった。奥川のすごさとはどこなのか。何人かのスカウトに聞いてみた。まずは投手出身のスカウトから。



センバツ初戦の履正社戦で17奪三振の快投を演じた星稜・奥川恭伸

「ストレートと同じ軌道からスライダーが来る。しかも、その精度がこの時期としてはすばらしい。高校生じゃ打てないですよ。腰の位置の高いピッチングフォームは日本人には珍しいけど、あれは奥川独特のもの。むしろ、あのフォームが彼の長所である角度を生んでいる。今はストレートのゾーンが少し高いけど、プロで体をつくりながら投げ込めばゾーンは下げられる。問題ないと思います」

 別の投手出身のスカウトは、こう奥川を評す。

「ストレート以上の腕の振りから変化球を投げられるのが最大の長所ですね。1回戦の初回はややボールが暴れていたけどすぐに修正し、それからはコンスタントに変化球を低めに集めてきた。プロでもなかなかできない技術ですよ。僕はそれができなくて苦労したんですから(笑)。それをもう高校生の時点で習得している。終盤に150キロ近い球を投げられる体力といい、言うことなしです」

 その話をすぐ隣の席で聞いていたスカウトも、奥川の話題だとわかるとこう声をかけてきた。

「抜群ですよ……抜群。あんなピッチャー、これから先、何年も出ませんよ。球界のお宝です。まだ高校生だし伸びしろは十分あると思うんですけど、求める方向性は間違えないでほしい。鍛えれば鍛えるほど(球が)速くなる……そういうタイプじゃない。コントロールや変化球の精度を含めた”総合力”で勝負するピッチャーじゃないかな。実際のスピードより、ストレートの質を高めていってほしいですね。いずれにしても、先発完投型の逸材。球界では絶滅危惧種になりつつある 200勝投手も夢じゃないと思います」

 数年前まで日本ハムのスカウトをしていた芝草宇宙(ひろし/現・帝京長岡コーチ)氏は、奥川についてこんな話をしてくれた。

「長く高校生を見てきたなかで、あれだけの安定感を持ったピッチャーを見たのは初めてかもしれないですね。去年1年であれだけ大きく伸びて、そろそろ成長が止まる頃なのかなと思ったら、ここにきてさらに進化している。あれだけ変化球のバリエーションが豊富にあって、しかもコントロールがいい。ストレートは常時145キロ前後でしょう。それだけのものを持ったピッチャーなんて、プロの一軍にもそういないですよ。心配するとすれば、プロのストライクゾーンに戸惑わないか……それぐらいですね。なかなか逸材が出ないと言われてきた”北陸”から出たわけですから……私も奥川くんのような素材を探して育てないといけませんよね」

 最後に、現役時代に強打者として鳴らしたスカウトにこんな質問をしてみた。

「奥川の球を打てますか?」

 すると「う~ん」と言ってから、すぐに答えが出てこなかった。そしてようやく出てきた答えがこれだ。

「まあ、三振することはないにしても、打ち取られる可能性は十分にあるでしょうね。私が奥川のすごさを感じているのは、スピードや変化球の精度というよりもバッターの反応や顔色を見ながら投げているピッチャーとしての感性なんですよ。昔だったら、桑田真澄さんとかね。打席に入った時に、すべて見透かされているような……そうなるといろいろ考えちゃうし、混乱するんですよ。奥川はそういう雰囲気を持っているピッチャーです」

 一部で「田中将大に似ている」という報道もあったが、そこには異論があると言う。

「高校時代の田中はパワーピッチャーですよ。彼がピッチングの技術を覚えたのはプロに入ってからですから。それに対して奥川はテクニシャン。しかもパワーを兼ね備えたテクニシャンだから価値が高いんですよ。プロからすれば手も足も出ない球ではないと思うのですが、こっちの様子を見ながらピッチングされ、気づいたら抑えられていた……。ひとり思い出したのが、高校時代の久保ですね」

 久保康友――関大一のエースとして、1998年のセンバツで松坂大輔擁する横浜に敗れるも準優勝に輝き、その後、社会人野球の松下電器を経てプロ入り。ロッテ、阪神、DeNAで13年間プレーし、通算97勝を挙げた右腕だ。

「久保もクイックが早くて、大舞台でベストピッチングができる。それが本当の意味で”能力の高さ”だと思います」

 誰もが絶賛した奥川のポテンシャルと投球術。来年のいま頃は、プロの一軍のマウンドで投げているかもしれない。