「奥川の、奥川による、奥川のための大会」

 あるスカウトが言った表現が大げさではないぐらい、今大会は星稜(石川)の奥川恭伸に注目が集まった。初戦で強豪の履正社(大阪)から17奪三振の完封劇。自己最速を更新する151キロをマークした。2回戦で習志野(千葉)に敗れはしたが、10三振を奪う力投を見せた。



初戦の履正社戦で17三振を奪った星稜のエース・奥川恭伸

「ここ10年では一番の完成度。松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大に匹敵する。ドラフト1位はもちろん、高卒ながら即戦力として考えられる」(パ・リーグスカウトA氏)

「去年から成長しているのが明らかにわかる。真っすぐとスライダーだけでゲームをつくれる。それに加えてフォークもあるんだから、バッターは大変ですよ。これほど完成度の高いピッチャーは、過去にいなかったのでは……。感心しました」(パ・リーグスカウトB氏)

「どの球種もコントロールとキレがあって、すべてにおいて高いレベル。非の打ちどころがない。今の段階でプロ野球のローテーションで投げていてもおかしくない実力がある」(セ・リーグスカウトC氏)

「角度があって、低めにしっかり投げ切ることができる。相手を見て、力を入れたり、抜いたりしながら投げているところも非凡。ああいうことができれば故障もしないでしょう」(セ・リーグスカウトD氏)

 なかには「重心が高いのが気になる」という声もあったが、「まさに10年にひとりの逸材」とスカウト陣からは絶賛の嵐だ。まだセンバツだというのに、スカウトのなかには「ウチのユニフォームが似合うかなぁ」と言う人までいた。

 その奥川の次に名前が挙がるのが横浜(神奈川)の左腕・及川雅貴(およかわ・まさき)だ。明豊(大分)に3回途中5失点でKOされたが、スカウトのスピードガンでは自己最速の153キロに迫る152キロをマーク。あらためてポテンシャルの高さを証明した。

 だが、昨年秋の関東大会の春日部共栄(埼玉)戦では、初回に2者連続三振のあとに3連続四球を与えて次打者に走者一掃の三塁打。明豊戦でも3回に8、9番打者に連続四球のあとに4安打を浴びるなど、突然崩れる課題は克服されていない。それでも高い評価を得られるのは、183センチの上背と150キロを超すスピードボールがあるからだ。

「能力は高いし、真っすぐはすごい。体にバネがあって、腕の振りもしなやか。左でこれだけの投手はなかなかいない。菊池雄星(マリナーズ)になれる素材」(セ・リーグスカウトC氏)

「身体能力の高さを感じる。球のキレやスピードはあるので、ピッチングはこれから磨いていけばいい。いつどこで開花するか。自分と向き合ってもらいたい」(パ・リーグスカウトB氏)

 将来性に期待する声が多い一方で、やはり結果を出せないことに首をかしげるスカウトもいる。

「きっかけをつかんだら一気に伸びるはず。ただ、個人的に技術面で気になるところがある。渡辺(智元/前監督)さん、小倉(清一郎/前部長)さんがいなくなって、投手を指導できる人がいなくなったのではないか……。指導にも問題があるかもしれない。出会いは大切だよ」(パ・リーグスカウトA氏)

 素材的には間違いなくドラフト1位クラスだが、今大会で評価が落ちたのは事実。スカウトたちは夏までの成長を期待していた。

 もうひとりの上位候補が東邦(愛知)のスラッガー・石川昴弥(たかや)。今大会はチーム事情で投手も務めているが、打者としてナンバーワンの評価だった。右打ちの大砲として期待される。

「バットの出方がいいから、逆方向(ライト方向)にも大きな打球が打てる。スイングにしなやかさがある。楽しみな素材だね」(パ・リーグスカウトA氏)

「派手さはないけど、スイング軌道がすばらしい。去年の花咲徳栄・野村佑希(日本ハム)と重なる部分が多いね」(セ・リーグスカウトD氏)

「サードを守っているときから投げミスを見たことがない。ピッチャーをしていてもそれが出ている。プロでも十分にサードが務まる」(パ・リーグスカウトD氏)

 この上位候補3人に続くのが、今大会で名を上げた広陵(広島)の右腕・河野佳(かわの・けい)。初戦の八戸学院光星(青森)戦で150キロを記録した。

「腕の振りがよく、スピードはもちろん、球に強さがある。楽天の則本(昂大)を目指せる素材」(パ・リーグスカウトA氏)

「ボールが全部低めに集まる。ピッチャーとしての資質が高い。スピード、キレ、コントロール……すべて揃っていて、安定感もある。もう少し身長(174センチ)があればね」(パ・リーグスカウトB氏)

 このほか投手では、津田学園(三重)の前佑囲斗(まえ・ゆいと)、石岡一(茨城)の岩本大地が候補に入ってくる。前は初戦で敗れたが、龍谷大平安(京都)を10回まで無失点に抑えた。

「遠投を見たらすばらしいよ。スピードはそれほど出てないけど、回転数が多い。伸びる球質を持っているピッチャー」(パ・リーグスカウトA氏)

「以前は力任せだったけど、ピッチングができるようになってきた。低めに伸びる真っすぐを投げている」(セ・リーグスカウトD氏)

 一方、岩本は最速144キロのストレートとチェンジアップを武器に、盛岡大付(岩手)から11三振を奪った。

「いろんな球種を操れるし、完成度が高い。本人は吉田輝星(日本ハム)を意識しているみたいだけど。吉田は高校3年の5月以降に一気に伸びた。岩本もそうなる可能性がある。意識ですべてが変わると言いたいね。これも”輝星効果”かな」(パ・リーグスカウトB氏)

「大学ならすぐに投げられる。引く手あまたでしょう」(セ・リーグスカウトC氏)

 夏までの成長次第でドラフト指名圏内に入ってくる可能性がありそうだ。

 また、今大会は二塁送球2.0秒を切る強肩捕手が多く、キャッチャーは豊作との声が多かった。スカウトから名前が挙がったのが、星稜の山瀬慎之助、智弁和歌山の東妻純平、筑陽学園(福岡)の進藤勇也、大分の江川侑斗の4人。なかでも期待が大きかったのが山瀬だ。

「体幹の強さがあるし、地肩はナンバーワン。バッティングは課題があるけど、”甲斐キャノン”になれる素材だね」(パ・リーグスカウトB氏)

 内野手で名前が挙がったのは、桐蔭学園の森敬斗、八戸学院光星の武岡龍世。ともに初戦で敗れたが、森は3安打を放ち、武岡は攻守で存在感を示した。

「森は体の強さがあるし、スピードもバネもある。打席での立浪和義のような雰囲気があるね」(パ・リーグスカウA氏)

「武岡はグラブさばきや捕球の仕方を見ると、よく練習しているのが伝わる。状況判断のいいプレーもあったし、これからが楽しみだね」(セ・リーグスカウトD氏)

 そして外野手で名前が挙がったのが、187センチ、95キロの履正社・井上広大。

「スケールの大きさが魅力。体は大きいけど、走塁も守備もそこそこやれるし、『大化けしたら……』という”ドリーム枠”で獲りたいね」(パ・リーグスカウトB氏)

 このほか、札幌第一戦で2本塁打を放った山梨学院の野村健太に対しては「スイングはそこまで速くないけど、飛ばす力がある」(セ・リーグスカウトC氏)、日章学園の平野大和については、「体に力があって、脚力がある」と、今後の成長に期待する声があった。

 超目玉の奥川という存在によって盛り上がったが、全体的には収穫は少ないというのがスカウトの印象だった。とはいえ、例年、ここから夏にかけて大きく伸びるのが高校生。夏の甲子園では、昨年の吉田輝星のようにアッと驚くスターが誕生することを期待したい。