写真:宮崎義仁(左)/撮影:アフロスポーツ以前にRallys特別インタビューにも登場いただいた「卓球界のレジェンド」宮崎義仁氏(日本卓球協会・強化本部長)の特別連載。『世界卓球解説者が教える卓球観戦の極意』(ポプラ社)も上梓した宮﨑氏が語る…

写真:宮崎義仁(左)/撮影:アフロスポーツ

以前にRallys特別インタビューにも登場いただいた「卓球界のレジェンド」宮崎義仁氏(日本卓球協会・強化本部長)の特別連載。

『世界卓球解説者が教える卓球観戦の極意』(ポプラ社)も上梓した宮﨑氏が語る、知られざる卓球の裏側。

第四回では、世界の卓球強豪国について語って頂いた。

世界最強の卓球王国「中国」とは

現在卓球で最も強い国は中国であり、中国一強の時代が長らく続いている。スウェーデンが一時期王者に君臨した時代もあったが、やはり中国の卓球王国の称号は皆が認めるものだ。特に女子は、1975年大会以降の世界選手権において、22大会中20大会で団体優勝を果たしている。もちろん優勝を逃した2回も、きっちり決勝まで駒を進めている。

なぜここまで中国は強いのだろうか。中国には22もの省があるが、そのほぼ全てに卓球の専門小学校が存在している。省によっては、「卓球・サッカー小学校」だったり、「卓球・バドミントン小学校」という場合もあるが、必ず卓球は入っている。

昨年、劉国梁さん(前・中国ナショナルチーム総監督)と会食をしたときに聞いたのだが、中国には1週間に2回以上卓球の練習を行っている人の数がおよそ9200万人もいるという。日本の全人口の7~8割の人が卓球を日常的にプレーしていることになる。

スポーツ選手の収入を見ても、中国で最も平均して収入が高い競技は、卓球だ。もちろん陸上やバスケットボール、バレーボールにも有名選手はいて、億を超える額を稼ぐ選手はいる。しかし卓球の場合には、億越えのプレイヤーが数十人もいる。ロンドンオリンピックの金メダリスト張継科選手は、2017年の収入が12億円だったそうだ。

中国のスポーツチャンネルで、一番視聴率が取れるのは卓球だ。なので、全放送の6割ほどを卓球が占めているのだという。いつスポーツチャンネルをつけても流れているのは卓球だということになる。

もちろん他のスポーツが放送されてもいるのだが、そのスポーツチャンネルが「卓球チャンネル」と呼ばれるほどに視聴率が高い。そのぐらい視聴率が取れるということは、それだけ人気があって、たくさんのお金が動いているということだ。

卓球で強くなれば、人気者になれて、お金もたくさん稼げる。そういったモチベーションが、昨今の中国卓球の強さに拍車をかけていることは、少なからずあるのだろう。

世界の卓球強豪国

日本でも卓球がその実力とともに人気が高まっているとはいえ、中国のように国技というほどにまでは発展していないのが実状だ。

中国以外で卓球が国技と呼べるまでに成熟している国は、北朝鮮が挙げられる。北朝鮮自体にあまりスポーツの印象がないかもしれないが、実はスポーツにはかなり力を入れている。そしてメダルに最も近いのは卓球なので、特に卓球への注力はすごい。

それから、シンガポール。2008年、シンガポールはオリンピック強化費として、各競技全体合わせて投入した金額が、なんと250億円にも上る。ちなみに、日本の予算は25億円だ。そのなかでシンガポールが獲得したメダルは卓球の1個だけだ。250億のうち、どれだけ卓球に投入されたかは不明だが、相当卓球に力を入れていることがわかる。

また、先述のように、世界選手権の団体戦には国ごとのランキングによって、第1ディビジョン、第2ディビジョンと実力分けがなされており、第1ディビジョンには16ヵ国あるが、そこは昔から伝統のある卓球大国ばかりだ。

ドイツや、フランス、スウェーデンなどはもちろん、ロシアやチェコ、ハンガリーにクロアチアと、どの国も昔から強い。その中でもアジア勢は一貫して強く、さらに中国は頭一つ抜けている。

日本はその中国の背中に迫ろうとしている。同じくらいの強豪国が、韓国とドイツ、女子でいうと韓国と北朝鮮だ。

中国を取り巻く各国の情勢

シンガポールや香港には、ちょっとした裏事情も存在する。

中国は先述の通りトップで活躍するプロ選手が1000人前後存在する。そのなかから、世界選手権出場の5人の枠に入ろうと思うと、単純に考えてもプロ選手のうちの上位0・5%(約200人に1人)に入らなければいけないわけだ。これは並大抵の努力ではとても掴めそうにない。

なので、中国代表になれない人間は、香港やシンガポールにいき、そこで帰化して国籍を得て、活躍をするという戦略を取る。

ただし、香港に行く場合は、中国卓球協会の許可を必要としている。くわえて、中国卓球協会が指名した人物が、香港の監督になる。これは言ってしまえば、中国の2軍チームということになるだろう。

一方で、自分のことを代表に選ばなかった中国を、何としてでも破ってひと泡ふかせてやりたい、と思って闘志むき出しで戦うのがシンガポールだ。2010年世界選手権団体では、シンガポールが優勝し、8連覇中の中国の記録を食い止めた。

宮崎義仁プロフィール

1959年4月8日生まれ、長崎県出身。鎮西学院高校~近畿大学~和歌山銀行。現役時代に卓球日本代表として世界選手権や1988年ソウル五輪などで活躍後、ナショナルチームの男女監督、JOCエリートアカデミー総監督を歴任。ジュニア世代からの一貫指導・育成に力を注いでいる。試合のテレビ解説も行っており、分かりやすい解説が好評。公益財団法人日本卓球協会常務理事、強化本部長。卓球国際新トーナメントT2 Diamondの技術顧問も務める。

※本コンテンツは宮崎義仁氏の著書『世界卓球解説者が教える卓球観戦の極意』(ポプラ社)の一部を引用、掲載しております。

文:宮崎義仁