先週、オークランド・アスレチックスとシアトル・マリナーズの公式戦がひと足早く日本で開催されたが、いよいよ本格的なメ…

 先週、オークランド・アスレチックスとシアトル・マリナーズの公式戦がひと足早く日本で開催されたが、いよいよ本格的なメジャーシーズンが始まった。ブライス・ハーパー、マニー・マチャドといった大物が移籍し、勢力図は一気に変わった。今シーズンのメジャーの行方はどうなるのか? 元ロサンゼルス・ドジャースのスカウトで、現在はアリゾナ・ダイヤモンドバックスの顧問を務める小島圭市氏に、各地区の展望を占ってもらった。



2012年から7年連続2ケタ勝利中のクリス・セール

ア・リーグ東地区

 昨年は、ボストン・レッドソックスとニューヨーク・ヤンキースが最後まで優勝を争いましたが、今年も同様の展開になるでしょう。

 昨季ワールドシリーズを制したレッドソックスですが、このオフはとくに大きな補強もなく、クローザーだったクレイグ・キンブレルが退団。それでも攻撃力はメジャー屈指で、昨年MVPのムーキー・ベッツを筆頭に、ザンダー・ボガーツ、ラファエル・デパースと20代の野手がチームの中心を担うなど、チームに勢いを感じます。

 投手陣もクリス・セール、デビッド・プライス、エドゥアルド・ロドリゲスと、先発に左腕3人を擁し、2016年のサイ・ヤング賞投手であるリック・ポーセロもいる。抑え不在という不安はありますが、投打のバランスは抜けています。

 対するヤンキースも、昨年はシーズン100勝をマークするなど、戦力は揃っています。アーロン・ジャッジ、ジャンカルロ・スタントンの両スラッガーはもちろん、昨年、大谷翔平と新人王を争ったミゲル・アンドゥハーが本格化すれば、レッドソックスに匹敵するだけの攻撃力はあります。

 不安があるとすれば投手陣。とくに先発陣は、ルイス・セベリーノ、CC.サバシアがケガで出遅れるなど、シーズン序盤は厳しい戦いを強いられます。開幕投手を務める田中将大を筆頭に、どこまで耐えられるかが重要になります。

 タンパベイ・レイズは、2018年にサイ・ヤング賞を獲得したブレイク・スネルが健在。野手も徐々に育ちつつあり、魅力的なチームです。ただ、上の2強に比べると戦力的にやや落ちると言わざるを得ません。

 トロント・ブルージェイズ、ボルティモア・オリオールズはチーム再建に着手したばかりで、すぐに結果を求めるのは酷だと思います。ただ、ブルージェイズにはウラディミール・ゲレーロ Jr.という超有望株がいます。ケガで出遅れていますが、彼が名実ともにチームの中心選手になっていけば、近い将来、上位を争えるチームになるかもしれないですね。



昨シーズン149試合に出場し、17本塁打を放ったホワイトソックスのヨアン・モンカダ

ア・リーグ中地区

 地区3連覇中のクリーブランド・インディアンスが、今年も中心になるのは間違いないと思います。とくに投手陣は、昨年20勝のコーリー・クルーバー、17勝のカルロス・カラスコ、12勝のトレバー・バウアー、13勝にマイク・クレビンジャー、11勝のシェーン・ビーバーと2ケタ投手を5人も輩出した豪華ぶり。以前に比べて、クルーバーがやや打たれ始めているのは気がかりですが、それでもこれだけの先発陣がいるというのは大きなアドバンテージです。

 不安があるとすればリリーフ陣。クローザーのブラッド・ハンドまでどうつなげていくかが課題で、シーズンが始まっても試行錯誤が続いていきそうです。ここがピシッと固まれば、地区優勝はもちろん、リーグチャンピオンシップ、ワールドシリーズのチャンスも出てくるはずです。

 昨年、地区2位のミネソタ・ツインズはジョナサン・スコープ、ネルソン・クルーズ、C.J.クロンといった強打者を次々と獲得。彼らが額面どおりに働いてくれれば面白い展開になりますが、どこまでチームにフィットするのか不安もあります。

 ア・リーグ中地区で、個人的に注目しているのがシカゴ・ホワイトソックスです。このチームは昔からチームづくりがうまく、そろそろ出来上がってくるのでは……という雰囲気があります。ヨアン・モンカダは覚醒の予感があり、マイナーにはイーロイ・ヒメネスという有望株もいる。昨年100敗しているチームですから、一気に優勝争いというのは考えられませんが、十分上位に食い込めるだけの戦力はあると思います。

 デトロイト・タイガース、カンザスシティ・ロイヤルズは大きな欠点はないのですが、全体的にスケールが小さい。劇的にチームを変えてくれる選手が出現すれば、一気に雰囲気も変わってくるでしょうが、現状は厳しいですね。



今季からマリナーズの一員としてプレーする菊池雄星は何勝できるのか?

ア・リーグ西地区

 相変わらず分厚い戦力を誇るヒューストン・アストロズが、今年も他チームを引き離し、地区3連覇をするでしょう。ホゼ・アルトゥーベ、カルロス・コレアらの中軸は健在で、投手陣もジャスティン・バーランダー、ゲリット・コールに加え、左腕のウェイド・マイリーを獲得するなど、大きな穴は見つからない。一昨年ワールドシリーズを制した時のような勢いこそ感じませんが、裏を返せば”円熟味”が出てきた証拠。チームの目標はあくまで2年ぶりのワールドシリーズ制覇です。

 菊池雄星が入団したシアトル・マリナーズは、オフに主力を大放出し、チームは一気に若返りました。主力は大半が20代で、まだ伸びしろのある選手ばかりですので大化けの可能性もありますが、シーズンを通して戦うだけの戦力は整っていない印象です。菊池も1年目はそれほど無理して投げないでしょうし、来年以降に期待したいですね。

 大谷翔平のいるエンゼルスですが、マイク・トラウトと12年約469億円の大型契約を結んで話題になりましたが、戦力的に大きな上積みはなく、今年も厳しい戦いになるでしょう。そんなエンゼルスにとって明るい話題は、監督がマイク・ソーシアからブラッド・オースマスに代わったこと。オースマスは現役時代から「将来は名監督になるだろう」と言われていた人物で、今後の大谷の起用法も含め、どんな采配をするのか注目です。

 どのチームも「打倒・アストロズ」を掲げるには心許ない戦力ですが、このなかで唯一期待できるのがオークランド・アスレチックスです。マリナーズとの日本での開幕戦は連敗しましたが、このチームは毎年夏以降から力を発揮してきます。7月末のトレード期限ギリギリまで粘って、ピンポイントで補強してくるからで、前半戦と後半戦はまったく別のチームと言っていいぐらいメンバーの顔ぶれは変わります。前半戦をなんとか5割でいければ、優勝は難しいにしてもワイルドカードでポストシーズン進出は十分あると思います。



大争奪の末、フィリーズへの入団が決まったブライス・ハーパー

ナ・リーグ東地区

 ロナルド・アクーニャJr.やオジー・アルビーズといった若手が急成長を遂げ、昨シーズンは下馬評を覆し5年ぶりに地区優勝を果たしたアトランタ・ブレーブスが、今年も本命になると思います。ただキャンプ中、投手陣に故障者が続出して、とくに先発は若手に頼らざるを得ません。メジャーでの実績が乏しく、未知の部分は大きいですが、若手投手陣が機能すれば、とんでもなく強いチームになるのではと期待してしまいます。いずれにしても近い将来、ワールドシリーズ制覇を狙えるチームになると予感しています。

 このオフにブライス・ハーパーをはじめ、打てる捕手のJ.T.リアルミュート、元MVPのアンドリュー・マカッチェン、世界一経験者である抑えのデビッド・ロバートソンなど、大補強を敢行したフィラデルフィア・フィリーズ。これだけの選手が集まれば戦力アップは確実と言いたいところですが、そう簡単にいかないのが野球の難しさです。新戦力が期待どおりの活躍をしてくれればリーグ優勝はおろか、リーグチャンピオンシップ、ワールドシリーズの可能性もありますが、まずはどんな野球をするのか。そこに注目したいですね。

 同じく大補強を行なったニューヨーク・メッツは、ロビンソン・カノ、ウィルソン・ラモスを獲得し、打線を強化。また、メジャー屈指のクローザーであるエドウィン・ディアズも加わり、ブルペンも劇的に変わった。そして先発には昨年のサイ・ヤング賞投手、ジェイコブ・デグロムもいる。選手の名前だけを見ればワールドシリーズ制覇も夢ではない布陣ですが、故障者が多く、まだチームとして成熟していないという不安があります。

 昨年地区2位のワシントン・ナショナルズは、フアン・ソト、ビクター・ロブレスといった20代前半の野手が成長。その一方で投手陣は、マックス・シャーザー、スティーブン・ストラスバーグなど、経験豊富な先発陣が揃い、バランスのいいチームです。フィリーズやメッツに比べて、派手な補強こそありませんでしたが、地味に底上げをしている印象があります。

 ナ・リーグ東地区は、マイアミ・マーリンズ以外、すべてのチームに優勝の可能性がある大激戦地区です。シーズンに入ってからの戦いはもちろんですが、7月末のトレード期限までどんな補強をしてくるのか。そこからの目が離せないですね。



今シーズン、完全復活に期待がかかるダルビッシュ有

ナ・リーグ中地区

 昨シーズンはミルウォーキー・ブルワーズとシカゴ・カブスの1ゲーム差で首位争いが決着し、序盤の失速が響いたセントルイス・カージナルスも8月以降に盛り返すなど大激戦でしたが、今年もこの3チームによる熾烈な優勝争いが繰り広げられそうです。

 なかでも注目しているのが、カブスです。ダルビッシュ有が普通に投げて、10勝以上挙げることができれば優勝はグッと近づくと思います。このオフ、投打ともに大きな補強がなかったのは、それだけ現有戦力で戦えると判断したからでしょう。ただ不安を挙げるとすれば、選手の高齢化。とくに先発陣はジョン・レスターが35歳、ダルビッシュが32歳、コール・ハメルズが35歳……抑えのペドロ・ストロープも33歳。経験、実績は十分ですが、大きな上積みは期待できません。活きのいい若手が出てくれば、世代融合したすばらしいチームになると思います。

 昨年、地区優勝のブルワーズは、数年前から再建していて、ようやくいい方向にチームが進み始めました。超大物がいるわけではないですが、ロレンゾ・ケインやクリスチャン・イェリッチといった仕事人タイプの選手が多く、隙のない印象のあるチームです。先発陣にやや不安がありますが、コリー・クネイベル、ジョシュ・ヘイダー、ジェレミージェフレスのブルペン陣は強力ですので、リードしてつなげる展開に持ち込めれば、自然と勝ち星は増えていくはずです。

 カージナルスは若手が順調に育ち、オフにはポール・ゴールドシュミットを獲得するなど、打線に厚みが出てきました。投手陣は、マイルズ・マイコラスが昨年最多勝を獲得するなど劇的なメジャー復帰を果たし、球界最速クローザーのジョーダン・ヒックスも健在。また、故障続きのマイケル・ワカもオープン戦では好調をアピールするなど、明るい話題が多いのも好材料です。カブス、ブルワーズと互角に戦える戦力は揃っています。

 ピッツバーグ・パイレーツは、投手力はあるのですが、攻撃陣に不安があり、上の3チームと比較すれば戦力不足は否めません。シンシナティ・レッズも同様で、ヤシエル・プイーグを獲得しましたが、大きくチームが変わるとは思えません。ともに3位までならチャンスはあると思いますが、優勝争いは厳しいでしょうね。



サンディエゴ・パドレスと10年契約を結んだマニー・マチャド

ナ・リーグ西地区

 2年連続ワールドシリーズで敗れたロサンゼルス・ドジャースが今年も大本命ですが、絶対的エースであるクレイトン・カーショーが左肩の痛みで出遅れるなど、不安要素もあります。ただ、先発には昨年8勝したウォーカー・ビューラーという期待の若手がおり、彼は近い将来、サイ・ヤング賞を獲るのではないかと思うほど、才能溢れたピッチャーです。カーショー不在でも、投手力は大きく落ち込むことはないと思います。打線も、マニー・マチャドが退団しましたが、コリー・シーガーがケガから復帰。打線の厚みは相変わらずです。

 ドジャース以下の4チームは混戦になると思いますが、打線の厚みでコロラド・ロッキーズがやや優位かなと思っています。ノーラン・アレナド、トレバー・ストーリー、チャーリー・ブラックモンの主軸は健在で、攻撃力はメジャーでも上位の力があります。ただ、気圧によりボールが飛びやすいという本拠地の特性もあって、投手がなかなか育たない。打線だけを見ればドジャースに匹敵しますが、投手力の差で及ばないかなと思いますね。

 昨年最下位だったサンディエゴ・パドレスはマニー・マチャド、イアン・キンズラーという実績ある内野手が加わり、また若手も台頭している。間違いなく昨年の66勝96敗よりは成績を上げてきます。どこまで上位争いに加われるのか見ものです。

 アリゾナ・ダイヤモンドバックスはポール・ゴールドシュミットが抜けるなど攻撃力低下は否めませんが、きっちり仕事をするタイプの選手が多く、上位争いできるだけの陣容だと思います。サンフランシスコ・ジャイアンツも目立った補強はなく、大幅な戦力アップは見込めませんが、実績ある選手が多く、粘り強い戦いをしてくるはずです。

 いずれにしてもナ・リーグ西地区は、シーズン序盤からドジャースを独走させないこと。シーズン終盤まで首位と3ゲーム差以内のチームであれば、優勝のチャンスは十分にあると思います。