写真:井上慎一(Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO)/撮影:ラリーズ編集部Tリーグ開幕以前から、長きに亘って琉球アスティーダのスポンサーをつとめるLCCの雄、Peach。昨年12月には「琉球アスティーダ沖縄ホームマッチで…

写真:井上慎一(Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO)/撮影:ラリーズ編集部

Tリーグ開幕以前から、長きに亘って琉球アスティーダのスポンサーをつとめるLCCの雄、Peach。

昨年12月には「琉球アスティーダ沖縄ホームマッチでの目標観客動員数達成で、那覇発着便の航空券プレゼント」の大規模キャンペーンを行うなど、名実ともに「支援者」であり、ユニークなプロモーション戦略にも注目が集まる。

オリパラ前年の2019年。卓球の魅力、トッププロの試合の熱気をこの1年で加速度的に伝えていくためにはどうすればよいのか?

卓球を深く理解し愛する敏腕経営者、Peach CEOの井上慎一氏が、卓球を広く愛されるスポーツに昇華する、数々のプロモーションアイデアを語ってくれた。

——Tリーグ開幕から3ヶ月が経過しました。本業でいらっしゃる航空輸送事業では、常にクライアント目線でサービス改善を続けていらっしゃると思います。卓球の分かる経営者という目線でTリーグをどのようにご覧になっていますか?

Peach井上慎一CEO(以下井上):Tリーグを最高の選手、技術が観れる場所にしたいですよね。国内のトップ選手はほとんど参戦していますし、役者は揃っている。

あとは色んな仕組みを入れてお客さんの観戦体験をもっと良くするだけだと思います。

例えば、野球でピッチャーのボールの軌道を見せているように、Tリーグの会場でもスクリーンに、スローモーションでリプレイが流れ、サーブの軌道の変化、ドライブの球速やどう沈んだかなどを見られると面白いと思います。スポーツテックの導入ですね。

選手たちの放つボールは沈んだり、曲がったりも球速の速いドライブからピタッと止まるストップまで多彩です。試合会場で生で見るとこんなに沈んでるのか、こんなに曲がってるのかと思いますがこの視覚、感覚に訴えるようなものをもっと入れたいですよね。

——観戦の文化が育っている他競技からのノウハウの応用ですね。

井上:他にもまだまだありますよ(笑)

試合のハーフタイム、試合に出ていない選手がコートに登場して観客とラリーをするんです。選手とフォア打ちをし、観客は1本打ったら交代していく。経験者なら結構続いて盛り上がるんじゃないですか。

——これは嬉しいですね。試合に出られなかった選手もファンサービスで盛り上げたいと思っているはずなので、選手のためにもなると思います。是非アスティーダのホームゲームで実現いただきたいです。

井上:12月の沖縄でのホームゲームでは客室乗務員との交流の機会を設けさせていただきましたが、実は今年2月11日に行われたホームゲームの際のハーフタイムショーでは、張選手に登場いただき、客室乗務員を交えて、ファンとの1点先取のゲームをさせていただきました。

主催者側から「時間がないので、内容をもっと巻いてください」と怒られながら(笑)でも、会場はかなり盛り上がりましたよ。今後ももっとおもろい交流の仕掛けを検討していきます。

そして、実はこのアイデアには原体験があるんです。

——具体的にお聞かせください。

井上:私が中学生の時、当時の中国の世界チャンピオンの希恩庭(きおんてい)さんが日中交歓卓球(正式名称:日中友好交流都市中学生卓球交歓大会)で私の地元の藤沢にやってきたんですね。

卓球少年にとっては、世界チャンピオンと打てるなんて嬉しいじゃないですか。フォア打ちをさせて貰う機会があったので、取れないボールを送ってやろうと思って全力でスマッシュしてみたんですが、あっさり返されましてね(笑)

あれは一生忘れない体験です。

実はその30年後に日中交歓卓球50周年で希恩庭さんに再会したんです。その時は私も中国語が出来るようになっていたので「藤沢でラリーしてもらいました」と話したら希恩庭さんも覚えてくださっていた。パーティの5番テーブルでの30年ぶりの会話。これも忘れられない思い出です。

——子供の頃のスターと触れ合う体験は一生の宝物になりますよね。Tリーグがそういう場になるかもしれないということですね。

井上:もう2つ考えてきたので話してもいいですか?

——さすがアイデアマンの経営者でいらっしゃいますね(笑)何個でもお願いします。

井上:AIのついた卓球マシンを開発したら面白いと思うんです。

松下さんの顔が書いてあるマシーンから、ブッチ切りのカットが出てくるとか。張本選手のチキータとかドライブが受けられるとか。

——バッティングセンターでプロのピッチャーの顔が書いてあって同じ球速や変化球が受けられるマシンありますよね。

井上:そうそう。張本選手のドライブを打ち返せたら気持ちいいじゃないですか。

Tリーグはこういうことも含めてプロの卓球選手の凄さを体験できる仕組み。卓球の人口を増やす仕掛けにしてしまったら良いと思います。

——残るもう一つのアイデアも教えてください。

井上:先程とも共通するのですが、Tリーグはプロの選手の凄さを感じていただける場所になればいいと思うんですね。

例えば練習をもっと見せるというのも面白いと思うんです。琉球アスティーダの場合、まだ出番が無いですがカットマンの村松(雄斗)選手がいる。

カットマンの練習は台から下がるし、ラリーが続くし、見ているだけで楽しい。

それからサーブ練習も回転とコントロールの凄さが実感できます。バックスピンをかけて戻ってくるところを見せてもいいし、台の隅っこにボールを置いて、そこに当てられるコントロールを見せても盛り上がる。

試合自体はもちろんですが、その周りでいかに卓球の面白さ、トップアスリートの凄さを見せられるか。これが興行であるTリーグが盛り上がるかどうかの鍵を握ると思います。

――試合会場以外での取り組みについて、何かPeachの強みを活かしたご提案などありますか?

井上:ファッションですね。Peachも機体のデザインや客室乗務員の制服は、女性目線を大切にし、相当こだわっています。

Tリーグでも万人ウケを狙うため、オフィシャルユニフォーム(ジャージなど)を、もっと女性ウケするファッショナブルなものにしても良いかと思います。卓球のイメージをよりカッコイイものにする事は大切ですよね。

海外では、例えばサッカーチームや野球チームのユニフォームが私服として一般人に着られていて、自然とチームを応援することが日常に根差されています。ユニフォームが一般人のテンションを盛り上げるという事もぜひ念頭に入れていただき、どのスポーツよりもファンと身近にあるリーグ運営を期待したいですね。

ーー卓球にファッションやブランディングの視点を入れるということですね。このような具体的なアイデアはご自身の卓球経験によるものも大きいと思います。卓球はいつ始められたのでしょうか?

井上:中学から部活でスタートしました。小学校まで体が弱かったので運動はあまり出来なかったのですが、文化部ではなく運動部にと思い、卓球部に入部しました。でも意外とハードだったんです。

入部した年が長谷川信彦さんが世界チャンピオンになった年で卓球部が大人気。同期の部員が100人いて、やめさせないといけないのでしごきが始まって。グラウンド100周とか平気でしていましたね。そのしごきのおかげで体力がつき今日に至るわけですが(笑)

——お話を伺っていて、昔、体が弱かったとは思えないほどのエネルギーを感じます(笑)

井上:卓球のおかげですね。湘南高校では2年生からレギュラーでした。団体は県大会でベスト8決定まで毎回行くのですが、相模工大(現・湘南工大)、日大藤沢、藤沢商業など同じ地区に強い学校が沢山あり、そのおかげで充実した学生生活でした。

——県立進学校で勉強と両立しながら強豪校と争う。まさに文武両道ですね。どのようなプレースタイルだったのですか?

井上:希恩庭さんを目指してペンのショートマンでした。ダーカーのスピード15というラケットにバタフライのスレイバーを貼ってショートで相手を振り回す。ラケットも角型ではなく半丸型でショートがやりやすい。

今はほとんどプレーしませんが、ラケットには福原愛さんと張怡寧選手のサインをもらって大事に保管してあります。

松下チェアマンに福原愛さん、中国の世界王者の希恩庭と張怡寧。卓球界のスターたちとの交友も持つ井上氏。そしてインタビュー最終回となる次回、経営者としての驚きのルーツが明かされる。なんと「卓球をやっていなければPeachは成功していなかった」という、にわかには信じがたい経営秘話が飛び出したのだ(第三回に続く)

井上慎一氏プロフィール

Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO
神奈川県藤沢市出身。神奈川県立湘南高校卓球部OB。早稲田大学法学部卒。三菱重工業株式会社勤務を経て、全日本空輸株式会社に入社。北京支店総務ディレクター、アジア戦略室長、LCC共同事業準備室長を経て2011年5月から現職。無類の卓球好き経営者として知られ、日本初のLCCを成功に導く経営戦略も卓球をヒントに組み立てる。Tリーグ・日本リーグの琉球アスティーダのメインスポンサーとして、「沖縄から世界へ」を支援することでも知られる。

文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)