マックス・フェルスタッペンがフェラーリのセバスチャン・ベッテルをオーバーテイクした瞬間、開幕戦オーストラリアGPの舞台であるアルバートパークは歓声に包まれ、レッドブルのピットガレージ、そして観戦していたホンダの八郷隆弘社長ら経営陣も大…

 マックス・フェルスタッペンがフェラーリのセバスチャン・ベッテルをオーバーテイクした瞬間、開幕戦オーストラリアGPの舞台であるアルバートパークは歓声に包まれ、レッドブルのピットガレージ、そして観戦していたホンダの八郷隆弘社長ら経営陣も大いに盛りあがった。2015年のF1復帰以来、苦戦を強いられ、厳しい批判をぶつけられ続けてきたホンダにとって、ようやく長年に及ぶ努力が花開いた瞬間だった。



3位に入って開幕戦で表彰台を掴み取ったフェルスタッペン

 フェルスタッペンは4番グリッドから実力でフェラーリを抜いて3位表彰台を掴み取った後、ホンダへの賛辞を贈ることも忘れなかった。それだけ今年のRB15には車速の伸びがあり、レッドブルが現行規定になってから一度も立つことができなかったメルボルンの表彰台に立つことができたのは、ホンダのパワーユニットの貢献も大きかったということだ。

「表彰台に立つためには、コース上でセブ(ベッテル)を抜かなければならなかった。このサーキットでは、それは簡単なことじゃない。でも、それが果たせたから、とてもハッピーだよ。

 レース中の車速も、昨年までに比べてすばらしい進歩が果たせた。トップ2チームとトップスピードで互角というのは、僕らにとって本当に大きな進歩だ。ホンダにはものすごく感謝している。彼らにとっては、(2014年以降の)V6時代で初めての表彰台だ。それもすごくうれしいね」

 そんな歓喜の渦の中、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターに笑顔はなかった。ホンダの面々の努力が実ったのだから、うれしくないわけなどない。しかし、喜んでばかりもいられない――。それが、厳しい目で現実を見詰める田辺テクニカルディレクターの本心だった。

「うれしいですし、正直に言えばホッとした面もあります。今まで『勝ちにこだわって』と言いながら表彰台にすら上がれていなかったのが、上がれたことは明らかな一歩前進ですから。長い間開発してきたメンバーにとって、自分たちのパワーユニットを載せたクルマがそういうポジションにつけたのは自信になります。

 しかし当然、手放しでは喜べないという気持ちもあります。予選・決勝を通してメルセデスAMGの強さと、彼らとの差はハッキリと見えていますから、大喜びしている場合ではない」

 たしかにコース上でフェラーリを追い抜いたあのシーンは、ホンダの躍進を顕著に表わす場面であり、あまりに感動的だった。

 しかし、そこに至った背景を忘れてはいけない。

 3位を走行するベッテルが14周目にピットインしてルイス・ハミルトンとの逆転を狙うも、ハミルトンはこれに反応してピットに飛び込みポジションを守った。

 性能低下の少ない今年のタイヤでは、ピットストップは長いレースの中でたった1度。そのライバルの逆転のチャンスをしっかりと潰したのが、メルセデスAMGだった。

 ただ、レッドブルはここで動かなかった。フェルスタッペンにはレース序盤からタイヤをセーブさせて、25周目まで引っ張らせたうえでピットインしてタイヤを交換。これによって第2スティントは、先にピットインしたベッテルおよびハミルトンより常に10周新しいタイヤで走るという”アドバンテージ”を作り出した。

 レッドブルが最初から狙っていたのは、ここだったのだ。この10周の差を生かして、レース後半に勝負を仕掛けようとしたわけだ。

 レッドブルがこの戦略を採ることができたのは、タイヤマネジメントに自信があったのもさることながら、ピットストップで逆転しなくともコース上でフェラーリを追い抜くことができる、という自信があったからこそだ。

 そして、その自信を持てたのは、ホンダがこれまでのレッドブルになかったパワーと最高速の伸びを与えてくれたからにほかならない。ホンダ関係者も、「明確な差はまだわからないが、パワーはかなり追いついているし、少なくとも戦えるポジションには来た」と自信を見せた。

 目の前のトラックポジションに惑わされることなく、2台体制でどちらの戦略にも振れるライバルチームに対し、1台で戦わなければならないからこそ冷静に、第2スティントで有利な状況を作り出すことに徹した。



歓迎を受けながらパドックに戻ってくるレッドブル・ホンダ

 レッドブルの冷静なレース戦略と、金曜&土曜フリー走行のロングランデータ分析による決勝ペースの自信、タイヤマネジメントの巧みさ、そしてホンダのパワー……。それらすべてが噛み合って初めて成し得た、3位表彰台獲得だった。

 ただ、パワーだけでフェラーリをねじ伏せたわけではない。実体以上に見た目がよく見えてしまっていることも、また事実である。

 まったく同じパワーユニットを搭載するトロロッソに目を向ければ、チーム関係者いわく「予選で6位・7位を狙っていた」ほどの実力があったにもかかわらず、Q1からQ2への路面グリップ向上と路面温度低下をアグレッシブに予想しすぎて遅いタイムしか記録できず、Q3進出のチャンスを棒に振った。

 決勝でトロロッソは、ダニエル・クビアトが後方スタートとなったレッドブルのピエール・ガスリーを抑えて10位入賞を果たした。だが、どれだけ優れたパワーユニットがあってマシン性能が高くとも、レース週末全体の運営という意味で現状のトロロッソのチーム力では10位に終わった、ということでもある。つまり、レッドブルのチーム総合力があってこその3位表彰台獲得だった。

 しかしレッドブルは、バルセロナ合同テストからマシンの熟成不足に悩んでいる。メルセデスAMGがセッティング面での問題を解決して大幅に速さを増したのに対し、レッドブルはまだ車体に問題を抱えたままだ。

 予選のアタックラップを見ると、メインストレートエンドの最高速はメルセデスAMGの319 km/hに対し、レッドブルは320 km/hとほぼ同等。しかし、高速のターン11通過速度はメルセデスAMGの260 km/に対し、レッドブルは254km/hと差が開く。低速のターン3ではメルセデスAMGの102 km/hに対してレッドブル98 km/hと、昨年のレッドブルの強みであった低速コーナーでもメルセデスAMGに後れを取っている。

 これが、レッドブルのヘルムート・マルコが語る今の課題だ。

「メルセデスAMGとのギャップが縮まったことには非常に満足している。予選に比べて、決勝ではこれだけギャップを縮めることができたんだから。

 しかし現時点で、我々のシャシーが大幅に劣っていることもわかっている。それが改善できれば、誰が前にいようと勝負を挑むことができる。今年の我々のパワーユニットはコンペティティブだから、我々が今やらなければならないのはシャシー側だ。つまり、シャシーが改善すれば勝つことができる。あとは、我々次第なんだ」

 3位表彰台という好結果を手に入れてもなお、レッドブルもホンダもそれに満足することなく、さらなる上を意識して気を引き締め直している。クリスチャン・ホーナー代表はこう語る。

「ホンダの供給してくれたパワーユニットはすばらしかった。メルセデスAMGやフェラーリとのギャップを縮めるという目標は、すでに達成できたことが確認できたと思う。

 しかし我々は、ここをベースにさらに前進していかなければならない。フェラーリはここでは強力ではなかったが、間違いなく挽回してくるだろう」

 ホンダの田辺テクニカルディレクターもまったくの同意見だ。

「今日は実力でフェラーリを後ろに従えることができましたが、あとになって、『ここはフェラーリがめちゃくちゃ不得意なサーキットだったね』という結果が出ることもあり得ます。我々パワーユニット側としては、どうやってその差を詰めていくか。上を狙えば狙うほど緻密に物事を詰めていかなければ。それを徹底して、全員が前向きに開発していかなければなりません」

 レッドブル・ホンダは開幕戦で、表彰台というすばらしい結果を手にした。しかし、表彰台という高みを知ったからこそ、あらためて頂点への道のりの遠さが明らかになった。フロアにダメージを負っていたハミルトンはともかく、勝利を収めたバルテリ・ボッタスのメルセデスAMGは22秒も前にいたのだから。ホーナー代表は言う。

「タイトル争いを口にするのは、まだ早すぎる。F1は立ち止まっていることのない世界だ。21戦のうち1戦が終わっただけに過ぎない。今回のレースでは膨大な情報を得ることができたし、これからそれをしっかりと活用し、今後につなげていかなければならない」

 レッドブル・ホンダの主要メンバーたちは、誰ひとりこの結果に浮かれることなく、さらなる高みを目指し、前だけを見ている。だからこそ彼らは、我々にもっとすばらしい光景を見せてくれることだろう。