待ちに待った2015年ラグビーワールドカップ(W杯)戦士のサンウルブズ・デビューである。チームはレッズ(オーストラリア)に逆転負けを喫しながらも、「ナキ」ことアマナキ・レレイ・マフィが今秋のW杯に向け、健在ぶりをアピールした。暴行トラブル…

 待ちに待った2015年ラグビーワールドカップ(W杯)戦士のサンウルブズ・デビューである。チームはレッズ(オーストラリア)に逆転負けを喫しながらも、「ナキ」ことアマナキ・レレイ・マフィが今秋のW杯に向け、健在ぶりをアピールした。暴行トラブル、自主謹慎などを経て、3つのことをより意識するようになった。



後半出場時、会場から拍手で迎えられたアマナキ・レレイ・マフィ(写真中央)

「感謝」と「責任」、「ラグビーができるヨロコビ」。

 感情が揺さぶられる試合だった。キックオフ直前、グラウンド中央に両チームが一緒に肩を組んで円陣をつくった。ニュージーランド・クライストチャーチで起きた銃乱射事件の犠牲者に黙とうを捧げるためだった。そこに背番号20のマフィの姿もあった。

 3月16日の東京・秩父宮ラグビー場。ちょうど晴れ間が広がった後半5分、マフィ(ナンバーエイト)の交代を告げるアナウンスが流れるとスタンドから大歓声とあたたかい拍手が沸き起こった。「待ってたよ」とのおじさんの声援も。

 試合後。シャイなマフィが「もう」とつぶやき、小声でつづけた。

「すごい、感動しました。試合のあと、泣きそうな感じで。ずっとみんなに心配かけたのに…。ありがたいなって」

 テレビの囲みインタビューでは、最後、深々と頭を下げた。

「日本のみなさん、応援してくれたみなさん、あなたたちのおかげで、ここで試合ができて…。ありがとうございました」

 マフィがピッチに入った時は、サンウルブズが21-5でレッズを大量リードしていた。

 だが、スクラムとラインアウト、モールを軸とした相手の猛反撃を受け、攻撃機会が減っていった。それでも、マフィはからだを張った。激しいタックルで何度もピンチを救う。

 見せ場は後半28分だった。3連続トライで21-26と逆転された後のラインアウト。マフィはラックからボールをもらうと、持ち前の強じんな足腰を生かして突進した。タックルで倒されてもダウンボールし、すぐに立ち上がってボールを拾って前に出た。ゴールライン直前に迫り、SH(スクラムハーフ)内田啓介の逆転トライ(ゴール)につなげた。

 ラスト5分。マフィはタックルで顔面を強打した。駆け付けたドクターは両手で「×」印をつくったが、タフガイは立ち上がって、プレーをつづけた。31-34で試合終了。サンウルブズは国内初勝利を挙げることはできなかった。

 マフィは少し変わった。スクラムを組む前にはフロントローに檄(げき)を飛ばし、ゲームが途切れると、チームメイトによく声をかけるようになった。自主謹慎などで苦しんだからだろう。プレーができるヨロコビ、チームをリードする責任感が増したようにみえる。言わば29歳の自覚である。

 マフィが所属するNTTコミュニケーションズの内山浩文GM(ゼネラルマネジャー)はこの日のマフィのプレーを見て、「とてもうれしかったですね」と喜んだ。

 チーム復帰後の変化を聞けば、「練習に取り組む姿勢」を挙げた。

「練習中でもチームをよく鼓舞するんです。率先してからだを張り、厳しいことを周りに言うようになりました」

 試合後のミックスゾーン。マフィは30人ほどのメディアに囲まれると、消え入りそうな声で漏らし、吐息をついた。

「疲れました…。試合していなかったので、疲れました」

 体力はともかく、ゲーム勘はまだ戻っていないようだ。タックルを外される場面も。

「まあ、まだまだですね。これから。もうちょっと。そう。フィットネスが足りないかなと思います」

 今日の出来は100点満点中何点?と聞かれると、マフィは笑って答えた。

「まあ、1点」

 えっ。1点ぽっち。メディアも笑った。

「あと99点。来週は110、やります」

 マフィはトンガ出身。関西学生Bリーグ(2部)の花園大学でプレーしていたところ、エディー・ジョーンズ前日本代表HC(ヘッドコーチ)に発掘された。素材は文句なしだ。前回のW杯では日本代表の3勝に貢献し、その後、海外のクラブにも挑戦した。

 だが昨年7月、当時所属していたレベルズ(オーストラリア)の遠征先のニュージーランドでチームメイトと暴行トラブルを起こし、一時、身柄を警察に拘束された。保釈後は自主的に謹慎しながらも、個人練習はつづけていた。NTTコムに戻り、11月のトップリーグ公式戦には復帰した。

 日本ラグビー協会は司法手続きが係属中として、W杯日本代表候補への招集を見送ったままだったが、司法手続きの終結が見通せないこととマフィが深く反省していることなどから、今月上旬、W杯候補合宿に追加招集した。そして、このほど、サンウルブズに加わった。

 マフィの仲良し、プロップの”ヤンブー”こと山下裕史が振り返る。サンウルブズの合宿の最中、移動のため、タクシーに同乗した際、「おかえり」と声をかけたそうだ。

「ナキの使命はこう、チームに勢いをあたえるポジションですから。パワフルで。ありがたい存在ですね」

 やはり日本代表には必要な選手である。約8カ月ぶりの世界最高峰のスーパーラグビー復帰となったマフィ。「うれしいですね」。そうしみじみと漏らした。

「こういうチャンスをもらって、それを使いたいと思った。でも、悔しい試合だった」

 サンウルブズの先にはもちろん、日本代表を見据えているだろう。「ワールドカップは?」と聞けば、マフィは言い切った。

「とりあえず、私はサンウルブズにフォーカスします」

 囲み取材が終わると、マフィは右手で鼻を押さえ、上を向いた。試合中の顔面強打による鼻血がまた、出てきたのだった。白色のティッシュを鼻のアナに詰め、歩き出した。

 心配すると、「ダイジョウブ」と笑った。モットーが「練習も試合も100%」。感謝と責任、そしてラグビーができるヨロコビを改めて知った29歳。W杯へ、再び走り出した。

(了)