最終ラップ最終コーナーの攻防は、去年とまったく同じ展開になった。 開幕戦カタールGPは、毎年恒例のナイトレースとして行なわれる。ドーハ郊外の砂漠に位置する全長5380メートルのロサイル・インターナショナル・サーキットは、コースを取り囲…

 最終ラップ最終コーナーの攻防は、去年とまったく同じ展開になった。

 開幕戦カタールGPは、毎年恒例のナイトレースとして行なわれる。ドーハ郊外の砂漠に位置する全長5380メートルのロサイル・インターナショナル・サーキットは、コースを取り囲む照明に照らし出されてそこだけがまるで真昼のような明るさになるという幻想的な雰囲気のなかで、MotoGPマシンの激烈な戦いが繰り広げられる。



またも接近戦でファンを沸かせたドヴィツィオーゾ(中央)とマルケス(右)

 昨年のレースでは、アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ミッション・ウィナウ・ドゥカティ)とマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が終始、接近戦を展開した。

 最終ラップの最終コーナーでイチかバチかの勝負に出たマルケスは、ドヴィツィオーゾのインに無理矢理マシンをねじ込んで前に出た。だが、コンパクトに旋回できずワイドにはらんでしまい、一方できれいに立ち上がったドヴィツィオーゾが最終コーナー出口を制して、わずかに早くゴールラインを通過。両者のタイムギャップは、0.027秒という僅差だった。

 今年の決勝レースも、このふたりの戦いは去年とまったく同じ展開になった。

 ドヴィツィオーゾ−マルケスの順で最終コーナーへ差しかかり、マルケスがインへ無理矢理ねじ込んだものの、オーバーラン気味になったところへドヴィツィオーゾが一瞬先に立ち上がって、先にゴール。今年の両選手のタイム差は、0.023秒だった。

「レース終盤でマルクと戦う完璧な作戦だった。シフトミスをしてしまい、マルクが前に出たときに彼の状況がわかった。タイヤのグリップがこちらより悪いとわかったので、それが自信になった」と、ドヴィツィオーゾはこの日のレースを振り返った。

「最後は〈マルクスタイル〉で抜きにかかり、うまく仕掛けてきた。でも、自分は加速がいいので、彼の仕掛けにきっちり対応できた」

 また、ドヴィツィオーゾは「あんな勝負ができるのはマルクだけ」とも述べて、ライバルの卓越したテクニックと闘争心を評価した。

「あんなコーナー進入をできるのは、マルクしかいない。彼は勝負をしたかったから、あそこであんなふうに攻めてきたんだ。でも他のライダーなら、あの状況だと僕の後ろにいたままだっただろう。彼に対してこういう勝ち方ができたのはいいことだけど、残念ながらマルクはあんな状況を作り出すことのできるライダーなんだ」

〈マルクスタイル〉と呼んだ勝負の駆け引きについては、こんなふうに解説した。

「誰かの後ろにいるときは、ハードなブレーキングで勝負しなければならない。フロントとリアがロックして恐怖を感じるくらいの状態でも、適切に曲がっていかなければならない。あれは僕にはできないね。でも、マルクは何かを持っているんだ。あの状況でも、彼は皆よりうまくやる。たいていの場合、彼がああいう勝負に出るとうまく制してしまうけど、それはこちらも織り込み済みなので、適切に対応した」

 マルケスとの攻防を分析的に説明するドヴィツィオーゾだが、怪物の怪物たる所以(ゆえん)を評価できるのは、彼自身もまた怪物だからにほかならない。

 一方、その超人的な攻防に負けたマルケスはというと、「ここは苦手サーキットで苦労するコースだから、2位で終えることができてとてもハッピーだよ」と、さばさばした表情で述べた。

「とくにこのウィークはフロントタイヤのマネージメントに苦労した。終盤はドビのペースがよかったけど、勝負に出たんだ。負けたけど、いい勝負だった。やるだけのことはやって、20ポイントを獲得できた」

 ドヴィツィオーゾとマルケスが最終ラップの最終コーナーで紙一重の勝負を繰り広げたのは、今回が5回目になる。

 2017年のオーストリアGPは0.176秒差でドヴィツィオーゾの勝利。2カ月後の日本GPは雨の中で同様の展開となり、このときも0.249秒差でドヴィツィオーゾが先んじた。そして3回目が昨年カタールでの開幕戦。4回目の攻防は秋のタイ、ブリラム・サーキットだったが、ここでようやくマルケスがドヴィツィオーゾに一矢報いて0.115秒差で勝負を制した。

 そして今回の攻防について、マルケスは「去年のリプレイだったけど、去年のほうがもっとチャンスがあるように感じた」と振り返った。

「今年は勝負しなきゃならなかったからトライした。(決勝時の温度条件を考慮して選択した)ミディアムタイヤだと、止まりたいように止まれないのはわかっていた。エンジン頼みで立ち上がりに備えたものの、(去年よりは)1000分の4秒近づけたけど十分じゃなかった。でも、やるだけやったよ」

 ところで、今回のレースを終えて、「ドゥカティ陣営の使用したスイングアームの形状が、レギュレーションで規定する空力構造の規定に違反しているのではないか」という理由から、アプリリア、KTM、ホンダ、スズキの各ファクトリーチームが抗議を行なった。FIMスチュワード審査団はこの申し立てを却下。現在は、この却下に対する抗告がMotoGP控訴審に委託されている。

 カタールGPのリザルトはレース終了時のものが現状では有効だが、抗告が認められた場合にはマルケスが繰り上がって優勝扱いとなる。今回の抗議とその影響について、マルケスはレース終了直後に以下のようなコメントを残している。

「コースのなかで全力で走って、今日は自分より速い選手がひとりだけいた。それがドビ。だから、彼が僕に勝ったんだ」