2016年のリオデジャネイロオリンピックで、日本男子セブンズ(7人制ラグビー)は4位入賞という快挙を成し遂げた。しかし、2016年以降は思うように強化が進まず、昨年のセブンズ・ワールドカップでは15位という結果に沈んでしまった。2年半…

 2016年のリオデジャネイロオリンピックで、日本男子セブンズ(7人制ラグビー)は4位入賞という快挙を成し遂げた。しかし、2016年以降は思うように強化が進まず、昨年のセブンズ・ワールドカップでは15位という結果に沈んでしまった。



2年半ぶりにセブンズのメンバーに選ばれた藤田慶和

 ただ、2020年には東京オリンピックが控えている。2018-2019シーズン、日本は世界10カ国を転戦して戦うワールドシリーズに全大会出場できる「コアチーム」に再び昇格。来年のオリンピック自国開催に向けて、より一層の強化に努めている。

 そのワールドシリーズは、アメリカ・ラスベガス大会(5大会目/3月1日~3月)とカナダ・バンクーバー大会(6大会目/3月8日、9日)が続けて開催される。その北米遠征のために選ばれた男子セブンズ日本代表12人のなかに、15人制日本代表31キャップを誇る藤田慶和(パナソニック ワイルドナイツ)の名前が久しぶりにあった。

 藤田は現在、スーパーラグビーチームのサンウルブズにも、日本代表候補合宿のメンバーにも選ばれていない。それでも、7人制男子日本代表の強化合宿を経て、リオデジャネイロオリンピック以来のセブンズ入りに心を躍らせている。

「セブンズで活躍すれば、サンウルブズや日本代表に呼ばれるかもしれない。そういったことは後からついてくるので、今はラスベガス大会に集中したい」

 藤田は東福岡高校時代、国内の相手に無敗を貫き、「花園」こと全国高校ラグビーで3連覇を成し遂げて「怪物」と称された。高校3年生の時には、セブンズでワールドシリーズデビューも果たしている。さらに早稲田大学に入学した1年の春には、15人制日本代表で初キャップを獲得。2015年の15人制ワールドカップではチーム最年少の大学4年生で出場し、アメリカ代表戦ではトライも挙げた。

 しかし、エディー・ジョーンズからジェイミー・ジョセフに指揮官が代わると、藤田は15人制日本代表に定着することができなくなり、長い間もがき苦しんでいる。昨年はテストマッチで1試合もグラウンドに立てず、追加招集されたサンウルブズでも1試合の出場にとどまった。

 今シーズンのトップリーグでは、リーグ戦とプレーオフ合わせて3試合で1トライ。日本代表の首脳陣にアピールすることができなかったが、年が明けた1月のカップ戦の順位決定トーナメントでは、2試合で4トライと気を吐いた。

 見違えるようなプレーを出せるようになった理由を、藤田はこう明かした。

「リーグ戦が終わったくらいから、『やらないで後悔するなら、やって失敗して後悔しよう』と、マインドセット(心構え)が変わった。それまでは苦手な部分にしかフォーカスしていなかったですけど、今はボールに触る回数を増やして自分の強みで勝負しないといけないと」

 それでも、サンウルブズからも15人制の日本代表候補からも声はかからなかった。

 焦れた藤田は、思い切った行動に出る。今年からサンウルブズの指揮官に就任したトニー・ブラウンに自ら連絡を取り、1月末から1週間、千葉・市原で行なわれる合宿に練習生として参加する許可をもらったのだ。

 市原への移動費は自費。もちろん、日当も出ない。藤田は積極的な姿勢を見せて、ブラウンHCにアピールした。しかし、この合宿で練習生からメンバーに昇格することは叶わなかった。

 そんな折、セブンズから正式なオファーが届いた。だが、うれしい反面、一抹の不安もよぎる。「セブンズに行ってしまうと、2019年の15人制ワールドカップに出場できる可能性がなくなってしまうかもしれない……」と思ったからだ。

 市原での合宿最終日、藤田はブラウンHCと1対1で話し合い、「今後どうしたらいいのか」と相談した。すると、ブラウンHCは「思いはわかったから、セブンズに行ってこい。セブンズで世界レベルと戦いつつ、フィットネスを上げておいてほしい。サンウルブズか日本代表でトラブルがあったら呼ぶから」と言ってくれたという。

 この言葉で、藤田は「頭の中がクリアになった。不安が吹っ切れた」。そして、2月のセブンズ強化合宿で「ずっと取り組んできたランニングスキル」をアピールし、約2年半ぶりにメンバーに選ばれた。

 かつてのセブンズでの藤田は、アタック時にボールを展開する一方、ディフェンスでは後ろに下がって守るSH(スクラムハーフ)のポジションだった。だが、現在はユーティリティBK(バックス)という位置づけで、状況によってはHO(フッカー)としてスクラムを組む可能性もあるという。

「まだまだフィットネスは上げないといけないですが、ボールを持って走ることが自分の持ち味なので、そこにフォーカスしてワールドシリーズの舞台で発揮したい」

 藤田の頭の片隅には、9月に日本で開催されるラグビーワールドカップのことがあるに違いない。2015年のワールドカップでは1試合しか出場できなかっただけに、その悔しさを晴らしたいはずだ。

 藤田は「ワールドカップにつながると信じてやるしなかい」と、まずは目の前のセブンズに「すべてをかける」と語る。もちろん、リオデジャネイロオリンピックで試合に出場できなかった無念を、「東京五輪でリベンジしたい」という思いもある。

「2019年のワールドカップもあきらめていないし、2020年の東京オリンピックも出場したい。両方目指しています!」

 25歳になった藤田だが、真摯にラグビーに取り組む姿勢は、高校時代から何ひとつ変わっていない。まだチャンスは残っている。まずはワールドシリーズで大暴れすることこそが、次の扉を開くカギとなるだろう。