いよいよ2019年シーズンの開幕前テストが始まった。タイムシートの上では連日フェラーリが速さを見せるなか、レッドブル・ホンダの走りに期待していたファンにとっては「喜びと物足りなさが半々」といった結果ではないだろうか。大きなトラブルもな…

 いよいよ2019年シーズンの開幕前テストが始まった。タイムシートの上では連日フェラーリが速さを見せるなか、レッドブル・ホンダの走りに期待していたファンにとっては「喜びと物足りなさが半々」といった結果ではないだろうか。



大きなトラブルもなくテスト1周目を終えたレッドブル・ホンダ

 バルセロナ合同テストの4日間を通して、レッドブルもトロロッソもホンダのパワーユニットにトラブルらしいトラブルはなく、これまでのイメージを返上するようなトラブルフリーのテスト走行を果たした。

 レッドブル側は2日目のピエール・ガスリーのクラッシュでダメージが及んだためにパワーユニットを交換したが、トロロッソ側は1基で4日間・計482周・2243.71kmを走り切った。スペインGPの週末に走る距離が165周前後だから、およそ週末3レース分を走破したことになる。年間3基の規定で求められるマイレージの約半分だ。

 ホンダは、パワーユニットの基本的なデータの確認やセッティングの熟成と並行して、テスト1週目の4日間を1基で走って耐久性を確認するつもりだった。レッドブル側のデータを取ることができなかったのは痛いが、2日間と4日間走ったコンポーネントをHRD Sakuraに送り返して分解検査することで、ベンチとは違った実走での消耗と寿命がより正確に見えてくるはずだ。

 ただ、外から見ればトラブルフリーの4日間だったが、実際には細かなマイナートラブルは出ていて、それらを現場で対処しながら進めていた。2周目のテストには、設計レベルで対処した対策品も投入するという。こうしたプロセスを経ることで、信頼性を上げていくのだ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「フェラーリを見てもわかるように、テストでは走り込むことが大切です。初回テストの最初の1、2日はマイナートラブルもあるでしょうけど、大物(コンポーネント)の部分で距離を稼いで問題点を出し、1レース週末分は保つことを確認しなければ、次には進めませんから。

 テスト1週目でそれをやってしまえれば、次のテストに向けたアップデート……パフォーマンスというよりも信頼性の補強みたいな感じですが、その対応パーツがテストの2週目や開幕戦までに間に合います。8日間のテストの8日目に問題が出ても、(その対策品の投入と確認作業は)なかなか難しいですから、とにかく最初にネガ出しをしてしまい、それに対応して次のステップへという感じです」

 この段階では、パワーユニット単体でのパフォーマンスを推測するのは難しい。どのチームもコンサバティブなモードで走っていたり、実力を明かさないためにある程度の燃料を搭載して走っているからだ。

 しかし、スピードトラップやコントロールライン通過スピードでは、レッドブル、トロロッソの両方が上位に名を連ねている。

 最終日のベストタイムを例に取れば、直線主体のセクター1ではトロロッソのアレックス・アルボンが最速。トータルのラップタイムで0.244秒速かったルノーのニコ・ヒュルケンベルグよりも速かった。この事実から、現段階でホンダのパワーユニット性能がまずまずのレベルにあることは間違いなさそうだ。

 トロロッソはセクター3でルノーに0.434秒と大きな差をつけられて2番手タイムだったが、低速コーナーで抜群のメカニカルグリップを誇るレッドブルであれば、さらにタイムを削ることができるはずだ。もちろん、中高速コーナーの多いセクター2でもタイムを稼ぐことができる。トロロッソのラップタイムを見るかぎり、レッドブルの伸びしろはまだまだ大きい。

 レッドブルは、初日から基本システムのチェックと空力データの収集に専念し、設計および風洞実験の想定どおりのマシンに仕上がっているかを徹底的に確認していった。

 各ドライバーが2度目のドライブを行なう3日目以降は、細かくセットアップを変更しては15~17周のセミロングランを繰り返し、それぞれの変更に対するマシンの反応とタイヤライフへの影響をチェック。セットアップ変更点以外の変動要素を最小限に抑えるために、摩耗量が少なくグリップ変動の少ないC3タイヤ(※)で走り続けた。

(※)ピレリが用意した2019年シーズンのドライタイヤは5種類(C1〜C5)。もっともハードなタイプがC1で、一番ソフトなものがC5。レースでは5種類の中から3種類をピレリが用意し、硬いほうからハード、ミディアム、ソフトと呼ばれる。

 そのため、ライバルたちのように、ラップタイムを狙った3周アタックは行なっていない。

 目先のラップタイムよりも、2日間255周に及ぶ膨大なデータをもとに、RB15の性能を最大限に引き出すことができるセットアップと開発の方向性を、ここでしっかりと見定める――。それが、レッドブルのテストプログラムだ。

 メルセデスAMGとフェラーリも多少の差こそあれ、おおよそ同じような方針でテストをこなしている。今年はフロントウイングに代表されるように、一部のマシン規定が変わってダウンフォースが減っているだけに、あらためてその部分の見極めが重要だからだ。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はこう語る。

「テスト1週目の主目的は、マイレージを重ねて、車体とパワーユニットの複雑な集合体についてしっかりと理解を深めることだ。それぞれが調和して機能しているのか、それを理解していかなければならない。

 だからテスト1週目は、まずはマイレージを稼ぐことが重要だった。データはリアルタイムで(ホンダの欧州活動拠点である)ミルトンキーンズに送られ、多くのエンジニアが分析してマシン特性を学び、長所と短所をしっかりと把握する。そうすることで、何カ月も先の開発の方向性を見定めていく」

 つまりレッドブルは、今回のテストで目先のタイムは狙っていない。今は遠回りをしているように見えるが、最終的に最高の状態に持っていくため、最大の近道を地道に歩いているのだ。

 テストでのタイム差は、前述のように「燃料を何kg積むか」でいくらでも調整できるため、ライバルとの相対的な比較には適さない。それでもマシンの素性はいいと、両ドライバーとも語っている。

「自分たちのクルマで何がうまく機能するのか、しないのか、僕らはそれを確認する作業に集中しているので、他チームのことは見ていない。今は車体やパワーユニットからどれだけ性能を引き出せるのかを見ないと。ラップタイムには表れていないけど、ペースはまだまだ上げられるから、マシンの全体的なフィーリングはとてもいい」(ガスリー)

「テストでのラップタイムをどうこう語るのは、いつだって難しい。重要なのはできるだけ多くの周回をこなし、どの方向に進むべきかを見出すため、できるだけ多くのセットアップを試すことだ。新レギュレーションはフロントウイングなどさまざまな要素があるから、正しく理解するのは容易なことではない。今日もたくさんのことを学ぶことができたよ」(マックス・フェルスタッペン)

 レッドブルのドライバーたちは、メディアにあれこれ聞かれても具体的なことは答えないという姿勢を徹底して貫いていた。「今のところはいいね」「いいフィーリングだ」という言葉に終始し、それ以上の発言をしないよう、チームから指示されているようだ。

 しかし、テスト3日目に現地にやって来たホンダの山本雅史モータースポーツ部長は、「思っていた以上にチーム内の雰囲気が明るくてビックリした」といい、クリスチャン・ホーナー代表やレッドブルアドバイザーのヘルムート・マルコらから歓待を受けたという。

 昨年からレッドブルとの共同開発を進めてきた田辺テクニカルディレクターも、バルセロナに来てから日を追うごとにそれを感じていたと語る。

「3日目のトップタイム(トロロッソ)について『あまり意味はない』と言いつつも、無理くりひねり出した感じではないので、(あのタイムを見れば)どうもがいても速さが出せないわけではないのでしょう。レッドブルはレッドブルで自分たちのペースでテストを進め、それなりに結果が出ています。我々も足を引っ張ることなくできているので、計画はスムーズに進んでいます」

 ここまで、新車RB15は想定どおりに走っている。だから、「これだけプッシュすれば、これだけタイムが伸びる」という予測も正確にできる。単純にC3タイヤとC5タイヤの差(約1.2秒)を差し引いただけでも、1周目テスト最終日は2番手タイムだが、内容を考えれば実際の差はそれ以上だろう。

 それこそが、レッドブルのチーム内が極めて明るい雰囲気に包まれている理由に他ならない。

「24時間ぶっ通しの作業でテストに間に合わせ、長い距離で耐久性を確認し、必要なものは開幕戦に向けてもう一度アップデートするという計画が予定どおりできているわけです。全員が明るくなるのも当然だと思いますね」(田辺テクニカルディレクター)

 もちろん、ホンダのパフォーマンスが想定どおりであったこと、そして信頼性が高かったことも、レッドブルが非常に気をよくしている理由だ。ホーナー代表はホンダの成し遂げた仕事を高く評価している。

「ホンダは冬の間で、間違いなく大幅にギャップを縮めてきた。我々にとって、それは競争力を手にするために必要不可欠なジグソーパズルのピースのひとつだ。これまでの我々は車体性能の問われるサーキットでのみ強みを発揮していたが、今回の体制変更によって、もっと多くのサーキットで安定した成績を収めることができるようになる」

 レッドブルにとって、必要不可欠な最後のピースがようやく手に入りかけている。それは同時に、ホンダにとっても待望の瞬間が近づいていることを意味している。

「我々の春が近づいてきたような感じです。その春がどんな春なのか、もしくは夏(くらい熱い春)なのか、まだわかりませんけどね」

 普段は大きなことを言わない田辺テクニカルディレクターからも、そんな発言が飛び出した。見た目上は目立たない位置にとどまってはいるが、そのくらい今のレッドブル・ホンダにはポジティブな予感が漂っている。