スケートヒロシマ2019選手権(スケートヒロシマ)3日目。選手権女子フリースケーティング(FS)で、中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)が現役生活を締めくくる演技を披露した。 演技前の6分間練習。中塩の名前がコールされると、この日一…

 スケートヒロシマ2019選手権(スケートヒロシマ)3日目。選手権女子フリースケーティング(FS)で、中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)が現役生活を締めくくる演技を披露した。

 演技前の6分間練習。中塩の名前がコールされると、この日一番大きな歓声が会場に響き渡った。中塩はややジャンプに苦戦している様子だったが、その表情は明るかった。そしていよいよ最終滑走。「一番思いをこめて滑れたプログラム」と語る『タイタニック』にのせ、集大成に向け滑り出した。冒頭のジャンプは、トリプルトーループ-トリプルトーループを予定していたが、ファーストジャンプの着氷後オーバーターンが入りコンビネーションに繋げることができず、次の単独トーループも2回転となった。しかし、前日のショートプログラムで「最後に3+3を跳びたい」と語っていた中塩。ここで諦めることなく、予定を変更して3番目のジャンプでリカバリーに挑んだ。セカンドジャンプは2回転になったものの、トリプルトーループ-ダブルトーループのコンビネーションを見事成功。次のジャンプは、6分間練習の際全て回転が抜けて2回転になっていたサルコー。着氷に乱れはあったものの、しっかりと3回転回りきって降りてみせた。続く要素は最大の見せ場であるステップシークエンス。華やかな曲に合わせ、丁寧に、かつ思いをたっぷり込めた中塩らしい表現を見せた。「自分の今までの人生とかこれからの夢とかをすごい表現できた」と語るこのプログラム。きらきらとした夢や期待を予感させるステップで、観客を大いに魅了した。しかし後半に入ると、2つのジャンプで転倒。表情には陰りが見えた。それでも、中塩は諦めることなく立ち上がった。最後のアクセルにもミスが出たが、決して演技自体を投げ出すことはなく、柔らかく美しいコレオシークエンスと華麗なレイバックスピンで、しっとりと余韻を残しながら演技を終えた。演技後、広島だけでなく各地から駆け付けたファンや後輩選手らの温かい声援、そしてスタンディングオベーションに見送られる中塩の表情には、こみ上げるものがあった。


ステップシークエンスで思いを表現する中塩


丁寧な滑りで感動的な空気感を演出する中塩

 競技人生最後のFSを「今シーズン最悪の演技」だと評した中塩。それでも、地元広島で滑ったことについて「結果がどうであろうと、出てよかったな」と振り返った。「しんどいこともたくさんあると思うし、諦めちゃえば楽かなって思うことも私も何回もあったけど、やっぱり、頑張ってる人にはスケートの神様はほほえんでくれると思う」という信条の通り、最後まで諦めず懸命に滑り切った姿は、観客の目に焼き付いて離れることはない。名残惜しいが出航の時が来た。中塩が向かう先には、きっといっそう明るい未来が広がっているだろう。


多くの選手やファンに囲まれて笑顔を見せた

(記事 小出萌々香、写真 犬飼朋花)

結果

▽選手権女子


中塩美悠 2位 119.99点 (FS 72.10点)


コメント

中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)

――今日のフリースケーティングを振り返っての感想をお願いします。

そうですね、なんか、たぶん今シーズン最悪の演技だったので(笑)最後の最後にふがいない演技をしちゃって、それはすごい消化不良というか、情けなすぎて、びっくりしてます。

――タイタニックというプログラムを1シーズン滑り終えて、どういったプログラムだと思いましたか。

一番思いをこめて滑れたプログラムだと思います。自分の今までの人生とかこれからの夢とかをすごい表現できたというか、反映できたプログラムだと思います。

――そのスケート人生というのを改めて振り返ると、いかがでしょうか。

やっぱり、スケート人生、上手くいったときもあるし、上手くいかなかったこともすごくいっぱいあるんですけど、スケートがなかったらこんなに悩むこともなかったんだろうなと思うけど、悩んだぶん、得た知識は多いし、やっぱり人として成長できたのはスケートのおかげだし、なくてはならないものかなと思います。

――最後の公式戦だった国体から、この試合まではどのように過ごしてきましたか。

ちょっと靴を変えて調整してたんですけど、普通に全然調子は良かったんですけど(笑)、最後の最後にぐちゃぐちゃになっちゃったから、なんか最後の公式戦が国体でよかったかなとは思いますね。

――それでも、最後に広島で滑ったということで、広島への思いというのはどういったものですか。

スケートヒロシマでこんなに観客の方が来てくださるのを見たことがなかったので、それも、私の引退のために来てくださってるっていう方もたくさんいて、結果がどうであろうと、出てよかったなと思います。

――地元の人たちや後輩の選手たちも応援に来ていたと思います。そういった方々やファンの皆さんに何かメッセージがあれば、お願いします。

ほんとに、後輩の子たちに、私が言っていいのかわからないけど、しんどいこともたくさんあると思うし、諦めちゃえば楽かなって思うことも私も何回もあったけど、やっぱり、頑張ってる人にはスケートの神様はほほえんでくれると思うし、ぎりぎりの瀬戸際で、例えばショート通過するかしないか、西日本通るか通らないかって時に良い方に転ぶのはやっぱり頑張ってた子だと私は思うんですよ。それを信じてずっとやってきて、今シーズンも全日本に出ることができて、フリーを滑ることができて、最後はぼろぼろだったけど、でも、やっぱり、頑張ってきたら、他の人にどう見えてるかはわからないけど、良い方に転ばしてもらえてるのは私が頑張ったからかなと思うから、後輩の子たちには、やっぱり、自分を信じてあげてほしい。「努力は裏切る」とかそういうことを言う人も確かにいるけど、確かにすぐ結果として表れるものじゃないかもしれないけど、長い目で見たときにその努力は無駄ではなかったって必ず思えると思うから、投げ出さずに、真摯に向き合ってみてほしいなと思います。

ファンの方には、やっぱり、ジュニアの頃から応援してくださってる方が結構たくさんいて、ジュニアの頃のタイトルを獲っていたキラキラした私じゃない、大学生の頃の苦しんでいた私も見捨てずにずっと応援してくださってたのはすごくありがたいです。