石川雅規×寺原隼人×近藤一樹 緊急鼎談(前編) ヤクルトの春季キャンプ(沖縄・浦添市)のメンバー表を眺めていると、寺…
石川雅規×寺原隼人×近藤一樹 緊急鼎談(前編)
ヤクルトの春季キャンプ(沖縄・浦添市)のメンバー表を眺めていると、寺原隼人の入団でプロ18年目の選手が3人もいることに気づいた。生え抜きの石川雅規、2016年のシーズン途中にオリックスからトレードで移籍してきた近藤一樹。プロ野球という生存競争の厳しい世界で18年も生き抜いてきた彼らのそれぞれの”現在”を取材すると面白いのではないか……。そんなことをぼんやりと考えたのが始まりだった。
「石川さんとテラ(寺原)とは、もう3人で一緒に食事しましたよ」
そう言って近藤は笑ったが、次の瞬間、思いもよらない言葉が返ってきた。
「記事になれば1回では収まらないですよ。僕たち3人には知られざる裏話というか、エピソードがありますから。それはドラフト前から始まり、テラがいるから石川さんがいて、石川さんがいるから僕がいる。そこには各球団の駆け引きがあったんです。いま、あそこで石川さんが話をしているのは、近鉄のスカウトだった方で、だからあいさつをしているんです。石川さんも面白い話をしてくれると思いますよ」

今季プロ18年目を迎えた(写真左から)寺原隼人、石川雅規、近藤一樹
後日、石川にそのことで取材のお願いをしに行くと、こんな答えが返ってきた。
「それはいいですね。僕もコンちゃん(近藤)にその話を聞いた時は、『へぇー、そんな経緯があったんだ』と思いましたから。このあと練習試合があって、僕は見学なので、話はその時にしましょうか」
ここで3人の簡単な入団までの経緯を説明しておくと、2001年のドラフトで石川は青山学院大から自由枠でヤクルト入りし、日南学園のエースだった寺原は4球団(ダイエー、巨人、中日、横浜)から1位指名を受けて、ダイエー(現・ソフトバンク)が交渉権を獲得。そしてこの年、夏の甲子園優勝投手となった日大三の近藤は、近鉄から7位指名を受けてプロ入りを果たした。
練習試合中、投手陣が見学するライトポールそばの内野席に行くと、石川の横には寺原が座っていた。さらに石川は、近藤も呼んでいてくれた。もともとは個別で話を聞こうと思っていたのだが、石川の仕切りで思いもよらぬ”鼎談”が実現したのだった。
石川 いま(チーム関係者が)近藤を探していますが、始めましょうか。
―― よろしくお願いします。
石川 今だから話せますけど、僕は2001年のドラフトで、ほぼほぼ巨人に(自由獲得枠で)入団することが決まっていたんです。僕も行きたいという感じでしたし。そんななかで、テラが甲子園でバーンと全国区になると、巨人が「ドラフトは寺原でいこう」となって……結局、僕はフラれたんです(笑)。
寺原 僕はどこどこが「指名します」しかなかったですから。近藤にその話を聞くまでは、そんなことまったく知らなかったですからね。
石川 近藤がヤクルトにくるまで、どういう経緯で近鉄に入ったのかも知らなかった。あとあとその話を聞くと、そんな面白いことになっていたのかと。テラはあの時、(指名は)何球団だったの?
寺原 4球団です。けど、いちばん熱心だったのはダイエーでした。ほぼ毎日、高校のグラウンドに顔を出してくれて。でも僕は”クジ”でしたからね。高校生だったので断る理由もなかったですし、「どこが引くんだろうな」くらいの気持ちでした。
石川 高校生は逆指名できなかったから、完全に受け身だもんな。ドラフトでクジを引かれるってどんな気分なの? 4分の1の確率だったけど「この球団がいい」みたいなものはあるわけじゃん。正直、あったよね(笑)?
寺原 (高校の)監督が東海大出身だったので、原(辰徳)さんとのつながりもあり、最後の方は「巨人」と言っていたんです。だから、ダイエーが交渉権を獲得した時に、ふつうは学校で胴上げするじゃないですか。あれを断ったんですよ。僕はダイエーでよかったんですけど、記者会見では「これから考えます」と。
石川 へー、そうだったんだ。九州は地元だから、ダイエーでよかったと勝手に思っていた。
寺原 今となってみれば、当時ダイエーの監督だった王(貞治)さんが当たりクジを引いてくれて……王さんのサインが入った当たりクジは今も額に入れて、家に飾っています。それはなかなかないことですので、すごくよかったと思います。
石川 テラがいなければ、予定どおり巨人に入団できた、という恨みはまったくないからね(笑)。今は本当にヤクルトの選手でよかったと思っている。当時、もしほかの球団に行っていたら……と想像すると怖いよね。でも、みんながうまいこといって、18年経って同じチームになった。面白い縁だよね。ふたりの存在はもちろん知っていたけど、話す機会はそうなかったからね。
寺原 近藤とはオリックスで一緒になって、しゃべったことはありましたが……石川さんのことは知っていましたけど、話す機会は全然なかったですからね。イメージのなかでの人でしかなかったです。無口でクールな人だと思っていたら、すごくしゃべるのでビックリしました(笑)。
石川 そうなんだよな。オレは「イメージと違う」ってよく言われる。
寺原 ピッチングも黙々と投げて、抑えても「ウォー」って叫ぶタイプじゃないと思っていたんですよ。
石川 めちゃめちゃ熱投派だからね。打たれれば「クソーッ」って腹が立つし……。それにしても、近藤がこの経緯を知っているのに、どこに行ったんだよ。
(その声が聞こえたのか、目の前のブルペンの死角から、近藤がきょとんとした表情でこちらを見つめていた。)
石川 あっ、いた。なんでそこにいるんだ。探してたんだよ。早くこっちに来てよ。
近藤 (話は)どこまで進みました?
石川 ざっくりだね。オレは巨人への逆指名がほぼ決まっていたんだけど、ヒジのケガもあり、難色を示して、「寺原でいこう」となったというところまで。結局、当時は(手でピラミッドの形をつくり、上に)テラがいて、その下にオレたちがいたというね。
近藤 そうですね。テラがいて、石川さんがいて、やっと僕がいるんです。
石川 巨人の話がなくなったなかで、ヤクルトと近鉄がすごく熱心に声をかけてくれて、本当に迷った。近鉄のスカウトだった中川(隆治)さんは青学のOBだし、当時はプロ野球のキャンプにアマチュアの選手が参加することがあって、僕は近鉄のキャンプに参加させてもらった。その時に梨田昌孝さんや小林繁さんから「すごくいいよ」って言ってもらったことがあって……。でも、最終的には古田(敦也)さんにボールを受けてもらいたいという思いが強くて、ヤクルトに決めたんだよね。
近藤 そこからですよね。近鉄はドラフト1位で石川さんを指名する予定だったのが、状況が変わってしまった。石川さんが”消えた”ことで、左ピッチャーを多く獲る必要が出てきた。それによってどんどん(右ピッチャーの)指名の枠が減っていき、ドラフト当日になって近鉄のスカウトから「近藤は指名できません」という話が学校にあったそうなんです。
石川 そんなことがあったんだ。
近藤 僕自身、そんなことは知らなかったですけど。ドラフト前は新聞や雑誌に”日大三高の近藤”の名前は結構出ていたので、ドラフトはかかるものだと思っていましたから。
寺原 ハハハ(笑)。
近藤 ドラフトが進み、チームメイトの3人はすでに指名されて、僕だけが残っているという状態になったんです。結局、最後の方(7巡目)で指名してもらえましたが、近鉄の石川さんの1位指名がなくなったことで、本当にきわどいところだったんです(笑)。これが、僕のプロ野球の世界の始まりです。
石川 結果オーライだよな(笑)。
寺原 その経緯はまったく知らなかった。僕は僕で、ドラフトには大きなプレッシャーがあったんで。4球団が1位指名してくれたことはうれしかったけど、当時は松坂(大輔)さんと比べられていたので、それがすごいプレッシャーで……個人的にはそれで大変だった(苦笑)。
石川 テラと近藤とは、年齢は違うけど同期ですからね。プロ18年目になって、ドラフトの同期も少なくなっているし、現役を長く続けたいという思いはみんな同じだろうし、仲間意識は勝手に持っています。でも、こうやって不思議な縁を持った3人が集まるとは考えもしなかった。みんなタイプも違うし、やってきたことも違うし。
寺原 18年後に3人がこうした形で集まったのは、何か運命ではないですけど……本当にいいめぐり合わせだと思うし、思い出話が楽しくなるんじゃないかと。
近藤 グラウンドレベルでは一緒に行動するかといえば、バラバラです。それぞれの調整方法がありますから。ただ終わったあとは、ホテルの食事でも、何時から何時までって時間は決まっているんですけど、だいたい開店と同時に3人は必ずいるという。そのあたりのリズムは一緒なんです(笑)。
そしてヤクルトの浦添キャンプには、石川、寺原、近藤の3人と、これまた”不思議な縁”を持った野球人が連日、顔を出している。巨人の真田裕貴スコアラーだ。2001年のドラフトで石川と寺原が入団できなかった巨人にドラフト1位で指名されたのが、姫路工の真田だった。その話を真田にすると、こんな答えが返ってきた。
「3人にそんな経緯があったんですか。僕も現役時代は、テラと横浜(現・DeNA)で一緒になりましたし、石川さんにはヤクルトでお世話になって、コンちゃんとは高校の時に甲子園で対戦しました。3人ともブルペンで投げる姿を見ても元気ですよね。ヤクルト担当のスコアラーとしてきっちりと分析はしますけど……ひとりの野球ファンとして、これからは1年1年が勝負になってくると思うので、ケガなくシーズンを過ごしてほしいという思いは強くあります。それにしても、もう18年目になるんですね」
後編につづく