4月に開幕するスーパーGTシリーズを前に、上位クラスのGT500に参戦するホンダ、レクサス(トヨタ)、日産の各陣営が2019年の体制を発表した。毎年、ドライバーの入れ替わりは多少なりともある。ただ、今年はとくに「世代交代」を感じさせる…

 4月に開幕するスーパーGTシリーズを前に、上位クラスのGT500に参戦するホンダ、レクサス(トヨタ)、日産の各陣営が2019年の体制を発表した。毎年、ドライバーの入れ替わりは多少なりともある。ただ、今年はとくに「世代交代」を感じさせるものとなった。



スーパーGTを牽引してきた小暮卓史(左)と本山哲(右)

 なかでも、もっとも衝撃が大きかったのは、長年にわたって日産のエースとして活躍してきた本山哲(もとやま・さとし/47歳)のGT500クラス引退だ。

 2017年、2018年と大敗を喫している日産は、ついに大改革を決断する。日産グローバル本社で行なわれた日産モータースポーツ体制発表会で、2019年のドライバー体制が明らかにされた。だか、そのリストに本山の名前はなかった。そして発表会の終了直後、本山のGT500引退が発表される。その日、会場に訪れたファンから彼の引退を惜しむ声が鳴り止むことはなかった。

 本山は1996年、スーパーGTの前身である全日本GT選手権のGT300クラスでデビューし、1997年からGT500クラスへの参戦を開始した。それから22シーズンにわたって日産陣営のドライバーとして活躍し、通算16勝をマーク。2003年、2004年、2008年と、3度のシリーズチャンピオンに輝いた。

 その実力はフォーミュラマシンでも大いに発揮され、スーパーフォーミュラの前身のフォーミュラ・ニッポンでもシリーズチャンピオンを4度(1998年、2001年、2003年、2005年)獲得。他の追随を許さない圧倒的なレース運びで勝利を積み重ねる本山には、いつしか「帝王」という異名がついた。

 しかし、ここ数年はなかなか結果を残せず、2015年のスーパーGT第3戦・タイを最後に勝利から遠ざかっている。千代勝正と組んで臨んだ2018シーズンは第3戦・鈴鹿の7位が最高で、ドライバーズランキングも17位と低迷。そしてついに、GT500引退の時を迎えることとなった。

 今年、本山は日産/ニスモのエグゼクティブアドバイザーに就任。スーパーGT全戦に帯同し、日産系チーム全体のサポートに回ることになった。また、GT500からは引退するが、レーシングドライバーは続けていく意向も明かしている。

 ただ、世代交代が起きているのは日産だけではない。昨年、8年ぶりにGT500王座に輝いたホンダ勢も、新たな一歩を踏み出した。東京オートサロンで発表された2019年のドライバー体制に、ホンダとともに長年歩んできた小暮卓史(こぐれ・たかし/38歳)の名前はなかった。

 2003年に全日本GT選手権のGT500クラスでデビューした小暮は、合計15シーズンにわたってホンダのGT500マシンで戦い続けた。勇猛果敢に攻めまくるアグレッシブなドライビングは人気が高く、「韋駄天・小暮」と呼ばれてファンから愛された。

 とくに、ホンダ・HSV-010で参戦していた2010年から2013年にかけては合計5勝をマークし、2010年にはロイック・デュバルとともに初の年間チャンピオンを獲得。ホンダのエースドライバーとしてライバル陣営から恐れられた。

 昨年のスーパーGTでは開幕戦・岡山で塚越広大とともに勝利を掴み、5年ぶりの美酒を味わった。だが、全盛期の群を抜く速さは影を潜めることが多くなり、今季はホンダのGT500メンバーから外れることになった。今後の去就については明らかになっていないものの、木暮が2019シーズンのスーパーGTに参戦する可能性は、GT300クラスも含めて低い。

 その一方で、レクサス陣営はすでに2、3年前から世代交代が始まっている。本山や小暮とともにスーパーGTの一時代を築いてきた脇阪寿一は、2015シーズン限りで第一線を引退。さらに伊藤大輔も2016シーズン終了とともにフル参戦から離れ、現在はau TOM’Sのチーム監督を務めている。

 ベテランがシートを離れた代わりに、レクサス勢は積極的に若手ドライバーを起用した。2019年も注目の選手ふたりがGT300クラスからステップアップしてくる。

 ひとりは、昨年の全日本F3選手権で19戦中17勝を挙げる活躍を見せた坪井翔。スーパーGTでは「町工場のGT王者」として知られるつちやエンジニアリングに在籍し、土屋武士監督のもとで成長を遂げた23歳だ。昨年の第2戦・富士では小林可夢偉の代役としてGT500クラスに初参戦し、ぶっつけ本番のレースだったにもかかわらず堂々とトップ争いを演じた。

 今年はWedsSport ADVAN LC500に加入し、国本雄資とコンビを組む。現在国内でもっとも勢いに乗っているドライバーのひとりだけに、さらなる活躍が期待されている。

 そしてもうひとりは、中山雄一。GT300クラスではフル参戦4シーズンで合計7勝をマークし、常にチャンピオン争いに絡む活躍をみせている27歳だ。安定感も抜群で、今年は満を持してGT500クラスにステップアップする。

 中山の加入するDENSO KOBELCO SARD LC500のパートナーは、GT500チャンピオン経験もあるヘイキ・コバライネン。経験豊富な元F1ドライバーから何を吸収するのか、中山の走りにも注目である。

 世代交代の波が一気に押し寄せてきた2019年のスーパーGTは、間違いなく大きな転換期を迎えている。本山哲や小暮卓史など一時代を築いたドライバーが最高峰クラスから退いていくことで、各陣営からは次世代を担う新エースたちが生まれてくるのだ。

 全日本GT選手権時代から数えて、今年で26年目となった国内最高峰のレース「スーパーGT」。新たな時代の幕開けを見逃してはならない。