ホンダF1山本雅史モータースポーツ部長インタビュー@前編

 いよいよ、レッドブル・ホンダが始動する。

 ホンダにとっては、真の意味でF1のトップチームと組み、F1のトップレベルで戦うのは栄光を極めた1990年代の第2期以来のこととなる。

 ホンダのパワーユニットRA619Hを搭載したレッドブルの新車RB15は2月13日にシルバーストンでシェイクダウンが行なわれ、18日から始まるバルセロナ合同テストでシーズン開幕に向けた最後の準備に入る。

 それを目前に控えたホンダの山本雅史モータースポーツ部長に、今の心境を聞いた。



ホンダ青山本社ビル1階に飾られたトロロッソ・ホンダの前で撮影

「本当にいい形でシーズンを迎えられます。シーズンに向けた準備をしている現段階では、今までにない楽しみなシーズンになると思っています。個人的にはワクワク、ドキドキで、『今シーズンはどうなっちゃうんだろう!?』という気持ちですね」

「F1界で最高の車体性能を誇る」と言われるレッドブルと組むこと、そして自分たちが作りあげてきた2019年型パワーユニットRA619Hの仕上がり――。それが、大きな期待をもたらしている。

 もちろん、ホンダにとって今のF1のトップレベルで戦うのは、実質的にこれが初めてであり、ホンダはまだ勝ち方を知らない。だからこその不安もある。

「正直に言うと、期待と不安が50%・50%で、若干ポジティブ寄りかなという感じです。去年はトロロッソと非常にいいコラボレーションができたと思うし、けっして悪いシーズンではなかったけれど、思ったよりも結果が出なかった。そういう意味では、反省点も多かったと思います。昨年までいろいろ経験してきたので、(その経験を生かすという意味で)今年は楽しみですね。

 話を聞くまでもなく、モノを見ればレッドブルとトロロッソの違いは十分に感じ取れるくらい違う。物作りにしても、考え方にしても、トップチームとそれ以外との差というのは大きい。もともとの目指す場所が違うから、トップチームにはトップチームの考え方があるし、僕らとしても初めて第2期の頃と同じスタートラインにようやく立つことができたな、というのが正直なところです」

 昨年はトロロッソという新たなパートナーから多くを学び、兄弟チームであるレッドブルとも共同作業を進めてきた。

 新車RB15の開発プロセスにおいては、車体とパワーユニットをどうパッケージングするかが極めて重要になるが、お互いに意見の押しつけはなく、『最適解』を見つけるためのコミュニケーションが交わされた。最速のマシンを作り上げるために必要なのは、くだらないプライドやメンツなどではなく、「正しい答え」だからだ。

 マクラーレンとの間では、名門チームと新参者という隔たりがあり、それがうまくいかなかった。ただ、トロロッソとの間では、マシン開発に費やせる時間があまりに少なかったために妥協を強いられた。

 その点、今年のレッドブルとホンダの共同作業は、非常にスムーズに進んだようだ。

「レッドブルのスタッフがHRD Sakuraに来たり、ミルトンキーンズにいる田辺(豊治)たちがレッドブルのファクトリーに行ったりしています。当初の予定から若干の遅れはあるんですけど、ほぼ計画の枠の中で進んでいます。

 レッドブルにとってはよくあることみたいで、先週クリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)に会ったら、『ちょっと遅れているけど、いつものことだから大丈夫だよ!』と言ってました(笑)。彼らはそういうことにも慣れているんでしょうね」

 レッドブル側からは盛んに、「勝利」や「チャンピオン」を意識したコメントがメディアに流されている。それだけ、レッドブルとしても2019年シーズンに期待を抱いているということだ。

 車体の仕上がりは、データ上では上々のようだ。

 CADの設計データとCFD(電子風洞)、風洞実験で、ダウンフォース発生量やメカニカル性能など、おおよその数値はわかる。それがコース上の実走でもきちんと再現されれば、RB15の車体性能はかなり高そうだ。

「クリスチャンやエイドリアン(・ニューウェイ)が言うには、車体はほぼいい感じで仕上がっているらしいんだけど、それはあくまでデータ上の話。こればっかりは実際に走ってみないとわかりませんからね。ウチが『ベンチ上では見通しが明るいね』って言うのと同じですから(苦笑)。

 でも、今のところネガティブな話がないのは事実です。クリスチャンとカフェでいろいろ話をしたんです。『車体の開発は順調だ』とモナコまでの開発計画を言っていたけど、最後に『俺たちは順調だから、あとはお前ら次第だぞ』と笑いながら言っていました(苦笑)」

 では、そのホンダのパワーユニット開発状況はどうなのか?

 レッドブルはずっとルノー製パワーユニットを使い、そのパワー不足と信頼性不足に苦しめられてきた。車体では最速でも、パワーの差があったため、メルセデスAMGやフェラーリに勝負を挑むチャンスはほとんどなかった。

 それがホンダにスイッチすることで、大きく変わる可能性がある。すぐに追いつくことはできなくとも、2019年の年間開発が計画どおりに進めば、十分に現実的な目標と言える。レッドブルはそう考えているのだ。

「レッドブルとは2019年のホンダの年間パワーユニット開発計画も話しているし、(そういったコメントは)ホンダがそれをやり切ってくれれば(勝てる)という条件付きでの話でしょうけど、彼らがそういう期待を持っているのは事実かもしれません。

 ただ、それはあくまで計画で、(ヘルムート・)マルコさんにも、『ベンチでうまくいっても実走でそうならないこともあるから、その点は常に日進月歩で、お互いに追いかけていこう』と言ってあります」

 すでにRA619Hの基本設計は終わり、現物がチームにデリバリーされている。これはバルセロナの開幕前テストを走るためのもので、最終的な実戦スペックはテスト終了後に策定されることになるという。

 パワーを上げれば上げるほど、エンジンには負荷がかかり、想定外の箇所が壊れる。3基で全21戦を戦うためには、ある程度パワーを抑えて信頼性を確保することも必要になる。

 昨年終盤戦に投入したRA618Hのスペック3では、パワーは上がったものの信頼性の問題が起きた。だが、それだけ攻めて実戦で検証したからこそ、わかったこともある。

 問題は、今年のパワーユニットでどこまで攻めれば勝てるのか、どこまでリスクを負いつつパワーを優先しなければならないのか――ということだ。

「そこはバルセロナ合同テストの結果を受けてから、開幕戦に向けて話し合います。ホンダにはホンダの考え方があるけど、それをレッドブルの考え方と噛み合わせなければならない。そのミーティングを開幕前にやります。どちらかというと、マルコさんはパワーのほうを期待しているみたいですね、『ヤマモト、信頼性も重要だけど、まずパワーだぞ』と言ってますから(苦笑)」

 もちろん、最初から壊れるとわかっていてレースに出る者はいない。

 しかし、パワーユニットが4戦しか保たなくて年間5基が必要になり、2度の最後尾スタートペナルティを受けたとしても、それ以外のレースでパワフルに戦えるなら、十分に勝ち目がある。レッドブルはそう考えてもいるようだ。

 昨年何度も見せたように、マックス・フェルスタッペンには、後方からのスタートでも抜群のタイヤマネジメントでトップまで挽回してくる腕がある。

「レッドブルのマシンパッケージを考えたとき、車体性能やドライバーの腕でペナルティも十分に挽回できるので、『1基や2基は増えても構わないよ』と言うのなら、それはそれで成立するかもしれない。

 我々が積み上げたデータや考えに対して、最終的にはコンストラクターの意見もリスペクトしたいと思っています。そこは彼らがリードしていくべきだと、僕は思っています」

 2015年にF1に復帰して以来、これまではどこか保守的な面があったホンダだが、今年は違う。レッドブルというエネルギッシュなチームと組み、アグレッシブに攻めていく。彼らにはそれを実現するだけの技術力もある。

 あとは、ホンダがパワーと信頼性をバランスさせたパワーユニットを作りあげ、マシンパッケージとしての『最適解』を導き出すだけだ。

(後編につづく)